2-3 適材

 裏口から外に出て、指定された脱出ルートを走り始める。横道から誰かが出てきた。

 ブラムだ。頭に黒い袋を被せた男を連れている。


「お楽しみでした?」


 ブラムが並んで走りながら冗談を抜かす。


「楽しむ余裕は無かった」


 俺が薄ら笑いでボケると、ぶっ、と水瀬みなせ監察官が噴き出した。


「感じ変わったじゃん? 何、おそろい?」


 ブラムが水瀬監察官をじっと覗く。


「お陰で表のお仕事から外されちゃった」


 水瀬監察官が事情を話す。


「いや、あんたはこっちの方が向いているよ。前から・・・思ってた」

「……何だ、バレてたんだ」


 水瀬監察官は自嘲的な笑みを浮かべて、ふとスカートの裾を気にする。


「随分大胆に攻めましたね~」


 上下黒で決めて、超ミニスカート。黒のブーツ。両耳にピアス。それで銀髪にゴールドの瞳。どう見ても遊んでいる女の子にしか見えない。


「仕事だから……」


 顔を背けて、恥じらいを見せる。俺は、どきり、として、水瀬監察官を直視出来ない。


「むっふふっ」


 ブラムが嫌らしい笑みを浮かべる。


「ブラム」


 俺が咎めるように呼ぶと、いひひっ、と締めの笑い声を漏らした。

 やれやれ、とため息をついて、正面を見た。通りを塞ぐようにバンが止まっている。ドアがスライドして開く。


「こっちだ」


 コモンズとジョンソンが車内から手を伸ばしている。


「ほら」


 ブラムがブローカーを車内に押し込む。俺とブラムと水瀬監察官も乗り込む。


「出せ」


 コモンズが運転手に命じると、急発進で走り始めた。


「そちらのレディーは?」


 ジョンソンが水瀬監察官の素性を俺に聞く。


「日本のエージェントだ。こいつが、日本からマイアミキングダム殲滅作戦に参加したホシビトという点を政府高官が憂慮している」

「では、身元の保証は出来ると?」


「クリーンだ」


 俺が自信を持って言うと、ブラムも乗ってくれた。


「立場を分かっている賢い女性だ。いざとなれば戦闘員としても使える」

「ほう……オガミと容姿が似ているな。ホシビトか?」


「政府側の、ね」


 水瀬監察官が英語で答える。


「結構だ」


 ジョンソンが了承してくれた。コモンズが全員に言う。


「ここから不用意な発言は控えてくれ。アジトの場所をこいつに知られたくない」


 これに俺もブラムも水瀬監察官も失笑する。


「いや、素人に言う事だったな」


 コモンズも笑い出し、ジョンソンに肩を小突かれた。


「この少数でよくやってくれる。我々も人事採用を考えないと。君たちのような精鋭に現場を譲るべきだな」


 そう語るコモンズの顔は何処か寂しげだった。

 CIAの戦闘員か……それも悪くないかも知れない。俺たちにはニンゲンに無いセンスがある。この手の現場では光るだろう。

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