第21話 魔王のセーブ11
「そしてこのズィーラどの様な価値があるかと申しますと...
簡単に言えば勇者を強化するこのクリアな養分が
ご覧の通り変異して我々魔王を強くする栄養剤になったとでも言いましょう」
その言葉にどの魔王も側近と会話を交わしたり
魔王同士で顔を見合わせたりして、
動揺が走っている事が見て取れた。
良かった、
中にはペテン師呼ばわりしてくる輩も予測出来たが
素直に信じたか、欠席のようだ。
そもそも12人中7人しか来ていないのだからここで出鼻を挫かれては困る。
そして思いつきを一言付け足した。
「ちなみにですがこの変異...
我々の技術無くして為し得られるものでは、ありません」
キッパリと言うと更にざわめきが増した。
少し危険な賭けだったがどうやら信じ込んだようだ。
後ろでも動揺があったのは台本に無いアドリブをしたからだ。
アトリックは笑いをこらえようようとしているが
「お、おい!それは本当なのか!」
そう勢いよく席から立ったのはオーガ族の魔王・ダモンだ。
力と体格が売りの種族出身ながら比較的人望があったことにより
魔王に任命された男だ。
強さはあっても地頭では大したことはない。
必死に同じくらいの知能の配下と話し合って、
確証を得る答えが欲しかったのだろう。
栄養剤であることか、我々の技術が必要なことか分からないのが丁度良い。
言質にはならないだろう。
「ええ、間違いなく」
ざわざわと話し合いの声がデカくなってきた。
割と好感触だ、嘘つき呼ばわりの会場大嘲笑に包まれて
セールストークどころではなくなることも考えたが上手くいった。
「では、もしこちら欲しい方が
いらっしゃれば在庫はいくつかございます。
会議終了後にお声掛け下されば応じます」
そうスッと自分から初めて
人間の魔王のために小さく作られた椅子に気分良く座った。
さあ、これで大成功
では、まだない。
仕上げはこれからだ。
隣を見るとオプファーがわざとゆっくり片付けさせているズィーラに釘付けだ。
周りの魔王も少なくともこちらには目線は向いていないようだ。
「よお、オプファー。いつもの嫌味は無しか?」
ゴブリン族の魔王・オプファーはその矮躯な体をビクッと震わした。
領土の位置づけと同じように席も決められているためこいつが俺の隣だ。
意識がズィーラに向いていて話しかけられて意表を突かれたようだ。
「な、なんだよシュヴァッハ。勇者をた、倒したなんてデタラメ、
オイラは信じないぞ!」
「その割には俺の商品を熱心に見つめてたじゃないか」
その発言にギクリとまた大きな耳が揺れた。
「なあ、声を落とせよ。良い話がある」
「な、なんだよ」
ゴブリン族特有のキーキー声で話されていては
騒然としている会場を必死になだめようとしているアエテーよりも目立つ。
「ほれ、これ受け取っととけ」
サッとテーブルの下で紙を渡す。
他の種族に合わされて作られた高いテーブルで、
他の魔王が背の低い二者が秘密裏に物を渡す動作をしているなど
見抜けるわけがない。
まじまじと短く分かりやすく書いてやったメモを
ちんたらと読んでからやっと理解したことが分かった。
「本当か!!」
甲高いデカイ声で。
こんの馬鹿ッ!
「ああ!そうだよ!たまたま勇者が転んでねえ!!」
こっちまで合わせるためにアホっぽい大声を出す羽目になった。
周りの目線はこっちに向かっていたがなんとか誤魔化せた。
「ったく...声を抑えろと言ったろ...!」
「わ、わりィ。でもこれ本当なんだよなあ?」
また声のトーンが上がってきていたので適当に返事をして話を切り上げることにした。
本来ならここで場所や持ち物も的確に指示したかったがしょうがない。
追々怪しまれるかもしれないが指令を送るとしよう
画して何とかズィーラを売りつける(前提の)相手(ターゲット)が会議中に
決まったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます