15分で書いた短編集
雅 清(Meme11masa)
『にわか雨の彼女』 テーマ:女の子、光、傘
降り出したにわか雨によって交差点を歩く人々は背中を押されるように軒下へと逃げていく。
ただ一人、交差点の真ん中に少女を残して。
彼女は信号も車も気にしていない、車はその側を通り過ぎる。
軒下から信号を眺める人たちにその姿は見えていない。ここに居る誰一人として彼女の存在を認識できるものはいなかった。
彼女は舞う。弱い雨をうける両の腕を上げワルツを踊るかのように。
地面を蹴り、蹴散らす水は光を受けプリズムとなって彼女の足元に三色の光を放射状に投影に万華鏡のように変わっては拡散し消えていく。
雨を掬うように円を描く手からは水がしたたり、その滴は空気中に軌跡となって留まり彼女の動きをその場に残した。
何の舞であるかなど誰にもわからない。何故ここで、一人で、姿も見えない彼女。わかるのは彼女が人でないということだけ。
彼女が僅かにできた水溜りに手を入れ、ゆっくりと引き抜くとその手には傘が握られており、それを広げまた舞っている。
ワルツのようであったが時にそれは民族的な仕草をみせ、指の一本一本から足の先に至るまですべてに力がこもる。決して強張ることも無く、柔らかすぎず。
傍を通り過ぎる車が跳ね上げる水はその舞台の一部かのように彼女を引き立て、雲の隙間から差す光を受けて小さな虹をほんの少しそこに置いていっては消えていく。
舞を止め、空を見る。
遠くの雲、遠くの光、雨の行き先。そして走り出す。小さな水溜りの上だけを軽快なステップを刻みながら。
信号は赤から青へ、にわか雨は去り、そして彼女も去って行く。その先には別の雲、別の雨がある。
誰にも知られず、誰にも見られずただ彼女は舞っている。
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