第2話 お前らそれでも四天王か!!


 私は城内の会議場で椅子に腰掛け、四天王たちを待っていた。


カオスとアビスに命じて我が魔王軍最強の魔王四天王をここに呼び出した。

それは無論、魔王ザリュード様が亡くなった今、魔王軍をどう運営していくかを議論するためである。


「………」


「あっ、これはこれはソウリュウ様…お早いお着きで」


無言で会議場に入って来た人物を確認した私は椅子から立ち上がり恭しくお辞儀をする。


彼は四天王筆頭『巨剣のソウリュウ』…見上げる程の幅広の大剣を背負い、自身で討ち取ったと言われるブルードラゴンの殻を素材に魔界一の名工に作らせたフルプレートの鎧を纏った巨人族の戦士だ。


 巨人といっても身の丈は3メートル程で、巨人族としては小柄な方らしい。

ただ彼はそれがコンプレックスのようで、周りに馬鹿にされることが多々あったが、血の滲む様な剣技の研鑽を積み、やがて魔王様に認められるまでになった文字通りの叩き上げだ。

ただその実力に似合わず極度の対人恐怖症で、四天王でありながら部下を二人しか持たない。

そして無口…会議で自ら発言した事は一度もない。

いいのかそれで…と常々思う。


『何だ何だ…!!せっかく人間どもを蹴散らしまくって気分爽快な所を急に呼び出しやがって…!!』


「申し訳ありません…とても重大な案件が発生しましたので…ご容赦を」


『フン…!!手短にしろよ!!俺はすぐに戻って続きをしたいんだからな!!』


 ガラガラのしわがれ声でドスドスと大きな足音を立てながら入場して来たのは『甲殻獣ヒュウガ』…四天王一の暴れ者である。


 蟹と人間の中間の様な姿の5メートルを超える真っ赤な巨体で、四対八本ある長い脚は上から三対は腕として使われ、下一対二本は足として二足歩行している。

更に上一対は大きな鋏になっており、残りの四本の腕に持つ巨大な棘付き棍棒で数万の人間を叩き潰してきた戦闘狂…戦闘に酔い、頭に血が上ると敵味方見境なく暴れ回るので味方からも恐れられる存在。

発言の内容からは知性的な言動は感じられず、常に自分の殺戮衝動を満たす事しか頭にない。

要するに『話が通じない』相手と言う奴だ。

ヒュウガ様は血の気を押さえられないのか会議場内だと言うのにこん棒の素振りを始めた。

これから会議だと言うのにどうかしている。


「まぁ!!止めなさいよヒュウガ!!危ないでしょう!?」


『うるせえ!!俺に意見するな!!』


「まあまあ、お二人共落ち着いて下さい…ショウカク様どうぞこちらへ…」


「フン…シャープス、あんたも魔王様の補佐なんだからこの荒くれ者を何とかしなさいな」


「申し訳ございません…」


今しがた入って来た女性にヒュウガ様の居ない方から着席する様に着席を促す。

この女性は『美翼のショウカク』…四天王の紅一点だ。


 雪の様に白い肌と艶っぽく結い上げられた白髪の和服美女…佇まいはどことなく花魁を思い起こさせる。

彼女は二つ名に違わず先端に行くほど黒くなる白く美しいツバサを背に生やしている…それ美しさは正に鶴そのもの。

 先程のやり取りで分かる通りヒュウガ様とすこぶる仲が悪い。

彼女は椅子に着くなり煙管を取り出し煙草を燻らせ始めた。

あの、魔王城は全館禁煙なんですが…と心の中で注意した。

この人も例にもれず機嫌を損ねると物凄く怖いのだ。


『ゴホッ!!ゴホッ!!煙イナ…煙草ハ勘弁シテクレナイカしょうかく…』


「あら…あんた居たの…」


 煙草の煙で今迄空いていたと思われていた席にぼんやりと姿を現したものが居た。

最後の四天王、『視界不良ホワイトアウトのキリシマ』だ。

ショウカク様は慌てて煙草を消した。


「キリシマ様困ります、せめて入室の際は一言掛けて下さいとあれ程…」


『済マナイネ、ツイ…』


 何故か片言でしゃべり、一度もその姿を仲間にも見せた事が無い。

今みたいに煙で輪郭が見えそうになるとすぐに姿が不定形になるのだ。

種族は何なのかが気になると同時に彼は常に裸なのだろうか?という疑問が頭を過る。

いずれにしても彼については未だに謎が多い。


 しかしどうして四天王には変なのしかいないのだろう…。

今更ながらザリュード様の人事に不満が出て来た。


「え~全員揃った様なのでこれより会議を始めたいと思います…」


席に着いた四人は今は一様に静かだ…このまま何事も起らなければ良いが…。


『勿体付けずさっさと用件を言え!!』


 今始まったばかりじゃないか…やっぱりせっかちで短気なヒュウガ様が食いついて来たな…まあいい、もとよりすぐに切り出すつもりでいたのだから。


「今朝、魔王ザリュード様がお亡くなりになりました…」


『何だと!?』


「シャープス、それ本当なの!?」


『ナント…』


「………!!」


 ソウリュウ様も無口ながら驚いている様だな…取り敢えずここまではよい、

問題はここからだ。


「はい…ドクター・テンパランスに診てもらいましたので間違いありません…それでこの先魔王軍はどう運営するのがよいかと思いまして皆様にお集まりいただいた次第です」


 さて四天王はどう出て来る?

私の予想ではヒュウガ様が自分が仕切ると言い出し、それをショウカク様が止めに入り言い争いになるのではないか。

ソウリュウ様とキリシマ様は覇権争いにあまり興味無さそうだし…。


「ねえ確認なんだけど…」


「何でしょうショウカク様」


「これは次の魔王を決めるって流れなのよね?」


「そう取って頂いて結構ですよ…立候補はいらっしゃいますか?」


『俺様はご免だね…』


 えっ?そうなの?本当にそれでいいの?ヒュウガ様…あなたは一番に名乗りを上げるだろうと思っていたのに…。


「それは何故です?」


『魔王になんかになったら城で座って指示出すだけになっちまうじゃないか、俺は前線に出て暴れまくりたいんだよ!!軍の統率なんて他の奴がやってくれ!!』


 ヒュウガ様…軽くザリュード様をディスってらっしゃる。

そうか…ああそうだったな、この人はこう言いだしてもおかしくなかった。

とにかく人間を叩き殺すのが大好きでしたねこの蟹。


「私も嫌よ?城に引き籠ったら私の美しさを愚民に見せ付けられないじゃない」


 何ですかその理由…女魔王もそれはそれでありでしょう?


 ソウリュウ様に目を移すと彼は右手の手刀を縦にして済まんのジャスチャーをしながら全力で頭を左右に振り続けていた。

あなたも駄目ですか…そうなると残るは…全員の視線がキリシマ様の座っているであろう席に集中する。


『オイオイ…コンナ姿ガ見エナイ俺ニ仕エタイッテ兵士ガ居ルト思ウノカ?』


 確かに…って何なんだこの人材不足感は!!全然ダメじゃないか!!

魔王軍なんて力こそすべてな実力主義社会にあってどうして皆こんなに無欲なんだよ!!

 普通、争いになってでもトップに上り詰めようとする物だろうが!!

ここは一つ喝を入れてやらなければ…。


「あの…差し出がましい事を言うようですがこの中のどなたかに魔王になって頂かないと魔王軍は総崩れ…あなた方も今迄の様に好きに振舞えなくなってしまうのですよ!?

どうかご決断を!!」


 固まる四天王…そうだ、誰か立候補しなさい。

みんな勇者や人間どもに負けたくないでしょう?ほら早く。


『コウイウ事ハサ…しゃーぷすガヤレバイインジャナイカナ?』


 何ですと~!?キリシマ様、何言っちゃってくれてんの!!


「あ~そうね、シャープスって実際取り仕切るの上手そうよね!!」


 ショウカク様!!あんたも何言ってんの!!


『おっそうだな!!城に籠ってるだけだから攻撃力なんていらね~もんな!

そうだそれがいい!!珍しく意見があったなショウカク!!』


「あんたと意見があっても嬉しくないわ…」


『何を!?』


 あんたら犬猿の仲だった筈だろ!!何でこんな時だけ同調してるんだよ!!


「………!!」


 ソウリュウ様が必死に拍手している…あんたも俺に押し付けると言うんだな魔王の職を…。

ここで私の頭の中のネジが5~6本飛んだのを感じた。


「あ~~~分かりましたよ私が引き受けましょう!!但し魔王代理として暫く軍を動かしますけどザリュード様が亡くなった事だけは秘密厳守でお願いしますよ?」


 会場内に拍手が響き渡る…もうどうにでもなれ…おいカオスとアビス!!お前達まで拍手するな!!


 こうして半ば押し付けられる形で不肖私シャープスが魔王軍を取り仕切る事になったとさ。

チクショウ!!私は上に立つより誰かの補佐をしていた方が性に合うんだよ!!

だが今となっては後の祭りであった…。

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