1-2 白い天使

『敵機との接近まで二十秒』


 FATAファータのナビゲーションを聞きながら、俺は燃料とオイルの残量を見ている。

 残り三十機。普通の操縦をしていれば、恐らくその半分を撃墜する前に力尽きてしまう。


 だが――。


『ホーミングレーザーマルチロック』


 目の前の敵機に赤くロックオン表示が重なる。


『撃ちます』


 空を裂く閃光が無数に飛び交う。逃げ惑う敵機が四方八方から囲まれる。命中の直後に、連続して大爆発が起こった。


『敵機残り二十四。内十八が反転しました。当機に接近中』


 そうなるだろうな、と微笑んだ。ここで足止めをするのは、戦術として当たり前だ。六機の内一機でもホワイトハウスに辿り着けば、向こうが勝ったも同然。


 そこで燃料とオイルの残量の話題に戻った。ここで十八も一気に削れば、残りはたったの六。


『賭けに勝ちました。最適解を継続中』


 そういう事だ。こうなる事をFATAは予測していた。こうならなければ、負けていたはずなのだ。


『ホーミングレーザーマルチロック』


 FATAが無慈悲に死の宣告をする。赤くロックオン表示が敵機に重なっていく。数は十八。


『撃ちます』


 空を裂く閃光が無数に飛び交う。俺はその中を加速していき、後方で大爆破が起こったのをウィンドウの映像で確認する。


『敵機残り六』


 FATAがカウントして、ガンッと機体が揺れたのを感じた。

 渡り鳥でも激突しただろうか?


『直撃を受けました』


 FATAの状況報告で、ぎょっとした。画面上の左翼に赤い表示が出ている。


『左翼損傷。全損です』


 唖然とする報告だった。


『伏兵が出現。数三』


 やられた! ここで気を取られている隙をついた不意打ち。

 だが、俺は冷静さを失わない。PXプラズマライフルとE7ハイパワーを手に、囲い込む三機を睨む。


『推力、七十パーセントダウン』

「まだ飛べるか?」


『飛行には問題はありません。ロケットのように飛び続ける事は可能です』

「十分だ」


 両手のライフルの引き金を引く。一機に命中。動揺して動きを止めた二機を狙い撃ち。


「追撃を継続する。やれるな?」

『追撃を継続。エンジンの限界を試します』


 フォーミュラが再加速を開始する。俺は前しか見ていない。正直左翼の惨状を見たら、心が折れてしまうかも知れない。それが怖かった。

 だが、俺の揺れる心とは裏腹にフォーミュラの加速は怖い程に乗っていた。これが本当に片翼を失った機体の飛行だろうか? 嘘みたいにちゃんと飛んでいる。


『エンジン臨界までの時間を予測しました。残り三百秒』


 後五分。さて、六機全てを食ってしまわないと。


『ホーミングレーザーは発射不能です』

「……」


 俺はライフルを捨てた。


「これで重さが少し減ったな?」

『臨界までの時間を四十秒稼ぎました』


「よし!」


 俺は左前腕から閃光剣の柄を抜いた。

 こいつで決めるしかない、必殺の烈風を。だが、一瞬で六機の超音速の敵を仕留める、その至難の業をやってのけるには、失敗を恐れぬ度胸と鬼神に通ずる集中力を要求されるだろう。


 ここで最適解を自ら導いてみた。一つ、やってみたい事が、ある。


「飛行は任せる。技に集中させてくれ」

『マスターを信じます』


 FATAがオートクルーズに切り替えた。これでコントロールはFATAがやる事になる。俺は、キリョクの溜めに入った。


 南極での修行の日々が脳裏を過ぎる。その全てを、これにつぎ込む。


『報告。機体全体にキリョクのオーラが湧き上がっています。失った左翼を補うようにオーラが……』


 そうらしい。そうイメージしている。新たな烈風を放つ準備で発生した余剰キリョクをそちらに回した。これで少しは飛行が安定する。


『敵機との接近まで十五秒』


 俺はFATAのカウントを聞きながら、気を集中した。一瞬だ。神が瞬く間に全てを終わらせる。


『三、二、一、ゼロ』


 俺は烈風を放った。


『烈風・せん


 それは光の格子だった。それはまるで叩き潰すように敵を圧殺し、みじん切りにして見せた。

 ばらばらになった敵が俺を見る。


「白い、天使」


 かっ、と顔が細切れになった。残骸が落ちていく。


『……敵機を全て撃墜しました。ここから最も近い基地は、ムーディ空軍基地です』

「持つか?」


『最善を尽くします。全て私に任せて下さい』

「頼む」


 はぁ……。

 俺は気を静めて、目を閉じた。


 キングダムの殲滅は上手くいっているだろうか?

 ふとそんな事を考えていた。


 早急にフォーミュラを修復して、現場に戻らないと。

 

 意識は次の場面に切り替わっていた。

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