第32話 先達のありがたいお話


「私達、札幌イーストはモモちゃんの決意を歓迎するわ。これからも宜しくねモモちゃん」


 こうして、創成川イースト界はモモカの決意表明で、公表の界の主として上を目指す事が決まり、チーム札幌イーストは引き続き創成川イースト界をメインに活動しつつ、ススキノ界の攻略も行っていく事になった。

 何となく、なし崩し的に公表の主になってしまっていたルイさんにとって、公表・非公表は譲れない論点だったらしい。


「まずは界の奪還からだけどね」

「よ、よろしくお願いします!」


 その後のルイさんの先達界の主アドバイスによると、界の主になるとEPはプレイヤーや敵モンスターが界にいるだけでも入ってくるようになり、敵を倒した時のEP分配比率すら操作できるらしい。

 ただし、貯められるEP上限やステータス上限は、界の難易度依存になるようだ。


 難易度が高いほど、何もしなくても敵から入手できるEPの入りも良くなり、それを界の主の間ではエーテル圧と呼んでいるとの事。


 主が貯められるEP上限を超えると、界にEPが流れ込み一段上の強い敵が発生してしまうのと、主も界にいるだけでEPを流し込んでいるのだが、より多くのEPを流し込んだ対象に主が移ってしまうので、常に存在するモンスターにそのうち主を取られる事が発生するのだそうな。


 界の難易度も、界へのEPの流し込み方で変化するらしい。一気に注入はできないとかなんとか、もう完全に仕様が別ゲーム過ぎて頭が追い付かない。

 とりあえず、敵を作る時に界はEP消費するけど、死ななければ界の主にEPが入り続けるので、界の主は界に住んで何時でもバランス調整ができる方が良いのは分かった。


「界の主は複数の界を難易度別に持てると良さそうですけどね」


「それができないからYouTubeとかで手下を作ろうとしてるのよ。界の主がやると界が合併して無駄に広くなっちゃうから」


「⋯⋯なるほど」


「どこも昔は碁盤の目の綺麗な形の界だったんだけどねー。イーストはまだ良いけど、ホクダイとかドーリとか無駄に広がってるからねぇ⋯⋯」


 陣取り合戦が流行ったのかな? 一体、どこからどこまでがススキノ界なのだろう。そして昔って、マスターはいつからゲームやってんねん。仕事しろ。


 担当の彼お客様への報告用に、要点を心のメモにまとめながらビールを飲み干す。


 ⋯⋯長文の報告メール書くの面倒くさいな。

 重くなった頭が更なるエネルギーを欲している。


「マスター、バーボンソーダ下さい」


「ん? まだ営業前だから面倒くさい」

 ここにも面倒くさがりがいた。仕事しろ。


「じゃ今日はこの辺で解散しましょ。モモちゃんも分からない事があったらメッセージしてね」


「はい! お疲れ様です!」

「「お疲れ(様です)ー」」



 さて⋯⋯俺の戦いはこれからだ!



「さいとーさんは家決まった?」

「あ、はい。URLを送ってもらった所を今日契約してきました」

「そうなんだ。ふふっ」


 思わせぶりな笑みを残してルイさんは去って行った。

 これはアレか? 隣にルイさんが住んでるとかそういうご近所同士でキャッキャウフフ展開なアレか⋯⋯?



「何? さいとーさんウチの隣に引っ越すんだー。よろしくー」


 ⋯⋯マスターの家の隣かよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る