第54話 賢者への道


 腹が満たされた俺は、一人で札幌駅北口地下歩道に来ていた。モモカや他のメンバーも誘えば来てくれるだろうが、一つ問題があったのだ。


「Battery low」


 Bluetoothのイヤホンマイクが充電されておらず、耳元で無機質な女性のアナウンスが繰り返される。間も無く電源が落ちて使えなくなった。


 これだからススキノに住みたくなかったのだ。


 コンビニで充電用のUSBケーブルを購入し、モバイルバッテリーに繋いでおく。充電中はBluetoothが使えなかったので、次に買う時は充電中も使えるか確認が必要だろう。


 イヤホンマイク無しでは、それなりの声量で詠唱せねばならない。

 今更ではあるが、少し気恥ずかしいのでソロでの挑戦だ。


「アロースタンバイ」


「リーレイレイ、ギュッとしてパーン。焔々えんえん来々らいらい、燃えちゃえー。火矢ファイアアロー


 スマホをかざしながら敵を探して地下歩道を徘徊し、一体ずつ火矢ファイアアローで一撃必殺に始末していく。人を含めた索敵に余念はなかった。


 淡々とこなす作業。機械マシーンの様に没頭していく。



 そして、変化が起きた。


「アロースタンバイ」


 表示された詠唱文は『炎獄の簪よ、我が怨敵を穿て』とあった。


炎獄えんごくかんざしよ、我が怨敵を穿うがて。火矢ファイアアロー


 二小節あったはずの詠唱文が一小節になっている。威力は変わらずで、無事に敵を倒し切った。


「これは⋯⋯?」


 震える指でスマホをタップして、ステータスを確認していく。


―Skill―

 火球 cost: 8

 消火 cost: 10

 火矢 cost: 15 詠唱短縮

 ⋯⋯


 火矢ファイアアローに詠唱短縮が付いていた。


 よく使う火矢ファイアアローだけに付いているという事は、使用回数が条件で付加された? いや、それであれば魔法使いの育て方として一般的なはずだ。そんな情報は無かったのだ。隠蔽されているか他の条件もありそうだ。詠唱成功率あたりか?


 魔法使いのネックになっている詠唱の音声入力だが、詠唱短縮は大きな転換点になり得る。この先に詠唱破棄まであるのであれば、羞恥もなくMPの限り魔法をばら撒けるのだ。


 年甲斐もなくワクワクが止まらない。他の魔法で検証してみたい。持っている魔法を全部詠唱短縮にしてしまいたい!


 いや待て、まずは落ち着け。ススキノ界の自宅じゃ魔法を使うと危険なので、安全の為にホクダイ界で宿を探そう。いや、その前にお客様スポンサー田辺さんカイザーに報告だ。


 ふわふわと落ち着かない気分で狩りを切り上げ、喫茶店を探すために地上への階段を駆け上がった。



 この時の俺は、詠唱成功率を上げる苦労を知る由もなかった。

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