必死に努力してチート級スキル「打ち止め破壊」を得た最弱魔王が、最強と呼ばれし勇者達に復讐しつつ魔王の頂点の座も狙ってみせる。一方孤児院育ちの兵士が盗賊にクラスチェンジから無双して、最強勇者を目指す。

晃矢 琉仁

最弱魔王の真価

第1話 魔王のセーブ1

「そんな...そんな馬鹿な...!」








かの最強の勇者・エレクゼルは膝をついた。


過去に何百、何千という戦いを一瞬で勝利の血祭にした男は、


幾度も聖国に来たる侵攻軍を凌ぎ、


幾度も魔国に攻め入っては一番槍として武功を上げた男は、








その何千の戦いに埋もれていた魔王でありながらと最弱と揶揄され、


たった一撃の内に仕留めたはずの男の前に跪いているのだ。








「確か貴様はそちの国で一番の剣の使い手として名高い者だったな...」








最弱の魔王の汚名を持つ男、シュヴァッハは


今ここに最強の剣士に止めの一撃を放とうとしていた。








「こんなことがあってたまるか!


 俺は第二次聖魔大戦でも多くの魔物や魔王の首を討ちとり、


 束の間の平和になった後もずっと修行を続けていた!


 それが...!」





「俺の前では無駄な努力だったな。」








そう吐き捨て、ゴミを燃やすかのように


最下級の火炎魔法{フレイマ}を指先からぽっと放った。


火の手は勇者の胸元からバッと広がった。





「うわアアッ!!」





「はっはっは...悪く思うなよ...少しは苦しんで貰わねば困る...」





「があっ!ま、まだッ!死にたくない!アアッ...!た、スケ...!」





勇者が焼けていく様を見ながらシュヴァッハは邪悪な笑みを浮かべた。





そして徐々に厳格な顔つきに戻った。


今までの苦悩の日々が目に浮かんできたのだ。











魔王という魔国において国の領土を分割して魔神より

任される最高位の立場に生まれながら、


シュヴァッハは心も生活も貧しさから抜け出せる時は片時も無かった。





父は自身の能力の底上げをする付加魔法{アウフマ}の使い手で、


母は外敵の能力を形無しにする還元魔法{ゾルクマ}の使い手であった。








だがそれは魔王の家系が扱うものと呼ぶにはひ弱な魔法だとされていた。





絶対的能力は魔王に元々備わっているものであり、


それを底上げして魔王気取りとは......





外敵の能力など魔王の持つ圧倒的な力によって捻じ伏せるものであり、





相手の力を打ち消すことで差をつけている者が魔王気取りとは.....








数えられない程の侮辱と恥辱を受けた我がリベリオヌス家は、


段々と聖国との戦争における防衛と侵攻の成果を挙げて


領土を拡張する他家の魔王に、


聖国との境界線の最前線の土地までに追いやられた。








当然我が家の得意としている売りの魔法は魔国での上流階級には貧相と


受け取られているのだから重宝する部分もあるとの温情も無く、


領土は減らされ、ジリジリと危険な領域まで背中を押されるように、


聖国の防壁が目に見えるまでになってしまったのはあっという間であった。











そうしている内に役5年を数える第二次魔聖大戦は始まってしまった。


満足な教えも受けられぬまま魔王の地位を継承した俺は戦争に駆り出され、


最前線の拠点としてリベリオヌス家の城は陣地が敷かれた。


結果、完全な敗北と共に我が家系の領土は散々に荒らされた。








何も出来なかった。


なけなしの勇気を奮って放った魔法はあっさりと聖剣に弾かれ、


必死の抵抗は霊験あらたかな盾の前に霧散し、


一矢報おうと放つ渾身の一発はきらびやかな鎧が無効にした。





そうして俺はたった一撃で討ち伏せられ、


意識が朦朧とする中、仲間達の悲鳴を聞いた。





生まれた頃から俺を知る乳母のメイスさんも、


いつもお節介を焼いた執事のラト爺も、


そして父親も母親も皆、皆殺された。





戦闘員は当然として非戦闘員も聖国の奴らは構わず狩り尽した。


敵の兵士は精神までも鉄になっているのか黙々と俺の仲間を殺した。


そして勇者は笑っていた。


なんと言っていたか...経験値がどうだとか...











そう、あの土煙と鉄の匂いがした戦場を今も覚えているんだ。














そしてその時、


あの完敗の絶望感と、


多くの家来と家族を殺されて漂った失望感を俺に与えた








敵軍の一番槍将軍、エレクゼル・ザードを、


今は廃城になった我が城の玉座の一室で





魔王シュヴァッハが、倒した。


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