第97話 腕力強化


「鍛冶場、できたんだって?」

「は、はい!」


 騒ぎを聞きつけたマスターが階下からひょっこりと顔を出した。


「+3以降は失敗するとロスるから気をつけてなー」


 AnotherDimensionの鍛冶システムは必要な素材とEPを費やし鍛冶作業を行うことで『アイテム作成』と『強化』ができる。熟練度や費やすEPによって成功率が異なり、+3以降の強化では失敗すると素材だけでなくベースとなったアイテムまでロストしてしまう。


 EPを湯水のように使える界主モモカはあまり苦にならないが、界主とはトレードができないので鍛治をお願いすることもできない。

 ネット情報では、界主が装備を鍛え上げてから討伐してドロップさせるという荒業も載っていた。


 相変わらず難易度がクソゲーだ。


「とりあえず、試しにやってみるか」


「わ、私は『アイテム作成』してみますっ」


 三基ある鍛冶場の一基を占有して鍛治メニューを眺める。『強化』に装備していた『賢者のローブ』を指定してみると『被ダメージ軽減強化』『MP自然回復率強化』『MP消費軽減強化』『重量軽減』と特殊効果毎に強化メニューがあるようだ。


 強化の場合、+5から5強化毎に特殊効果がランダムに付与されるらしく、ノーマル状態で特殊効果が2つ付いている『賢者のローブ』はかなり優秀だ。ちなみに被ダメージ軽減と重量はどの防具にもある。


 とりあえず1番効果を実感している『MP消費軽減強化』を指定すると+1にするには最低100EP、成功率は99%と表示されている。


 強化ボタンを押すと、タイマーと残りカウントが表示されてモーションの説明が流れる。要は1時間以内に100回叩けということらしい。


 この位ならと素振りを始めると向かいのモモカは既に素振りを始めていた。


「何を作るんだ?」


「て、手持ちの素材で獄岩盾という盾が作れそうだったので試してみたんですけど……6時間以内に1000回でした……」


「1000回……」


 モモカは既に吹っ切れているのか能面のごとく表情をなくしていた。


 確かに、秒間1回振れば17分くらいで終わる。しかしだ。多分50回くらい振っている俺の腕でさえ既に怠い。休み休みやるにしても気の遠くなる作業だ。


 鍛治作業とは、お試しとかそんな軽い気持ちでやるものではなかった。


 3分ほどで軽快な電子音とともに鍛治の熟練度レベルが2になった。そして出来上がったのがコレだ。


 賢者のローブ+1

 被ダメージ6点減少(+1)、MP自然回復率+50%、MP消費軽減+11%(+1%)、重量5


 被ダメージ軽減も伸びたとは言えこの伸び幅はキツい。EPを多めに費やして+5で追加効果を狙ってみるかと思っていたが鍛治作業がつらい。


 やはりと言うか+2への強化は最低EP200だ。多分200回振れだ。


 うーむ。悩ましい。


 向かいのモモカはまだ振り続けている。


 何となく1人寂しく振り続けさせるのもはばかられる。完了音が鳴った時に一瞬羨ましそうな目をしていたのだ。


 俺は何も言わずに、次の強化メニューを実行することにしたのだった。

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