第43話 ダイナマイト・ヴァージン


「あれ、さいとーさん酔っ払ってる? また全損しないでね?」


 酒を飲んで歩いたせいか若干アルコールが回っている。良い酒、良い肴で気分のいい酔いだ。


 いつもの様に太ももに乗って超近接状態のルイさんが首を傾げているが、視線は柔らかな唇に吸い寄せられてしまう。いかんいかん。


「スマホの電源切っておきます」


「その方がいいね。⋯⋯うひゃっ」


 ズボンのポケットに手を入れると、耳元で良い鳴声がした。


「失礼。くすぐったがりさんでしたか?」


「⋯⋯さいとーさん悪い顔してるよ? 意外とサドっ気あるのかな?」


「MよりはSよりの中道かと愚考します」


「もー、お触りは禁止ですからねー。後、一昨日はゴメンね」


 目を逸らしながら謝罪を述べるルイさんに、実は記憶あるんじゃね疑惑が持ち上がるが俺も大人。ちゅーされちゃいましたよなんて言わずに流すのが良い男の流儀だ。



「ちゅーされちゃいましたよ」


 頭のネジが緩んでいる様だ。これがエーテル酔いか。


「うわー。やっぱり。ほんとごめん。ごめんなさい」


「⋯⋯いえ、ラッキーイベントでした」


 こういう時のフォローの言葉の選択は難しい。言い換えると面倒臭い。


「はぁ。酔ったらキス魔なんてビッチみたいじゃない⋯⋯」

「はい」

「はいって何よもー」

「ビッチです」

「ビッチ言うな!」

「淫乱ですね?」

「余計、卑猥だわ!」

「バージンなんでしたっけ?」

「そうよ! だから思いっ切り飲みたい気分の時は安全そうなガイさんママの所で飲むと決めてるの!」


 なるほど。理に適っている様な雰囲気だ。割とどうでもいいが。


「まさか男の前で泥酔しちゃうなんて⋯⋯不覚だわ」

 補足しておくとガイさんママも一応、性別は男であったりする。


「ご愁傷様でご馳走様です」


「んー。さいとーさんも嫌じゃないならまぁいいか」

「ウェルカムです」

「それはそれで腹立つ! 無料サービスなんてっ!」


 太ももから勢いよく飛び降りたルイさんは、俺の頬をつねって行ってしまった。チップ1枚の個別プライベートダンスっちまう時間は終了してしまった様だ。


 良い男失格の俺でも、ハウマッチ発言は流石に自重できた。



 そして、隠れドM部長は今日もベルトで打たれていた。さて、何もない家に帰るか。

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