第19話 アフターフォロー
気付くと、ルイさんから
いや、ただの虎の子魔法使いへのアフターフォローだろう。デスペナルティの。
心が折れる人多そうだし、チームリーダーも大変だ。
最近、気になっていた店のマップデータと「適当に飲みながら待ってます」を送信した。
狸小路の一丁目まで戻ってきた俺は、躊躇なく目当ての暖簾をくぐる。札幌では珍しい水炊きの店だ。
準備に手間暇かかる鍋を
水炊き2人前と、どっしり系の純米酒をオーダーする。
鍋の場合は雑炊まで堪能するために開幕から日本酒スタート。それが俺のルール。
肉や野菜をぶち込まれ、火にかけられ続けた歴戦のスープで作られた雑炊こそ至高。その前段は
「お連れ様が揃ってから始められますか?」
「そうですね。スープだけ先に貰えますか?」
目の前には、ガラスの酒器に
酒器に口を付けると、純米酒は甘めのセレクションだった。悪くない。
椀に装われた白濁してとろみのあるスープは色からして濃厚。鶏のコクが喉を伝い、香りが鼻腔を抜けたところで、純米酒の米の旨みで上書きしてやる。
「ふぉぉ……!」
大変よろしい! 熱いところに冷たい触感も大変よろしい!
スープに塩と柚子胡椒を少々足してリトライ。
「……Rock'n'roll!」
脳内がロックンロールしていた。息する度に、鼻を抜ける芳香に気分が高揚する。
エーテル酔い? 知らんな。
「お待たせ、さいとーさん。待った?」
清楚な美人さんがやってきて俺の名を呼ぶ。誰だっけ? 俺、今ロックンロールで忙しいんだけど。
「……お疲れ様です。今日はマスクはしてないんですね?」
「今の間はなに? もしかして誰か分からなかったの?」
「どこの美人さんだろうと思いました」
「一度、お店にも来てるし、打ち上げの時もマスクしてないし!」
確かにそうだがお店はすぐ帰ったし、違う所を見てたし。打ち上げの時は……薄暗かったし?
謎の清楚系美人さんことルイさんはビールをオーダー。俺はスッキリ系の純米吟醸を追加オーダー。肌を露出しない縦ニットって、一見清楚だけどよく見るとエロいな。
お疲れ乾杯を交わして本題に入る。まずは謝りたい。
「昨日はレベリングに付き合ってもらったのに、軽率な行動で無駄にしてしまいすみませんでした」
「いや、こっちこそごめんね。エーテル酔いの事を伝え忘れてて」
「いえ、エーテル酔いというか、酒に酔ってやらかしてしまいました。ドーリだと魔法使っても敵が寄ってこないですが、イーストだと敵が来ちゃうんですね」
「一応、中級エリアだからねぇ。まぁでも、あまり気にしないでね。全損もよくあることだから」
「……はい。この失態はチームへの貢献でお返しします」
「固いなぁ」
ようやく鍋に火が入れられ、店員さんによって鶏肉が投入されていく。
「今日はドーリで臨時メンバーしてきました」
「えっ?」
「昨日の分は何とか取り返しました」
「うわっ、頑張ったね。さいとーさんはこのゲーム、あんまり気乗りしてないのかと思ってたけど⋯⋯」
そうだろうそうだろう。昨日の俺とは違うのだよ。
その後は雑炊まで、魔法使いの育成方法や、他の職のスキルについてなどで盛り上がった。共通の話題があると気楽だ。
卵ふわふわに仕上げた雑炊も美味でした。
「ところで何故いつもマスクなんですか?」
「……すっぴんだから」
「十分、美人さんだと思いますが」
「顔も覚えてなかったのによく言うわね……」
「化粧すると小悪魔チックですが」
「こんな小娘捕まえて小悪魔って。でも仕事柄メイクがそっちよりに慣れちゃうんだよねぇ」
「小娘……?」
「あんなバイトしてるけど、21歳処女ですが何か!」
「……などと容疑者は供述しており」
「本当だから!」
「どうでもいいですけど。公衆の面前で処女とか言い張るのやめて下さい」
「ぐぁー! 全損しろ!」
今日はエーテル酔いに気を付けます。
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