第44話 銀髪のティケ
「まさか、反魂の術を使うつもりなのか、ティケ殿!? あまりに危険すぎる……。甦りの魔法は、MPの消費量が尋常ではない。まだスペクターとの
カゲマルは当たり前の事をティケに警告した。死者を甦らせる魔法は、莫大なMPが要求される禁忌魔法で、大魔法使いがその生涯において一度だけ、試してみるかどうかのレベルである。
HPとMPを共有する今のティケが実行すると、彼女自身どうなってしまうのかは明白だ。
ドラゴンメイスで描かれた魔方円に、手を組んで横たえられた西田秋水。目を閉じて纏綿とした
「分かってる。忠告してくれてありがとう、カゲマル。でも、秋水を助けるには今しかないの。
「ティケ殿……。下手すると2人して共倒れになってしまう可能性が……」
「…………」
辛うじて切ない笑顔を見せたティケの目には迷いなどなく、滲み出るような強い意志の光が感じられた。
「……さすがはティケ殿。最初から覚悟の上での決断だった訳か……」
「私にもしもの事があったら、この子をお願い。カゲマル……」
ドラゴンメイスに鈍い光が宿る時、ティケはセーラー服の上衣の中からケサラン・パサランのケパを取り出してカゲマルに手渡した。戦いで失われたヴァンパイア忍者の左手は、すぐにくっ付けたのか、すでに再生を終えていた。
「死ヌナ、ティケ。イカナイデ」
「ケパ、安心して。私、死ぬ気なんて全くないから!」
壮大で荘厳な叙事詩のような復活の
「
ドラゴンメイスを高く掲げると、その先端の竜涎石に一際強い光が現れ、同時に秋水の遺体を包み込むような暖色系の淡い光が魔法円を中心に発生した。
「秋水! 私に残った全魔力を捧げても構わない! 必ず連れ戻す!」
「ティケ殿!」
カゲマルとヘルハウンド、それにケパが見守る中で、ティケ自身にも弾けるような泡の光が周囲に湧き起こった。極度の集中と耐え難いプレッシャーの中、ティケは声髙に唱える。
「今こそ、持てる我が力の全てを解き放さん! 極大魔法、
まばゆい未知の光が竜涎石から魔法円、そして秋水の体へと潮流のように移動し、まるで銀河系を形作るように渦を巻いては吸い込まれてゆく。
ティケが地に刺し、何とか体を支えるドラゴンメイスの柄から血とも汗ともつかない液体が滴り落ちる。
MPが魔法使いの体から際限なく吸い取られてゆくのが、周囲の者にも否が応でも分かるのだ。
――みるみるうちにティケの美しい黒髪が銀白色へと変化していった。
「ティケ殿! とても見てはいられないぜ……」
ケパを肩に乗せたヴァンパイア忍者は見守る事しかできなかった。当然の事ながら、
「秋水! 私の命と引き替えにしてでも!」
西田秋水の動かない肉体が輝きを増すのと反比例して、ティケの魂の輝きを表す光がどんどん暗くなってゆくのが分かる。
「もう少し! もう少しで完成するのに! 私のMPが……足りない!?」
ついにティケは立っていられなくなり、ドラゴンメイスにすがるように崩れ落ちた。
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