「ヒャッハー!」モヒカンが支配する世界で、小太りの整備士が成り上がる! その序章
転倒屋ミミヲ
第1話 邂逅
「ヤベェ、見つかった!?」
そう思った瞬間だった。
ガツンッ! と、でかい拳骨が自分の頬にめり込むのとほとんど同時に、身体ごと吹き飛ばされるのがハッキリとわかった。口の中いっぱいに血の味が広がる。もの凄く鉄臭い。
モヒカン野郎ども--チーム名はブラッディ・ショコラというらしい--のバギーから、ガソリンをチョロまか……そう、盗み取っているところを見つかっちまったんだ。
「このこそ泥がぁqxでおyv;qjwpふじこふじこ!!!」
オレを見つけたひときわ身体の大きなモヒカン野郎は、なにか意味不明の言葉を叫びながら、胸倉を掴んで軽々と投げ飛ばしてくる。地面に叩きつけられ、口の中に血と砂が混じってジャリジャリする。
ああ、こんなところで死ぬのか……
「おう、そこらへんにしといたらどうだ? エンジンブロックばらしてる周りで砂を撒き散らすんじゃねぇ! ボス自慢のダッジがお釈迦になったら、お前が殺されるんじゃねーのか?」
妙に甲高い、しかし鋭い怒気の篭った声にモヒカン野郎の動きが止まる。モヒカンは、そうだ、アンタの言うとおりだな……呟きながらオレを引き摺っていこうとする。
「ちょっと待った、そのガキ潰すんなら貰えないか? ちょうど修理の人手が足りなくてな。エンジンルームの隙間に手が入る小柄な奴を探してたんだよ。そのチビくらいがちょうどイイ」
予想外の成り行きに思わず顔を上げると、今まで見たことのない長袖長ズボンのダボっとした服(あとで聞いたが、ツナギというらしい)をまとった背の低い小太りの男が仁王立ちしていた。
「アンタの希望はできるだけ叶えるように、ボスから言われてる。相当腕利きの整備士(メカニック)らしいな。でも、ガソリン泥棒はダメだ。バギーの先端に吊るして、できるだけ苦しませて殺すのが習わしだ。それだけの罪を犯したんだからな」
モヒカンは妙に冷静な声で反論する。意外と頭のイイ奴なのか。
「大きな仕事(ヤマ)を控えてるのはみんな知っての通りだ。正直、俺一人じゃ回らない。無理だ。吊るして殺すのも、俺が助手にこき使って潰すのも同じじゃないか?」
整備士(メカニック)と呼ばれた小太りの男が答える。
モヒカンはしばらく躊躇ったのち
「コイツを最初に見つけたのはアンタだからな。好きにするといい。ボスにはアンタから話を通しておいてくれ」
と呟くとバギーのほうへ戻っていく。
そして、小太りの整備士(メカニック)は振り向くとこちらに手を差し伸べながら、こう言ったんだ。
「そういうわけでよろしくな、お嬢ちゃん。アイツは頭に血が昇って気がつかなかったみたいだが、俺にはわかる。アンタの命は俺がもらった」
口許に嫌らしい笑みを浮かべながら。
アタシが、その日覚えているのはそこまでだった……。
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