働け!こちら異世界転生管理局

期待の新筐体

お仕事その1 「僕は異世界転生にします!」

「・・・モテたいんです」

「なるほど」


異世界転生の目的として多い理由の一つがこれ。

現世でまったくモテなかった人たちが異世界でハーレムを築いていることに感化されてか、酒池肉林の願望が絶えない。

今日もまた、大体20代後半くらいの男性が、夢見て異世界へと足を運ぶ。


「ただ、初めにお断りしておきますが、異世界に転生すれば必ずモテるといった保障はできません。やはりそこは本人の努力の末というか魅力に依存してきますので・・・」

「大丈夫です!異世界だったら僕でも絶対上手くやれますから!」


その自信はどこからんだよ・・・。

そんなに自信満々だったらちょっと頑張れば現世でもやれるだろうが。そもそもモテたいのは私の方だって言うってのに・・・。

大体こんな仕事してるから男の人との出会いとか全然ないし、毎日毎日異世界に転生したいって夢想家ばかり来るから休む暇もないし、異世界と現世との手続きも面倒で大変だってのに軽々とモテたいとか言いやがってぇ・・・。


「あの、コーディネーターさん?どうかされましたか?」

「いえ、何でもありませんよ。それでは細かいところを詰めていきましょうか」


心の中では愚痴をこぼしつつも、私はプロ。

きちんと公私混同はしないように気を付けている。


「それではまず転生のパターンですね。どのコースがいいですか?」

「すみません、勉強不足で・・・。どれがどうなのか、イマイチ良く分からないんですよ・・・」

「では一つずつ説明しますね」


異世界へ行くパターンは大きく分けて3つある。

まずは異世界転生。

これは言わば生まれ変わりに近いもので、現世での容姿をすべてリセットして向こうで新しい生命として生きること。

二つ目は異世界召喚。

これは現世での姿形そのままで異世界に召喚されること。

三つ目は異世界憑依。

これは元々異世界に住んでいる住人の誰かの体を乗っ取ることだ。


「どうされますか?現世の顔そのままでモテたいなら異世界召喚になりますが」

「うーん、でも僕って容姿普通だし・・・。ちょっと自信ないですね」

「でしたらイケメンとして転生しますか?多少、お値段は高くなりますが」

「高いのもなぁ・・・」

「もし単にハーレムを味わいたいというのなら、元からモテモテな方に憑依するという手もありますよ」

「でも、やっぱりそこは自らの力でハーレムを作りたいじゃないですか」


面倒くせぇなぁ・・・。

そんな感じで優柔不断だからモテないんじゃないの?


「すみません、ちょっとだけ時間をもらってもいいですか?3時間くらい!」


長いわ!!全然ちょっとじゃねぇし!!


「あ、あのー、3時間は少し・・・。次の方も控えてますから・・・」

「あ、そうですよね・・・。分かりました、じゃあ30分で決めますので!」


30分でも長いと思うけどな・・・。

とは思うものの、考えてみれば自分の今後の人生を決める大事な場面。

当事者にとっては簡単に決められるものでもないか。


30分後。


「決めました!僕は異世界転生にします!せっかく別の世界に行くんだから、やっぱりまるで新しい人間として生まれ変わらないと!」

「そうですか、かしこまりました。でしたら決めなければいけないことがいくつかあります。まず年齢ですが、何歳がいいですか?」

「うーん、そうですね・・・。18歳くらいですかね。今考えれば、僕が一番ノッていたのもそれくらいだったと思うし」

「容姿とスタイルはどうしますか?」

「やっぱりそこはモデルさんみたいに!お金に糸目はつけませんので!」


私はいろいろなモデルが載っているカタログを取り出してお客様に渡す。

自分がなりたい大体の顔を選んでもらうためだ。完全に理想通りにすることはできないが、だいぶ近いものにはできる。

それにしても、一度決心したら財布の紐が緩くなることで。

さっきは高いのもなぁ、とか言ってたくせに。ま、私たちにとっては儲けになるからありがたいけど。

その後、細かいところをいろいろと話し合って、最後の質問に移る。


「それでは最後に・・・。死に方はどうしますか?」

「へ?」

「異世界転生の場合は、現世に体を残しておくわけにはいきませんので、一回死んでもらう必要があるんです」

「そ、そっか、そうですよね・・・。異世界転生って、死んでから、っていうのが王道だってよく聞きますもんね・・・。でも、いざ言われると怖いですね・・・」

「あぁ、そこはご心配なく。今、ここで話したすべてのことは、あなた様がここから出られると記憶から消えます。なので、死に対して身構える必要はありません」


すべての異世界転生者は、こうして事前に入念な打ち合わせをしている。

ただ、覚えていないだけだ。

だから、実際に異世界に転生したものは、不遇の事故で死んだと思うし、異世界で生まれ変わるのも、神様の悪戯かなにかだと勘違いするわけ。


「うーん、死に方かぁ・・・」

「もし希望が無いようでしたら、私たちの方で決めておきますが」

「あ、はい、じゃあそれでお願いします」

「かしこまりました」


---------


しばらくして。

彼は無事に現世での生活を終えて異世界へと旅立った。

どんなものかと異世界の彼の様子を覗いてみると、転生して間もなく何だかんだでハーレムを築いているという訳の分からない展開になっていた。


「ねぇ、いつも思うんだけど、何で彼女いない歴=年齢の肩書き持ってるのに、異世界に行った途端、急にモテモテになれるわけ?」

「アナザーワールド・ラックって奴じゃないの?ビギナーズ・ラック的な」

「ビギナーズ・ラックねぇ・・・」

「対して、レイン・アーワル・カーネーション、通称レーネ21歳の女の子は、今日もまた出会いのない日々を送るのだった」

「だー、うっさい!!んなことイチイチ確認すんな!!」


仕事終わり、女性の同僚がいつものように私をからかう。

ホント、30までに出会いが無かったら、私が異世界に行こう。

そう思うこの頃だった。


次回に続!


【ちょっと教えて!異世界転生!】

Q、異世界転生にかかる費用ってどのくらいなの?

A、異世界転生のプランによってピンキリです。

本当に、何の条件もつけずにただ単に異世界に行きたいだけならあまりかかりませんし、かなり細かくすべてを決めるのなら、国家予算並みの費用がかかります。

ちなみに、現世にお金が余った場合は、異世界の通貨に交換して、後々転生者の方に偶然を装って手に入るように手続きしますよ。

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