第92話 己の中の勝利と敗北
「私も詠唱短縮が欲しくなりました」
「想定よりニーズが強いので冒険者ギルドの詠唱短縮獲得サポートも料金設定を見直ししたほうがいいかもしれません」
出張が必要な分も合わせると結構な数のバックオーダーが貯まってしまっていた。消化するためのスケジューリングも思っていたより難航している。必要な時間がかかり過ぎるのだ。
「ギルド員の増強も必要そうですね」
「育成方法はさておき、昔のSE仲間にも声をかけてみようと思います」
天ぷらの盛り合わせもやってきた。ビールもいいが日本酒にいきたい。しかし、さくりとした天ぷらを食べると当然蕎麦も行きたくなる。
「田辺さんなら自力で詠唱短縮いけませんか?」
「実は、
思わせぶりな視線だ。
「蕎麦、頼んじゃってもいいですかね?」
「え? ええ。いいですが」
カボスと塩でいただく塩蕎麦もあるようだが、天ぷらに付いていた塩もある。
「すいません。ザル一枚お願いします」
「はいよ。ザル一枚」
「
「タンクなら固定砲台路線もアリですよね」
「なるべく早めに取れたらなと思っているんですが」
しばらくして出てきたのはこれまた繊細な蕎麦だ。
何もつけずに数本
「すいません! 熱燗一本つけてください」
戻ろうとした店員さんに急いで声を掛ける。
「あいよ。熱燗一丁ね」
「さいとーさん、ここから熱燗ですか」
「ええ、これはあれです。急いだほうが吉ですね」
喉をゴリゴリと刺激する太めの田舎蕎麦も好きであるが、喉越しよく冷えた蕎麦ならばあれだ。
やってきた熱燗をぐいと
意思を持つかのような清涼なるせせらぎが、喉を渓流の如く優しく強く流れ落ちて行く。
「……Splash Mountain」
後からやってきて鼻腔を駆け抜けたカツオ出汁や山葵の香りとともに吐き出された言葉には意味なんてなかった。ただただ……スプラッシュでマウンテンだった。
「さいとーさん、美味そうに食べますよね。私の話、聞いてます?」
「……自力でいけそうって話ですよね。聞いてますよ」
「いえ、早めに頼めないかって話なんですけど」
「田辺さん、戻りはいつですか?」
「明日の昼の便です」
「出張対応は当分無理かと」
「明日の朝までになんとか!
こうして、
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