第81話 老子バカボン
アイコンタクトとジェスチャーを駆使し、餃子バーを逃げるようにこっそりと退散した俺は、ひとり計画を立てるために隣の建物の燻製のお店でちびりちびりと日本酒をやっていた。
さほど腹が減っているわけでもない時には、こんなちょっとつまめる肴と日本酒が丁度いい。
目の前には、照りが付いたししゃも、たらこ、チーズの3種盛り。手には爽酒極振りの純米酒だ。
たらこに箸を入れ、酒を含むように味わう。
落ち着く。やはり1人飲みと魚卵は最高だ。
ススキノ攻略計画にはやはり威力偵察からだろう。
カウンターの隣のお客さんが頼んだ卵の燻製の橙の宝石のような黄身の輝きが目を惹く。いいカットだ。
「すいません。卵と枝豆の燻製下さい」
「はーい」
ここの店員さんは若いイケメン揃いだ。浮気するのだろうか。
それにしてもEP売買が冒険者ギルドでやれないのは誤算だった。あのクソゲーは取引を行うためには近場にいる必要があるから冒険者ギルドで一括で取引できると利便性が高いとふんでいたのだ。個人間取引だと複数人とセッティングしなければならない場合が発生する。
それでも、安く仕入れたければ複数人と取引しなければならず時間がかかる、早く仕入れたければ割高な大口から一回の取引で仕入れる、のような選択肢があるのは悪くないのかもしれない。
まずは一般的なものにするために利用者を増やすべきだ。気軽に利用してもらう工夫もせねばならない。株取引のザラ場のような掲示板でも作ってみようか。
「卵と枝豆でーす」
「ありがとうございます。あと薫酒のおすすめをください」
きた。
口の中一杯に広がる黄身のまろやかさを酸味のある酒で流し込む。
「……changeable」
魚卵もいいが鶏卵も良い。
なるほど。浮気とはこういうものなのかもしれない。
浮気はよく、食べ物に例えられる。
「ラーメンが好きでも毎日ラーメンだと飽きるだろう? 違うものを食べるからこそラーメンの良さが引き立つんだよ」と、どこかで隣になったラーメンと女が好きらしいおっさんが語っていた。
しかし、自分にとって女とは……そもそもラーメンのように気楽に触れ合える存在ではないのだ。同列には考えようがない。
イケメンとヤリチンは新型ウィルスに罹って爆発しろ。
いや、ヘイトはよくない。酒が不味くなりそうな考えを振り払う。
目の前には、すでに幸せなものがあるのだ。例え手に入れても持て余すものを高望みはすまい。
足るを知る。
それでいいのだ。
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