第55話 魔法検証


 札幌駅北口にある大浴場のあるホテルで一夜を過ごした。サウナはなかったが朝食バイキングは堪能できた。


 お客様の田辺さんカイザーへ、詠唱短縮の報告をメールでしたところ興奮状態で電話がかかってきたので、自分のテンションはやや落ち着いた。

 人って興奮状態だと話題が支離滅裂なのだなと妙な感慨を得た。自分も気を付けよう。


 とりあえず、他の魔法で検証に入りますと伝えたが中々興奮は収まらず、現状の業務委託契約はもう打ち切り通知出しておきますから早く起業を!何なら個人事業主でも!と、早くも退路を絶ちにきていた。


 いや、個人事業主じゃおたくの会社さんは取引口座開いてくれないでしょ⋯⋯。落ち着け。


 クールダウンした俺は、長時間接続するなら界の主に話を通した方がいいと言われていた事を思い出し、顔の広そうな餃子バーのマスターに相談するとホクダイ界の主に話を通しておいてくれた。


 気兼ねなく魔法の検証を行える様にビジネスホテルをとり、AnotherDimensionクソゲーアプリを立ち上げる。

 まず検証に使うのは、全然使っていない消費MP9で唱えられる初級火魔法の消火ファイアファイティングだ。

 延焼の状態異常を回復する魔法だがイースト攻略でも使用する重要な魔法だ。あまり使う機会がないだけで。



 15時過ぎから始めた魔法検証だが、 有り体に言って苦行だった。MP自然回復量も考慮して一分間に一詠唱、一時間で詠唱60回。ノートに成否を記載しながら試行を続け、やけくそになりつつ21時近くになった頃、ようやくそれが発現した。


―Skill―

 火球 cost: 8

 消火 cost: 10 詠唱短縮

 火矢 cost: 15 詠唱短縮

 ⋯⋯


 試行回数300回、詠唱成功回数251回、成功率は83.7%だった。300回か⋯⋯。


 とりあえず初級火魔法は300回の成功率80%くらいで問題なくいけそうだが、80%という数字だと、フィールドではかなり厳しい数字だ。

 イヤホンマイクを使っていれば少しは軽減されるが、車のクラクションや誰かの話し声が混じるだけでも音声入力の魔法詠唱は失敗してしまう。


 火球ファイアボールもそこそこ回数使っているが、体感では成功率7割くらいだが初期に結構失敗しているので5〜6割かも知れない。詠唱短縮の取得条件が規定回数以上使って成功率を満たせば取得とかであれば、詠唱に慣れてきた人が詠唱短縮を取得しているはずだ。だが一般には出回っていない。


 最初の300回が勝負なのだろうか。それとも他に条件が⋯⋯?


 夢の詠唱破棄など検証してみたい事は山程あるのだが、続けて検証する気力も体力も時間も無かったので、一つの成果と魔法使用回数メモ習慣を胸にカップラーメンをすすり、風呂に入って寝た。

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