第26話 勇者のセーブ13

月の光も弱い真夜中、


まるでコソ泥のような気分で村に送り出されたが


どうしろというのか








「そもそも魔女がそんな堂々と村にいたら、村の存在を疑うよ...」





誰もいないと思って独り言も自然にデカくなる。


大抵こういうことをするタイミングで横を通り過ぎる人が出てきて


恥ずかしい思いをするが、さすがに今回は








「今、魔女とおっしゃいましたかな...?」





「ひゃああッッ!」








少女のような悲鳴が出てしまった。


出て当然の状況だが





声を掛けたのはおじいさんのようだ。








「ああ、申し訳ない。なりからして怪しい人ではないのは分かっています。


 兵士の方でしょう?」





「あ、はい...そうですが...」








大きな街ごとに兵士の鎧にはエンブレムが刻まれているが、


それを知っている人なんだろうか?


あまりベグンは特徴のない街で有名なくらいなのだが......








「それにしてもお一人ですかな?後に続いて来れるかと思いましたが...」





「あ、ああ、自分一人です。その、夜分にすみません」








例え近くの街の兵士と分かっていながら怪しんでこないことが


尚更この時間に起きているおじいさんへの不信感が高まった。








「こちらには要件があって来たのですが...ちなみにあなたは?」





「ええ、自分はしがない老人にございます。先ほどまで門番をしていました」








ああ、なるほど門番だったのか......





となるほど自分も鈍くは無い。





さすがにこの夜更けに、それもおじいさんに門の番をさせるとは異常だ。


そもそも門らしい門といえば、簡単にくぐり抜けできる小門しかない。








「何か門番をしなければならないほど緊迫した状態にあるのですか?この村は」





「いや、なにせ恐ろしい魔獣が聖界でありながら多くいるとされる


 妖の森が近くにあるわけでして、村としては見張りでも置かなければ...はい...」








この言い分は最もだ。





しかし......








「それはご老人であるあなたがなさらなくとも良いのでは...?」





そう聞くと今までハキハキとした話し方と表情に曇りが出た。





「...はえ?...そうで、ございましょうか...?」








急に顔を抑えたり、首を傾げてみたりと


言ってみれば年相応の仕草をし始めた。





段々と薄気味悪くなってきたが...








「あの~、中に入っても宜しいでしょうか?


 魔女...人探しは宿屋にでも泊まってからしたいのですが...」





この時間にしっかりやっている宿屋があれば、その門戸を叩く事が憚られるが......








「...ああ、そうだ。ワシは門番じゃ、何をしているんだ...」





様子がおかしい、先ほど俺が言った事に変な影響を受けてしまったか





「おい、アンタ...!こんな夜更けに何のようだ!」








一番最初にされて当然の反応がここに来て返ってきた








「そうだ!わ、ワシは!ぼッ...クッ...アアッ!!」








急にうずくまってもがき始めた








「だ、大丈夫です...か...」





心配の声を掛けかけた時、





うずくまったおじいさんの体が膨れ上がり、





獣のような体毛が急激に生え始め











「アオオォォーンン!!」








目の前に狼男が現れた

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