逃げた先は異世界でした~勇者と陣士の閑居生活~
Re:you
1章 勇者が逃げて何が悪い!?
第1話 目が覚めるとそこは・・・
目が覚めると、私は柔らかなベッドとふわっとした毛布で包まれていた。
「あれ・・・ここは?」
暖かい空間に包まれながらも、視界と共に意識がはっきりしてくると、天井を見て、ここが見知らぬ部屋であることに気付いた。
淡い光に包まれた空間にピアノに似た音がポツポツと頭に響き、心地よい感覚が私の思考を鈍らせる中、ある疑問が思い浮かぶ。
・・・ここはどこだろうか?
少なくとも私の部屋じゃないけど・・・まあ、いっか。寝よう。
そんなことを考え、再び脳が休みに入ろうとしたその時だった。
「師匠、女の人が起きたデス!」
大きな叫び声が脳内に響き渡り、寝ぼけていた脳が瞬時に目を覚ました。
「子供・・・」
声がした方を振り向くと、そこにいたのは小学校中学年位の男の子だった。
部屋の隅っこにいた小さな少年が慌ててこの部屋から出ていくのをきっかけに意識がはっきりと戻る。
「そうだ、私は・・・」
そして、脳が覚醒したことで私は昨日の出来事を思い出す。
それは思い出したくないことではあるが、思い出さなくてはいけないことだった。
「・・・速く、逃げないと」
そう口にして、私はベッドを起き上がる。腕等の体のあちこちに包帯が巻かれていたが、それを気にせずに部屋から出ようとドアノブに手を掛けた。
すると、丁度扉を開いた先に一人の男性が立っていた。突然の登場にびっくりした。
私より頭一つ分背が高くて、細身の体にしてはどこか力強さを感じる。
黒くて長い前髪が邪魔で顔はよく見えないが、その男の表情が無表情であるのがよく分かる。
「だ、誰?」
「怯える必要は無い。お前の躰に何もしてないし、するつもりはない」
身構える私に男は何事もないように真顔で私にそう説明する。
「あんたが何者かを聞いているの」
「クレイ、ただの陣士だ。
こっちは弟子のロギアだ」
「ロギアはロギアデス!」
「ジンシ? いや、それより・・・」
聞いたことのない言葉に疑問を思いつつも、知らないといけないことがある。
にも拘らず、思考が上手くまとまらない。まるで、自習時間中にクラスの人間が騒いで集中力をかき乱されているかのようだ。
「こちらは色々と聞きたいこともあるし、そちらもあると思うが・・・」
クレイという男がそう言うと、
ぎゅるるうううう
と、タイミングを計ったかのように、私のお腹が鳴ってしまった。
顔が赤くなっているのが分かるほど恥ずかしい。
いや、どうしてこんなタイミングなの!?
「何日も寝ていたんだ。腹が減っただろう。
食事を用意するから付いて来てくれ」
そう言って、男は食堂に案内した。
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「・・・何これ?」
テーブルの上に置かれている物体は見たこともない色をした液体だった。
「俺が作った秘伝の
素早く簡単にできて、コストも低く、これ一杯で一日の栄養素をすべて賄える」
男はそう言って、自分の分の飲み物を一気に飲み干した。
上手そうとも不味そうともせず、表情を変えることはない。
「ご厚意はありがたいけど、遠慮するわ」
「心配しなくても、毒は入ってないデス」
「そういう問題じゃないわ」
毒とかそういうことを警戒する前に食べる気にすらならない。
お腹が減っているはずなのにコレだけは口にするなと本能が警告している。
それほどに不気味な見た目と悪臭がする。
「ちなみに他の料理は無いデス。師匠はコレしか作らないし、ロギアは料理が作れないデス。
気持ちはわかるけど、飲んでも死にはしないから我慢して飲むデス」
そう言って、ロギアという少年も飲み干した。彼の方は苦い顔をしながらも無理やり飲み込んだように見える。やはり、味がアレなのだろう。
私も、恐る恐る一口だけ試しに口にすることにした。
「・・・う!」
不味い!不味すぎる!
ネチャっとした感触、雑巾を絞った汁みたいな腐臭とアンモニアのような刺激臭がマッチしている。
なにより、ケーキとラーメンを合わせるかの如く味のミスマッチがやばい!
え、何であの男は平気な顔で飲んでいおたの?馬鹿舌なの?頭がイカれているの?
こっちは口に含んでいる液体を吐かないようにするだけで一杯である。
「分かるデス!頑張るデス!ファイトデス!」
少年は何かに共感しているのか必死に応援していた。
・・・いや、無理、こんなのを飲み切れるわけがない!
そう思って、私はドリンクを半分残してギブアップした。
「・・・小食なんだな」
違う!馬鹿じゃないの!こんなの人間の食べ物じゃない!
「そう言えば、お前の名前を聞いていなかったな。聞いてもいいだろうか?」
男は思い出したように私に名前を尋ね、私も聞かなきゃいけないことを思い出した。
「・・・サキよ。それより、ここは何処?」
「王都の外れにある一軒家だ。ここなら兵士や騎士に見つかる事はそうそうない」
・・・その言葉によって、私の警戒心がこの男に警報を告げた。
「どうして私が彼らに追われていることを知っているの!?」
「今度はこっちが質問する番だ。
どうして、サキの様な人間がここにいる?」
私の質問を無視して、男は質問する。
・・・私がここにいる理由など分からない。気づいたらここにいたのだから。
「あなたがここへ連れ込んだんじゃないの?」
私がそう答えると、男は納得した声でこういった。
「質問の意味が理解していないようだな。
どうして、お前のような勇者が呼ばれている?」
その言葉を聞いた瞬間、
私は逃げなければと思った。
この人は私の正体を知っている。
この人はあいつらの仲間だ!
「・・・動いて」
恐怖による震えで動かない私に鞭を打ち、逃げろと叫んだ。
立ち上がって、振り返って、玄関に向かって、ドアを開けようとする。
・・・開かない。
鍵がかかっている。
鍵を開けようにもどうやってカギをかけているのか分からなかった。
どうすれば開くのか分からない!
叩いても、ビクともせず、振り返ると、男はこちらに歩いて向かってきていた。
「・・・来ないで」
頭の中が割れるように痛い。
真っ赤に燃えるほど体が熱い。
視界が真っ黒になって何も見えなくなる。
「落ち着け、俺は・・・」
そう言いながら、右手を私に向けて伸ばす。
嫌だ。
嫌だ!
捕まりたくない!
襲われたくない!
闘いたくない!
死にたくない!
「来ないでえぇぇぇぇぇ!!!!!」
悲鳴のような声でそう叫んで私は願った。
誰か・・・私を・・・
そこで私は意識を失った。
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