第二部 空と海と呪われし大地

序章 マイアミ

「我々の目をごまかせるとでも思ったのか?」


 英語で恫喝どうかつされた。以下英会話日本語訳の脳内変換でお届けする。


 相手の少年は、灰色の迷彩服を着ている。米軍の旧式? 顔はしっかり目出し帽で隠して、グリーンの目しか判別出来ない。


「素顔を見せろ、英雄オガミ」


 リクエストを頂戴して、俺はにやりと笑った。椅子に縛り付けられているが、またしても拷問されるとは、己の運の悪さにつくづく嫌気が差す。


 鏡を向けられる。そこに映っているのはバタ臭い白人の少年の顔だ。それがモザイク処理されて、あっというまに尾神おがみキセの顔に変わってしまう。


「日本の技術は恐ろしいな。シート型の変装マスクとは」


 べりっと顔からシートを剥がされた。俺は、両眉を持ち上げて、やれやれ、と呆れたポーズを取る。


「大統領の娘は、もうここにはいない。無駄足だったな」


 そう強気に言われて、俺は声を出して笑った。


「……何がおかしい?」


 ガンッ、と思い切り殴られた。俺は首を横に振って、おどけて見せる。


「何が目的だ?」


 別の少年が割って入ってきた。幾らか頭の良さそうな奴だ。さて、そろそろ頃合いか?


「大統領の娘は、このビルの六十五階だ。見張りは十五人」


 俺が声に出して言うと、上階で爆発音がした。


「!?」


 俺の胸のタイピンには盗聴器がついている。


「フ〇〇〇ーックッ!」


 ド汚い台詞なので、一部伏字。

 周囲が動揺して注意が逸れた一瞬の隙を見て、キリョクの刃で身体を縛っていたワイヤーを切断した。そのまま窓ガラスに向かって走っていく。


 手を振って、キリョクの刃を放出し、ガラスを吹き飛ばす。


 空に、飛び出した。


 地上八十メートルからフリーフォール。ライトギアを纏い、後方から接近する機体をウィンドウの映像で確認する。俺のフォーミュラ。


『ドッキングします』


 レーザーセンサーで誘導された機体が、俺の背部とドッキングする。

 前腕と腰部に装甲が装着される。地面が後二十メートル。ブースターの推力で急上昇する。


『アルファワン、パッケージは確保した! パッケージは確保した!』


 コールサイン『アイスマン』。ジュリアンだ。


『戦闘行動を許可する! 戦闘開始! 東京の二の舞にしてやれ!』


 上官の許可が下りた。


 俺たち日本のホシビトは今アメリカにいる。

 マイアミキングダム攻撃のために徴集されたのだが、大統領の娘であるテイラーがこともあろうに誘拐されるというアクシデントに見舞われ、急遽きゅうきょ仕事が一つ増えた。


『もはやマイアミは地獄……遠慮はするな!』


 ジュリアンがげきを飛ばしている。

 空をライトギアが飛び交っている。まるで天使と悪魔の最終戦争。

 兵器開発にはうってつけの実験場だ。日本の製品も幾つか持ち込まれている。このフォーミュラの同型機も……すでにアメリカへの技術参入は進んでいた。


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