3-1 出撃前

 東京キングダム強襲作戦開始三十分前。


 俺はフォーミュラの最終チェックを行っている。計器のチェック、火器管制システムのチェック、その最中に警告が出た。


「フォーミュラとの接続異常?」


 モニターにはそう表示されている。フォーミュラに搭載さている人工知能『FATAファータ』とのコンタクトを試みる。


「FATA、コンディションに問題はあるか?」


『……』


 返事が無い。


「FATA」


 俺が少し咎めるように呼ぶと、やっと音声を出した。


『三か月のブランクへの対応に追われています。パイロットとの意思疎通を要求します』


「了解した」


 笑い出しそうになるのを堪えて、FATAとのコンタクトを試みる。


「この三か月、ずっと南極にいた」

『詳細を説明して下さい』


「八火殻の刀を巡る高度に政治的な問題への対応だ。雲隠れをして、その間ずっと一人で剣の修練に励んでいた。決して、現場に出る事を拒否していたわけじゃない」

『私への拒絶ではない?』


「ずっと会いたかった。これは本当」

『……状況を診断。サポートを再開します』


 どうやら機嫌を直してくれたようだ。システムオールグリーン。


『久し振りの現場はどうよ?』


 ブラムがやや揶揄するような口調で俺に聞く。


「温かくていいなって」

『ははっ、FATAと触れ合ったり?』


「いや、マイナス百度の世界とか、寒くてさ」

『……なかなかポイント高かったよ?』


「肺が凍り付いて、出血したりさ」

『何で三か月も持ったの? 普通心が折れるっしょ?』


「キリョクの使い方がちょっと分かってきてさ。最初の二週間で大分教えられたよ」

『……前から思ってたけど、お前って変だよな?』


「は? 何処が?」

『自覚無いか……自分の肉切り取って料理始めた時、ドン引きした事あるけど?』


「食い物が用意出来なかった場合を想定して……身体は元に戻るけど、腹が減ると心がやばい」

『で、自分を食べるって発想なわけ?』


「味は悪くなかった。食自の後で、力が少し上がったような高揚感があるしな」

『……多分、そんな事考えてるの、お前だけだろうけど』


「だろうね。でも、生きていかないとさ……アルファワン、発進準備よし」

『アルファツー、発進準備よし』


 フォーミュラを載せたリフトが、リニアカタパルトへ移動していく。

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