勇者の敗北
第24話 勇者のセーブ11
カサカサ...カサカサ...
俺の目を覚ましたのは気分の悪い音であった。
しきりにする音に一気に目が覚めて寝袋から飛び起きた。
そろりと今度は音を立てないようにテントの入り口を少しだけ開けると
「そこにいるのは分かっている、出てくるんだ人間」
出待ちをしてくれている少女がいた、
下半身が大蜘蛛の。
そう言われてはと身支度の許可を取るために顔を出すと、
周りには正真正銘デカイ蜘蛛そのものがこの開けた場所一帯にたくさん見えた。
至るところからする足音からしてテントの死角にもいることだろう
つまり包囲状態にあり、もう手遅れだ。
「ちょ、ちょっとだけ時間くれるかな?」
ダメもとでとりあえず聞いてみる。
「...いいわ、こっちも話があって来たから」
聞いてみるものだ、
願ってもない交渉をあっちからしに来てくれるとは......
......それにしても彼女がしたい話とは何なのだろうか?
ガチャガチャとけたたましく音をさせて鎧姿になってテントを出た。
いざって時は命を守ってくれる装備をしていなくては危険だ。
剣は持ち出さなかったが、
今の格好が話をするのに十分好意的な姿には見えないことが欠点だ。
そんな外観で出てきた俺を気にも留めず彼女は手元の何かをいじっている
ってあれは...!
「俺のメンター!」
つい大きな声を出してしまい彼女を驚かしてしまった。
と、同時に周りの大蜘蛛が歯を鳴らし合わせて一斉に迫ってこようとする
「待てッ!!」
すんでのところで彼女がハリのある声を出して蜘蛛共を止めてくれた。
もう俺は身をすくめて動けなくなっていた、
あのままだったら死んでいたことだろう。
「盗る気は無かったわ、これでおあいこよ」
メンターを放って寄越した、
危うく落としかけた。
こういう反射神経が俺は悪いのだ。
というかテント内にあったのにいつ盗ったんだ?
よく彼女の足元を見るとバックが落ちている
入り口に置いていたからテントの中を確かめられた時か......
「あ、でもやっぱりおあいこじゃないわ。あなたは悪いわよ」
ぶしつけにそう言われたので手元のメンターから彼女に目線をサッと移す。
焚き木の明かりで弱い木漏れ日でしか見えなかった彼女の全身がよく見えた。
本当に蜘蛛に女の子を突っ込んだかのようだ。
「ジロジロ見ないで、この子達の餌に今すぐするわよ」
その一言に姿勢を正して人間部分だけを見つめることにした。
「ご、ごめん。気を付けるよ...」
「...それで話なんだけど」
さあ、いよいよ本題だ
何を持ちかけてくるというのだろうか。
「その...アンタが勇者ってやつなら頼みがあるんだけど」
彼女は何か不安げな表情で交渉を求めてきた。
...え?
というかそもそも
この俺が勇者に見えるっていうのか?
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