第6話 粘つく舞台裏


 狭い店の割に大きなグリドル上で火柱を上げる餃子。なるほどバーニングだ。

 餃子にブランデーで香りを付ける意味があるのかは分からないが確かにバーニングだ。


 手元の足高のグラスに注がれたビールは北海道限定のサッポロクラシック。


 さり気なく札幌はミュンヘン、ミルウォーキーと並ぶ世界三大ビール都市だったりする。その札幌の名を冠するビールが不味いわけがないのである。


 ⋯⋯というかサウナ明けのビールが美味すぎる。餃子が出来上がる前に、喉ごし良く身体中の細胞に吸い込まれてしまった。


「すいません。お代わりと、マスターも良ければ一杯」


「ありがとう。頂きます」


 程なくして出来上がる餃子とビール。

 餃子にはビールだ。ライスはいらなかったかもしれない。やけに辛いニンニクが入った付けだれがまたビールに合う。


「このheaven hillのハイボールも合うと思うよ」

 マスターはハイボールを飲むようだ。でもここはやはりビールだろう。


 カチリと乾杯を交わす。


「ここはAnotherDimensionの協力店だと聞いたんですが」

「おお、プレイヤーかい? この辺りも主を取られて荒れているけど。バフ出すかい?」

「あれ? 特定のメニューを頼んだらと聞いていたんですが」

「あー、ウチは割と適当に出してるんだわ」

 割と適当なんだな。


「イースト所属なら毎日パスコードを同報で出してるしねぇ。まぁこのエリアでしか使えないんだけど」

「そういうもんなんですか」

「有効時間内に他に行くのは問題ないけどね。使えるのはこのエリア限定なのさ」

 イーストは札幌イーストの略称だろうか。もう少し様子を見よう。


「そういえば、ルイさんという女性にチームに誘われました。札幌イーストなんですよね?」

「ルイに誘われた? じゃ、魔法使い?」


「⋯⋯魔法使いをおススメされました」

「勇者だな。ようこそ我らが札幌イーストへ」

 やはり魔法使いはそういう扱いか。


「いえ、まだ決めた訳では⋯⋯」


「そうかい。まぁ、悪くはない選択肢だとは思うけどねー」


「魔法使いはやっぱり少ないんですか?」


「まず、まともに魔法を扱えるMPまで鍛えるのが難しい。詠唱中は動けないからソロじゃ無理ってのもあるかな。金がかかるのが目に見えているのもあるだろうけど」


「お金か⋯⋯」


「ルイが主だったら良かったんだけどねぇ⋯⋯」


「界の主で良し悪しがあるんですか?」


「NPC商人が売っている商品は、主の利益も乗せた金額なのさ。即時回復ポーションと魔道書はリアルマネー決済だから、主にリアルマネーが入ってくる。ルイが主なら魔道書も原価に近くしてくれたと思うよ。最近は適正価格みたいな風潮があるけどね」


「えっと⋯⋯界の主って儲かるんですか?」


「⋯⋯やり方によってはね。やり過ぎたススキノの主に、巻き込まれた隣接界のルイって訳さ。チームリーダーのルイが、界を失ったペナルティで弱体化してるし、収入減で出勤を増やしててイーストには悪循環だったから、魔法使いが入ってくれるとありがたいね」


 想像以上にどろっとした背景がありそうだ。とりあえず、もう一杯ビール下さい。

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