主人公補正だらけの転生一人旅
@Atomicnumber_174
第1話
俺は「主人公」が嫌いだ。
努力しただけで「その道に一生を捧げてきた相手」にすら勝ち、才能があるだけで「そのためにデザインされて生まれた相手」にすら勝ち、生き残らなければ不自然で、死んでも生き返り、万一負けてもそれは仕方ないで済まされ、女に人気があり、高校生にもなってパンツを見て見ぬ振りすることすらできない。
そんな「主人公」が俺は大嫌いだ。
だのに。
「貴方は異世界に転生することになりました」
美しい声、官能的な肉体、無垢な笑顔。
宗教学的な意味でも、また見た目的な意味でも正しく女神と呼ぶ他ない目の前の存在は、ひどく楽しげにそう言うのだった。
然るに。
浮世離れし常世に至った俺が、その事実を受け止めるにあたり絶叫し乱舞し悲哀し発狂し、そこから平時の思考を取り戻すまでに少しばかり時間を要したのも、尋常な反応であると思いたい。
「何をすれば良い」
大袈裟に言えば幾星霜を経て、大袈裟に言わなければ数刻を経て、ともあれ平静を纏った俺の脳みそが弾き出した、今言うべき言葉がこれであった。
こういった神性には理由を尋ねるような質問はほぼ丸っきり無駄となるだろうと考えた。価値観も何もかも違うのだから、話が通じる筈がない。
目的を聞くよりもゴール、終点を定めてもらった方が何かと動きやすい。終点があればの話だが。死人に口無し、死んだ後のことは経験談として残せないのだから、平静となった今となれば予想の立てようがないことに至る。
なお現実逃避した際に予想したのは「勇者となりて悪を砕け」だった。それ以外に思いつかないだけなのではあるが。
「チートスキルあげるのでハーレム作って世界救って王様になって魔族もまとめ上げて無双してスローライフして幸せになってください」
理解しがたい言葉が羅列され俺の脳髄をきつね色になるまで焼いてくれた。お陰で少しは思考が澄んできたというものである。
意味不明、意図不明、理解不能。しかし大意として「楽な人生を歩め」というのは伝わる。いよいよ目の前の存在が悍ましく思えてきた。
さて、この手の言葉には往々にして裏があるものである。この女神のような姿をした珍妙な存在の口が紡いだ音の羅列が、俺にとって嘘偽り詐欺欺瞞ペテンイカサマ丸め込みのない言葉であると、どうして言えようか。
それに、もとより何を言われても返す言葉は決めていた。
「断る」
逆上して勝手に力を押し付けた上で転生させられる可能性、また逆に素寒貧のまま異世界に放り出される可能性もあったが、その時はその時だという楽観がなかったでもない。
いざとなれば死ねば良いのだ。転生と言うからには一度死んでいる身なのだから。
しかし女神は逆上するでもなければ慌てた様子もなく、どうやら落ち着いたままだった。そして頭をひと掻きし眉を歪め先程とは打って変わり、凡そ女神らしからぬひどく俗っぽい声で言うのだった。
「あれ、こう言えば今の子って渋々っぽい顔して大喜びで転生するんだぜ、って先輩言ってたんだけどな」
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