詩集 『道』

阿達 萬

私が歩む道

     私が歩む道


たいていはゆっくりと

時々あわてて

そして ふりかえるばかり




     脱殻


叫ぶ必要がなくなった時

いったいどこにいればよいのだろう


なにも売り物がない商人は

歩き回る事も罪悪だろうか


迫害に苦しめられるものはまだ良い

何も生まず 育てず 捨てる事もできないものは

生き物に接点を持つことが絶望的だ


仕切りを持つ部屋にしか住めないものは

そのうち

立ちあがる事さえ億劫になって行く


蛇のようにはいつくばってみたい

背中に腹にうろこを持ってみたい


猛獣のえじきにされて

食われてしまうまで

おびえて生きるなどむなしい




     黄色の時


公園の黄色いすべり台

短くもなく長くもなく

背中をつけて 足をつきあげる


黄ばんだ 数日前のスポーツ新聞が

風におどらされて まわりながら

すべり台にからみつく


傍らの木は 少し葉が黄色くなり

秋を語る


夕方の風は日中の汗をしずませ

肌に軽い平手打ちのように響き始める


うつむき加減のベンチの人達に

黄色が映り

足元の影が 細長く続いている


植え込みから蟻が出てきた

私の足元をとおりすぎて

枯葉の下へもぐり込んでいった




     屈折


立ちどまっているのに風景が勝手に変わっていく毎日に

投げやりで過ごす以外に手段がなくなっても

泣き狂えない鈍いばかりの感性で

他人に批判をしたくてたまらない

身勝手さ


薄汚れた権力者に憤って握りこぶしを突き上げても

口から出る言葉が浮かんでこないとは

少々の満足さに慣らされてしまった

このふがいなさ


成功者に賛美をおくる言葉と

態度がそっくりそのまま自分のはかない夢をつきくずして

無能力者の階段をまた一歩踏みあがる事を

確認するにしかすぎないあかしだと

切実に感じる偽りなき

謙虚さ


身の安全と経済が保証されれば

それが一番の幸福であるとおもいこませようとして

その奥にある

たくさんの未練


堕落に命をかける事もなく

声をひそめて安楽にひたりきり

カラ元気で唇を年がら年中塗りつぶして

実を結んだ日々があったかのように

自分を錯覚させる

あつかましさ


頭に浮かぶ片っ端から

友の顔を勝手に能力分析をして

不可の採点をしては

安らぎを覚える

矮小さ


夢の中で 分身をつくりだしては成功者にしたてあげ

つかの間の喜びとする日々に

まったく嫌気のささない不自然さを持ち続けている

仮面紳士のあわてる様を

ころげまわって笑う人々の視線は

近い予感となって

飛びかかろうとしている














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