第22話 忍者カゲマル その2
「あら、こんばんは……。部屋にお友達を呼んでるのなら、ちゃんと知らせてよ、秋水!」
「……ごめん、ごめん」
カゲマルの異様な姿を見ても、母親は意外と驚きもせず平然としていた。
「美人の母上様、お初にお目に掛かります。私は別世界にてアスカロン……いや、秋水殿と組ませて貰っていた佐野影丸と申します」
「はい、初めましてだね。……もうこんな時間だけど、忍者君も夕飯食べてく? どうする?」
「これは、かたじけない。いただきます」
「おい! カゲマル……、一緒に食べるのかよ!」
カゲマルは吸血鬼の牙を覗かせて笑うと、初体験である
「おお! カッコいい忍者コスプレ?! 君は甲賀市から来たのかね?」
挨拶もそこそこに父親も、ちょっぴり変わった友人としてカゲマルを受け入れた。
にわかには信じ難い話だが、滋賀県には有名な忍者の里があるので、特に深く疑問を抱かなかったようだ。
忍び刀を立て掛け、椅子に座ったカゲマルは、手作りのデミグラスソースが掛かったハンバーグを頬張ると、味噌汁にも箸を付けた。
「うわ! この小判型の大きな肉団子、とても美味しいです!」
「ははは……、『拙者』とか『ござる』とは言わないんだ。忍者君はハンバーグは初めてなのかい? 甲賀市にだって子供の頃からあるだろう?」
家出してきたので、暫くは食事していないのかな、と父親は推測した。
「……それに、あれがテレビという物ですか? 小人が中に入って芝居をしているのかと思いました。本当に信じられない。まるで魔法の箱みたいですね」
「何だ、君の家にはテレビもないのかい? まるで昭和初期みたいだね。それとも、そういう教育方針だったのかな?」
「いえいえ、ディアブルーンにはなかったアイテムなので……。うおお! 今、テレビの中で走っているのは自動車ですか? こっちに越してきたばかりの時、鉄でできた大八車には正直驚きました。みとれていると、轢かれそうになりましたが」
「影丸君は面白いね! まるで子供の頃に読んだ漫画のキャラクターが飛び出してきたみたいだ。なあ、母さん!」
「ええ! 演劇部なのかな? それにとってもイケメンで身長も高いし、秋水の友達じゃないみたい」
童顔の両親は面白がっているようだが、秋水は内心ヒヤヒヤしていた。まさかオンラインVRゲームの中から飛び出してきた人間とは思うまい。言ったとしても信じて貰えるかどうか……。
ここ最近、立て続けに起こった超常現象の一環として理解するかもしれないが、ディアブルーンから説明を始めなくてはならないのが面倒だった。
「ごちそうさまでした。……おっと!」
秋水は瞳を輝かせるカゲマルの肩を掴むと、自分の部屋まで引っ張って行こうとしたのだ。
「ゆっくりしていきなさいね、忍者君」
「ええ、この御恩は決して忘れませんので」
「イイから、ちょっと部屋まで来いよ! カゲマル~」
やっと落ち着いて話せる状況になった。そわそわする秋水と比べて、カゲマルは余裕の態度だ。
「ティケに続いてカゲマルまでこっちに来たのか。一体何が起こっているんだ?」
カゲマルは窓を開け、このマンション全体にティケによる鉄壁の結界が張り巡らされている状況を確認すると、座布団の上にあぐらをかいて話し始める。
「さっきの話の続きだ。俺はティケを守るためにディアブルーンからここまでやって来たのさ」
「守るって……彼女は何者なんだよ、一体……?」
「西田秋水殿、よく聞け」
秋水が向き合って座ると、膝に手を置いたカゲマルが前のめりとなった。
「ティケはただの
「そうだろうな。君と一緒で、ゲームキャラのくせにプレイヤーもいないし、アバターじゃなくて本物の人間だって言い張るし。いや、そもそも君達って本来、人間だと答えていいものなのか?」
「そういう事を今、話しているのではない。ティケは、
話が壮大すぎて秋水には理解できない。ジェスチャーっぽく腕を組むと、首を捻って考え込んだ。まず、どのような存在が人類に戦いを仕掛けてこようとしているのだろうか。
「分からないのか? バティン……いや、悪魔ヤマナンが300年ぶりに目覚めた時、人間の社会がすっかり様変わりしていて腰を抜かさんばかりに驚いたそうだ。自分達が寝ている間に科学が急速に発展し、闇の存在の力が失われた事実は衝撃的だったらしい。ヤマナンは威厳が忘れ去られた現代の世界に落胆し、同時に憤慨したのだ」
「ヤマナン?
「まあ、聞けよ。そこで人類の驕りを挫くために、文明社会をサラッと破壊して一掃する先鋒としてティケが選ばれたのだ。露払い役っていうのかな」
「ティケが! 人選ミスもいいとこだ。どう見ても考えても場違いで、若すぎるし不適任じゃないのか?」
「可愛らしい見かけに騙されちゃあいけない。偉い人から聞いた話では彼女の魔法、全て解放されると人類が持つ最強の核兵器とやらに匹敵する破壊力を有しているらしいぜ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます