3-4 烈風

 L3を発射する。


 極超音速の光の矢が赤いライトギアの腹部中心を貫いた。


『やったか?』


 ブラムが言っているが、俺はL3の再チャージを始めている。赤いライトギアがいた位置がうっすらとぼやけ始める。


『残像?』


 そういう事だ。俺とタイプが似ている。


『敵機接近、真上です』


 FATAの警告音が鳴り始める前に、俺は後方宙返りをしていた。高速で通り過ぎる赤い影が、閃光剣を振り下ろしている。


 その頭上にL3を発射した。左前腕から閃光剣の柄が飛び出し、回転するそれを左手で掴む。


 正面から来た赤いライトギアの剣を光の刃で受けた。


 バチバチとプラズマが散る。


『見えているな?』


 奴は何処か愉快そうだ。


「あんたの動きは分かりやすい。剣士としては一流だけど」

『言ってくれる』


 思い切り前に押されて、体勢を崩された。


 がら空きの胴目掛けて、赤いライトギアの剣が迫る。ブーストを吹かしながら身体を捻った。


 ぐるりと回転したその勢いのままL3を撃つ。しかし、手応えは無い。


 相手もブーストを吹かしながら身体を捻っていた。互いの顔を見つめ合いながらすれ違う。


『すっげ! バケモンじゃねーの』


 ブラムが呑気な事を言っているが、後にしてくれ。今はこいつとの戦いを、『楽しみたい』。


 赤いライトギアが突きを連打する。全て命中。残像に――。


 背後に回り込み、L3を背中に向ける。


 発射の一瞬前に避けられ、互いに肩をぶつけ合った。ブーストの吹かし合い。くるくると空中で互いが両翼として回転する。


『噂以上だ。惜しいな』

「あんたの事は聞いた事もない」


『それは、そうだ。政府が意図的に伏せていた』

「何を?」


『今は、まだ知る段階ではないさ』


 回転に捻りが加わった。奴の剣が右腕に――斬られた。


「ちっ!」


 破損したL3を強制排除する。新型ライフルが爆発四散した。


『剣を構えよ』


 赤いライトギアが顔の前で剣を立てる。俺は手首を捻りながらくるくる閃光剣を回して、調子を取る。


 すーっと閃光剣を後ろに流して、相手から見えないようにする。これで出だしは見えないはずだ。


『来い!』


 急かされたが、俺は間合いをはかっていた。奴の反応速度の限界は如何程か? この構えからどう出るかでおおよそ分かる。


 奴が剣を正眼に構えたのを見て、機を決める。


 フルブースト加速からの切り上げ!


 深くいった! 


 奴は……反応出来ている! 


 光の刃同士がぶつかり、反発するエネルギーで互いの位置がスライドしていく。滑るようにすれ違う、その最中で互いに次の一撃を放っていた。


 横からの振りはやはり相打つ。ぶつかり合う衝撃で周囲の黒煙が吹き飛ぶ。


 奴は……手を抜いているようには感じない。今の俺と力は五分。速さはやや引けを取っている。


 恐らくライトギアの性能差。俺の作り込みの甘さが原因。


 ならば、一瞬でも互角以上に持ち込もう。


 間合いを取った。剣を下げ、目を閉じる。


 イメージ。イメージだ……奴と互角以上の自分の姿を決めろ……。


『警告! フォーミュラとの接続部に成形異常が発生しています』

「心配するな。一瞬だけ、少し入り込む」


 ほんの一瞬だ。奴を上回る形態に進化する。


『警告! 成形異常尚も増大……あっ!』


 FATAが甲高い声を上げ、俺は閃光剣を構えた。居合の格好。あれを放つにはこれがいい。


『必殺の剣か。受けて立とう』


 奴が乗ってきた。気を集中させて、更に集中。


 放つのは一瞬だが、決め切れるかどうかを見極めるにはこの節が重要だ。相手が待ち構えてくれるのは、この上もない幸運。


 ――よし。やる。


 剣を放った。実体の無い剣といえど、要領は同じ。神の瞬く間に動作は終了している。


 奴は……胴が千切れ飛んだ。


「いい技だ。フレッシュだ」


 奴の肉声が聞こえる。技の余波か、兜が割れていたようだ。豊かな長い黒髪が風になびく。


「女?」


 少女だった。唖然として、上半分で撤退するレイを見送る。


「また会おう、星戻しの剣士」

「……」


 奴は……何を言った? 何の事だ?


『成形異常が修正。少し隙間が広がりました。戦闘継続に障害が生じています』


 FATAが警告サインを表示している。


『キセ、ここまでだ。一旦撤退する』

「アルファワン、了解。撤退する」


 何とかフォーミュラを庇いながら西へ進路を取る。心なしか、FATAの信号に揺れが生じている気がしたが、まあ、俺が乱暴だったのだろう。

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