第26話 積載オーバー


「今日、デスペナで初期値の女の子と会ったんですが、イーストで盾職志望のメンバーって募集してますか?」

「盾? 女の子ならウェルカムだよ。昼間動けるの?」

 緩い。マスター緩い。


 眼鏡っ子とは地下鉄バスセンター駅で別れ、晩飯ついでに餃子バーに相談に来ていた。


「女の子なら良いんですか?」

「女の子がいると野郎どもの助っ人が集めやすいしねぇ。何故だか」

 ⋯⋯さもありなん。


「大学生1年で、イーストの昼の間引きにも参加できるそうです」

「未成年? やるねさいとーさん。どこで引っ掛けてきたの?」

「えーと、札幌駅北口の地下通路です。雨天でもソロ狩りできそうかなと⋯⋯」

「意外とチャレンジャーだよねさいとーさん。⋯⋯で、そこで引っ掛けたと」

「人聞きは悪いですがそうですね。主になってプロになるのが夢だそうです」


「⋯⋯スキルとステータスは?」

 元々細い目が細められる。笑みが消えると雰囲気がガラリと変わる人だ。


「スキルは、戦士の咆哮ウォリアーロアーと初級火魔法ですが、滑舌は壊滅的ですね。元はホクダイメインのチームでポーターだったそうです。デスペナでほぼ初期値の装備なしですね」


「うーん。立ち回りから教える必要がありそうだね。装備なしか⋯⋯」


「平日って、どこかで装備売ってないんですかね?」


「この辺じゃ、平日にNPCは呼んでないだろうから個人フリマかな。ウチでも一応売ってはいるけど」


「え? そうなんですか?」


「他のゲームと違って、人が実際にいないとならんから、こういう店でいつもいる人間が便利なのさ」

 確かに⋯⋯寒い中、客を待ってずっと外にいる訳にもいかないだろう。


「まー、アタッカーだからそんなに品揃えは良くないけどね。盾職装備は重いから在庫少ないよ。そういえば、さいとーさんはドロップアイテムはどうしてんの?」


「⋯⋯ドロップ?」


「臨時パーティーとかでも敵倒すとたまにドロップするっしょ?」


「えっ?」

「えっ?」


「さいとーさん、LC今いくつ?」

「10ですけど」

「なんで?」

「なんでと言われましても。杖と予備のMPポーションでほぼ埋まってますね」

「物、持てないじゃん」

「はい。でも、死んでアイテムまでなくなったら嫌だなと」


「せめて30とか50にしとこうよ。大したEP使わないんだし」

「はぁ。MP増やすのが最優先だと思ってました」

「ドロップ! 拾ってこ!」

「⋯⋯そうですね。装備買うにもEPかかるんですもんね」


 どうやらドロップしたアイテムは積載オーバーでそのまま自動的にドロップしていた様だ。誰も教えてくれなかったという事は常識的な事なのか。魔法使いの育成方法には書いてなかったが。


「ちなみに持ちきれなかったドロップアイテムは⋯⋯?」

「パーティーメンバーに振り分けになるっぽいね。それでも持てないなら自動廃棄」


 なるほど。ポーターがいれば自分達が持ちきれなくてもポーターに渡るのか。眼鏡っ子、ポーターやってくれないかなー。でも嫌だって言ってたしなー。


 それでも、やっぱりEPが勿体無いので今日の稼ぎの半分くらいの300だけ使ってLCを30にした。これも10増やす毎に消費EPが10増える仕様だ。


―STATUS―

 Name: さいとー

 HP: 50 / 50

 MP: 100 / 100

 LC: 30

 EP: 367


 何だか半端なステータスになってきている気がする。アレもコレもとやっているとEPが貯まらず、どんどん平均化したステータスになりそうだ。


 明後日木曜日の間引きに眼鏡っ子を連れて行く方向で、チーム調整はマスターにお願いした。

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