第79話 ライバル出現
「しかし災害対策室って何をやっているんですかね?」
「被害状況の確認くらいですね。専門外の公務員が集まったところで根本的な解決はありませんね」
「……そんなもんですかね」
あんたも公務員ですよねという心の声を押し留め、歩を進める。顔を向けると読まれそうだ。
創成川を渡り、陽が沈みシャッター街と化した二条市場を横目に古びた建物に入る。
「お、さいとーさん。いらっしゃい」
相変わらず薄暗い店内は都合よく暇そうだ。
「珍しいね。2名様かい?」
「はい。こちら冒険者ギルドに出向されてきた佐藤さんです」
「佐藤りつ子です。よろしくお願いします。こちらでギルド業務を行うのですね?」
「ははぁ。さいとーさん紐付きかい?」
「どうやらそうなりそうです。クラシック下さい。佐藤さんは?」
「私も生で」
「あいよー」
「ギルド業務はこちらを間借りして土日の昼間はアルバイトにお願いしようと考えています」
「そうしていだだけると捗ります」
顔色を変えずにそう言い放つ佐藤女史に、何がとは聞かない。既にガチ勢なのは聞いている。
「社長、ギルド業務についてなのですが、懸賞金の管理と詠唱短縮サポート以外には何をお考えですか?」
社長と呼ばれると違和感がある。佐藤女史の社長秘書には違和感はないが。
「斉藤で構いません。他にはアイテムやEPの売買を考えていました」
「アイテムの売買はともかくとして、EPの売買ですか……」
「……何か懸念でも?」
「日本円で売買ですよね?」
「そうなりますね」
「ゲーム内通貨と言えども換金性が高いと資金決済法に抵触する可能性があります。EP売買も業として行うと恐らくは……」
なんと……面倒な。
「公式もEP売買をやっていますよね?」
「公式は一度仮想通貨を通しているので仮想通貨交換業者がマネーロンダリング対策をやっている……という建前ですね。そもそも国内法が通用しない海外企業ですし」
「なるほど……では仮想通貨を使えば」
「国内ですと仮想通貨交換業者扱いですね」
なん……だと……。上手く回せば1番手間なく利益が上がりそうだと考えていたのに……。管理だの監査だの人手が必要なことはやりたくない。
「でも、業として行わなければとりあえずの回避は可能かと」
「と、言いますと?」
「冒険者ギルドは手数料を取り募集掲示板に掲示するだけにとどめて、個人間取引にしてしまうなどですね」
「……実質は自分が個人として常設で出しておく感じですか」
「話が早くて助かります」
それはそれで税務署からマークされそうだ。個人的に。
「難しい話してるねー。はい生2つ」
マスターにも夜のギルド業務を担ってもらうことになるので問題と解決策を説明していくと、ふんふんと頷いていたがやがて口元がにやりと吊り上がった。
「ということは誰でも募集依頼を出せるってことね。俺も参加しよーっと」
Oh……
でもその方がいいのかもしれない。大事なのは目先の利益ではなく、
隣で粛々と杯を傾ける佐藤女史であったが
「りっちゃん。お酒強いのー?」
「いえ、もう酩酊してます」
……うそやろ。まだ一杯目の半分やぞ。
「えー? 酔ってるように全然見えないけどー」
「私、飲むとすぐ記憶なくなってしまうんです」
ちらりとこちらを向いた眼鏡越しの瞳が、妖しく光っている気がした。
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