赤い糸と胡蝶の夢

プロローグ ANTI-O

【少女道化倶楽部】


まっくらの舞台にライトがぴかり

今日も私達は演じるのだ——

サーカスのピエロを♡


私はエリオ しがないマジシャン

手と手の間から 取り出しましたるはトランプ

カードを繰って One・Two・Three

種も 仕掛けも こざいません


「やあお疲れエリー」

「今日もぼちぼちだよアンティオー」


舞台が終わって 幕が下りて

私達は もうひとつの 顔に戻る


「ねぇ今日はどこのカフェに行こうか?」


【道化少女カフェテラス】


「プリンアラモード大盛りで」

「エスプレッソ一杯ください」


仮面を脱げば 私達はただの大学生

ひるなかのカフェテラスで 談笑中♡


「次は帽子からうさぎを出してみようかな」

「私はいつも通り」

「「『いつもより多く回しています』!」」


日が落ちても 私達は一緒

おんぼろアパートに 二人で帰るのです


(かんざしを外して三つ編みを解けば誰も知らないあなただけに見せる素顔)


おやすみ世界 おやすみエリー

明日はどんな日になるのかな


【わたしのちから】


わたしには ひみつのちからがある

知らない何かと引き換えに 願いが叶う

よく考えて 使わなきゃ 命取りになるかも

だけどあの子のためなら 使ってもいいよね


ああ いつまでも一緒にいたい


あの子が倒れた (どうして)

ライトが落ちて (危ない!)

下敷きになった (背中を傷つけて)


中枢神経系の損傷が激しく——手足は——


貴女が大好きなマジック (もうできない)

そんなの 嫌だ!

光は弾け 氷のように固まる繋いだ手

それでもいいの 貴女の為ならば……


【それでも貴女が大好きだから】


目覚めると 真っ白の部屋

声が出ない 手足も固まって動かせない


わたしの運命は ここで終わり……?


光が弾け 手のぬくもりに気づく

何が起こったのか わからないけれど

ただ 目の前で貴女が

涙でぐしゃぐしゃの顔で笑ってた


「おはよう」


本当は嫌だ もう戻らないこと

でも貴女が私に 託してくれた希望

何も言わない 何も言えないよ

だから眠った貴女を見て 私はいつも


「どうして……どうして……」


【それぞれの願いとその代償】


あの日から貴女は ふさぎがちで

少しずつ笑顔が 薄れてくの見てた


動かない手じゃ バランスも取れない

スタジオの隅に ほこり積もる大玉


「これ以上貴女に何も失って欲しくない」

「貴女の笑顔がもう一度見たい」


久々の喧嘩で 吐き出された願いは

ふたりぼっちの星空に 届いたのだろうか

泣いて暴れて 疲れて倒れてまた泣いて

いつしか二人 そろって眠りに落ちた


願わくば この二人が

永遠に赤い絆で 結ばれますように

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