3-3 赤い悪魔

 東京ドームが燃えていた。


 天蓋が割れて、穴から炎が噴き出している。


『何だ、あれ?』


 ブラムが西方向を気にしている。新手だ。だが――。


「味方……の信号だな。初めて見るけど」


 ダブルローターの大型輸送ヘリで運ばれている。

 

 ワイヤーで吊るされた戦車だ。四脚で大型、上半身が人型だ。右肩に担いだロングキャノンが異常にでかい。


『こちら第八十二独立大隊。アルファ、こちらの射線上に入るな。繰り返す、射線上に入るな』


 一方的で高圧的な口調。


 ワイヤーから機体が外される。着地も、どすん、とふてぶてしい。


『……ああ、陸自のモルモット部隊。戦闘技術研究所の新作? 対ライトギア戦を想定した戦車か』


 ご丁寧にブラムが説明してくれた。ここにわざわざ現れたという事は――。


「こちらアルファ、敵部隊が接近中。後方支援につく」


『後ろで見ていろ、化け物』


 思っていた通りの事を言われた。


 あの戦車は、ニンゲンがホシビトに勝利するための試作品の一つなのだろう。どう見ても武装が大き過ぎる。


 左肩のミサイルポッドもヘビー級ライトギアを意識したものに見える。発射後、一気に極超音速まで加速するタイプに違いない。


『敵機が射程圏内に入ります。試作戦車の照準が捉えました』


 ロングキャノンが発射された。


 轟音一閃。


 衝撃で周囲の建物の窓ガラスが盛大に割れた。続いて、ミサイルポッド発射。八発撃ち切り、全弾が敵機に命中した。


『前進する。そこで指でもくわえていろ』


 ぷつりと乱暴に通信が切れた。


『どうする?』


 ブラムが俺に聞くが、明らかに鼻白んでいる。俺も同じ気持ちだが、あの戦車の威力を見れば、ニンゲンの知恵にも敬意は生まれる。


「後方支援につく。俺たちはニンゲンの味方をしに来たんだ」


『ああ、面倒だ……。世話焼かされなきゃいいけど』


 ブラムが余計な事を言ったが、しっかりプライベートチャンネルで通信している。


 通信をオープンチャンネルに切り替えた。


『ふははっ! 見たか! ニンゲンの力を! 死ねっ! 何度でも、死ねっ!』


 ドカドカ撃っている音が聞こえる。トリガーハッピーだろうか?


『少しは遠慮ってもんをしな』


 ブラムが的確なコメントを出している。


「敵の残数は……凄いな、一気に殲滅したぞ」


 スキャンに表示されていた敵機が消えた。


『新たに敵機が接近してきます。速度マッハ十二……単騎です』

「何?」


 FATAのナビの通り、単騎だ。戦車に急速に近づく。


『何だ、あれは……? 赤い悪魔? 味方じゃないぞ!』


 戦車からの通信がかすかに聞こえる。敵機の出現か? 赤い悪魔って?


『え? 何あれ?』


 ブラムが呆然としている。


 俺もそれがゆっくりと上昇してくる様をじっと眺めている。


 戦車だ。陸自の試作戦車が宙に浮き上がっていく。何かに持ち上げられている。


『止せ! 止せえぇぇぇぇー!』


 戦車が豪快に放り投げられた。


 地獄の釜と化した東京ドームのど真ん中、見事にチップインして、イーグルに成功。


『戦車との通信、途絶しました。新たに出現した敵機から通信が入っています』

「繋げ」


『……ザザッ』


 ややノイズが入る。


『東京キングダムにようこそ、尾神キセ、ブラム・ヘルマン』


 戦車を投げ飛ばしたそれの拡大映像がウィンドウに表示される。


 全身が赤い。大小六枚の翼があるが、フォーミュラは装着していない。サイズはミドル級に見えた。


『私は、この国の王、灰羽かいばレイ』


 慈悲深さを感じさせる声だ。


『キングダムは、ホシビトたちの国だ。共に手を取り合うつもりはないか?』


 手を差し伸べる王レイ。


「……」


 俺はゆっくりとL3をレイに向けた。


 俺には、守りたいニンゲンが、いる。


『そうか……。ならば、殺し合おう。死が猶予を許さぬ、その時まで』


 赤いライトギアがキリョクのオーラを纏い、天に舞い上がる。


 俺は、L3へのチャージを開始していた。




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