第46話 棚から絵に描いた餅
「初めまして斎藤さん、改めまして田辺です」
「斎藤です。よろしくお願いします」
午前の飛行機で移動し、新橋のお客様のオフィスを訪れていた。
どうやら通信キャリア本体ではなく子会社所属だった様だ。交わした名刺がマーケティング会社だ。何故にマーケティング?
「ようやく古巣に戻れましてね」
すべすべとした革張りのミーティングチェアに腰掛け、オークウッドの重厚なデスクに置いた名刺の肩書きには、電波障害対策室長とある。仰々しく偉い。
年の頃は俺とそれほど変わらない様に見えるのに偉い人だ。課長クラスだろうか。
「これで自分も心置きなく昼間からAnotherDimensionができるようになりましたよ!」
大企業の出世頭らしく、パリッとしたビジネスカジュアルに身を包んだ田辺さんが嬉しそうにそう話す。嬉しいのそこかよ。
「エーテル暴走エリア攻略に手を付けていたのが幸いしました。斎藤さんのお陰ですよ」
「いえ、大した成果は⋯⋯」
「スケジュールとかの計画書を出してくれたじゃないですか。他はそんなの計画すらしてませんでしたからね。企画通すの余裕でしたよ」
「それは⋯⋯良かったです」
「総務省の
「はぁ」
「それでなんですが斎藤さん。⋯⋯起業しません?」
「⋯⋯は?」
「斎藤さん、今ウチからの発注がなくなったらどうなります?」
「SEに戻るか⋯⋯
これは薄々感じていたことだ。今の話だけでなく、ススキノ攻略後にも同じ発注があるとは限らない。むしろ、無くなるか減額になるのが当然だ。
「割に合わなくないですか? あまり自分の立場で言える事ではないですが」
「⋯⋯本音は?」
「予算に合った自由な手駒が欲しいんです。斎藤さんなら上手くやってくれるでしょ?」
「買いかぶりですよ。経営なんてやったことないですし」
「経営だなんて小難しく考えなくて大丈夫ですよ。今時はほとんどの事はアウトソーシングできますし」
「⋯⋯考えてみます。急ぎではないですよね?」
「ススキノ攻略前には返答欲しいです」
これは独立しようがしまいが、どちらにせよ我が社は失注パターンだな。
「了解しました」
「ここを各地の界のモニターしていく拠点として、暴走を攻略するチームの旗振り役として斎藤さんには期待しています」
「委細承知しました。腹が決まり次第、連絡します」
「よき返答を期待します。ちなみに初年度でも二千万くらいは出せますので」
内心のグラリグラリとした揺らぎを隠し、ドヤ顔の田辺さんと芝居染みたやり取りをして新橋を後にした。
とりあえず心を落ち着けなければ。
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