第2話 魔王のセーブ2

本当に戦いは一瞬だった。


恨みを晴らす戦い、雪辱を果たす戦い。


呼び方はどうあれそれは大事な一戦なはずだった。





だが勝負は俺の一つの魔法で終わっていた。





母から受け継いだ還元魔法{ゾルクマ}だ。


たったこれだけで勝敗は決した。





その効果は本来、

『相手の能力に付加される魔法の効果を打ち消す』程度のものだ。


俗に言う『打ち消し魔法』だ。


この還元魔法はそういったせっかく掛けた魔法の効果を吹き飛ばすものとして


煙たい者が使うとこれは聖魔両国での認識であり、





特に上流階級の方々はこのみみっちい魔法がさぞお嫌いな様で、


おかげで我が家系の没落を招いた要因の半分にされたのだ。


ちなみに『打ち消し魔法』の蔑称は聖国からである。





しかしそんな扱いを受けた還元魔法であるが、


俺は実の母親がそれの使い手として研究をしていたことを誇りに思っている。


あの人は最期の時も、

致命傷を受けた母親の手を握ってやることしか出来ない俺にこう言った。





「あたしが死ぬ直前まで究明した還元魔法を、あんたが引き継ぐんだ。


 あれにはそれだけの価値があるからね...」





そう言うとあの人の俺の手を握り返す力と命は失われた。





今でも脳裏に焼き付く最期は、


修行の中で諦めかけた俺を奮い立たせ、


過去に想いを馳せて弱る俺に喝をいれてくれた。





そして母の残した指示と自身の我流の模索の末、


たどり着いたのが





≪打ち止めよ、無に帰せ{リトゥーンベイターム}≫





である。





これの効果は絶大であり、


結果、弱体化もとい元の状態になった小鹿の様に立つことも出来ない脱力した勇者を討った次第だ。





奴らは我ら魔国、ここでは奴らが我々を呼ぶ総称の「魔族」で形容するが、





俺の還元魔法の極致を一言にすると





『勇者が今まで魔族を殺して得た成長値{ズィーラ}をも無効にする』





というものだ。





聖国の住人には一人一人分かりやすく強さ{レベル}が数値化・可視化されるらしく、


勇者にはそれの数値を魔族を殺すことによって成長値(経験値とも呼ばれているらしいもの)を得て、


上げていくことが出来る能力を初めに付与される。





この能力を「浄化」と聖国では呼ばれている。





仕組みは未だ分からないが、奴らの勝手な解釈では、





『魔族を殺すと、その穢れた肉体によって次第に悪性に憑りつかれた魂が開放され、


 それが勇者の力添えをする』





というものらしい。





これは打ち止め{セーブポイント}というものを使用することで、


浄化の能力上昇が永続されるとのことだ。








しかしそんなものも俺の還元魔法の力に掛かれば完全に消え去ったのだ。








よってそれを奪われた勇者は言ってみれば初期{レベル1}の状態になる訳だ。


当然大した魔法も技{スキル}も無く、

何より実力{ステータス}が未熟な勇者では


魔王クラスの前では虫けら風情もいいところだ。





それに使って分かったが、掛けられた方は相当の脱力感に襲われるらしい。


その内に造作もなく葬れるとなっては


勇者であることが俺と対峙した時、脅威になるだろう。








それにやっとこの戦いで初めて究極の還元魔法の力を使ったに過ぎない。








我が還元魔法の威力が『勇者の成長値をも引き剥がす』というのなら


この力を他の敵に対して行使した時、


どれだけの効果を挙げるかは計り知れない。





同業者の憎たらしい魔王にも相当の効果を挙げるのではないか...?


勇者よりも貧弱な聖国の奴らがこれを受けたら...?








想像すればするほどに確かな実感に変わっていく。











天に拳を突き上げ、グッと握りしめて喜びに打ち震えた。








今ここに、還元魔法は完成したのだと。





母の悲願は達成されたのだと。


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