邪神の復活
第31話 アオハタサクサヒコ
「イズモ国からの使者?俺にですか?」
イナバ国の王城に滞留しているオオナムチの元へ、イズモ国から使者が訪れた。
先にイナバ国王への
「ムルさん、なんだろう?」
「わからんな。まあ、俺も後見人としてついていってやるよ」
ムルは、能力が高く人がいいオオナムチの付き人として、おこぼれをもらっていく人生設計に切り替えていた。
よく言えばオオナムチのマネージメントである。
なので、最近は以前にも増してオオナムチについて回っている。
使者が待つという部屋に入ると、頭のよさそうなスマートな男が立ち上がって挨拶をしてきた。
「はじめまして!オオナムチ殿。わたしはイズモ国の使者。アオハタサクサヒコと申す者です」
男は、高貴な者がまとうオーラをこれでもかというくらいに放ち、にこやかに笑っている。
かっちりと服を着込み、どこにも
そして、その目は笑っていなかった。
ひたすら深い、何を考えているのかわからない目だ。
アオハタサクサヒコは、とてもただの使者には見えない男だった。
「おい!おまえサクサじゃねーか!?」
「君は…ムルかい?」
「なんでおまえが使者なんだよ?」
「君こそ、こんなところで何をしているのかな?」
「ムルさんの知り合いなの?」
「オオナムチ、こいつはスサノオ大王の御子神だぞ!イズモ国の大臣だ!使者なんかのタマじゃねーよ」
「ははは、大げさだよムル。たまには使者も楽しいものさ」
「おまえが使者で、こんなところまで来るなんてありえないだろ。なんだってんだ?」
「まあ、いいじゃないか。ところで君はオオナムチ殿とはどういう関係なのかな?」
「マネージャーだよ!話は俺を通してくれよな」
「ほう。休暇中の第十三侵略部隊部隊長が、イズモ国にまつろわぬ村の村長、いや、今はイナバ国皇太子さまかな?そんなオオナムチ殿のマネージャーとは、どういうことなのか、詳しく聞いてみたいものだね」
アオハタサクサヒコの射抜くような視線に、あきらかにムルは
「まさか、イズモ国への反逆かい?」
「ば、バッカヤロー。そんなわけないだろうが、ちょっとこっちに来い」
ムルはアオハタサクサヒコを部屋の隅に呼び出すと、オオナムチに聞こえないように小声で告げた。
ちなみに、器の大きいオオナムチは、まったく気にしていない。
「こいつはとんでもない野郎で、俺の部隊じゃかなわない。だからこうしてイズモ国に引き入れようとひっついてまわってんじゃねーか。察しろや」
「ほう、それなら僕が来た用件と同じだね。協働といこうじゃないか。僕の邪魔をしないでくれるね?」
「お、おう」
(ここまでの流れ、こいつの予定どおりなんだろうな…)
ムルは昔からこの男を知っている。
アオハタサクサヒコの
「オオナムチ殿、率直に言おう。イズモ国には君の力が必要だ。我々の元に来てほしい」
アオハタサクサヒコは、オオナムチの前に立ち、断固とした口調で言った。
オオナムチが返答に困っていると、アオハタサクサヒコは、すかさず続けた。
「もちろん、突然、こんなことを言われても答えられないだろうね。しかし、わたしにはわかったことがある。オオナムチ殿が、すぐに断らなかったということだ。つまり、少なくとも考えてくれるということでいいのだね?」
アオハタサクサヒコの
それもそのはずである。
独自の
アオハタサクサヒコが動くということ、それは望んだ結果が出るということなのだ。
「オウの町の国庁に来てほしい。そこでイズモ国の会議に参加し、そこで決断してもらえないだろうか?オウの町に至るまでに、イズモ国内を見て歩くことができる。道はムルが知っているし、我が名を記した通行証を差し上げよう。この通行証で入れない町は無い」
「道って、船でオウの港に行けばすぐだろ?」
「それがそういうわけにはいかないのだ」
オウの町へは、カロの港から速い船なら一日ほどの距離だ。
しかし、アオハタサクサヒコは、それを否定した。
「オオナムチ殿がイズモ国に必要だと考えているのは、我ら文官なのだ。武官の中には、そうではない者も多い。そして、その中には海人族も含まれるのだ。海路の利用はやめておいたほうがいい。それに…」
「それに?」
「カロの港には、ヤシマジヌミが兵士とともに待ち伏せをしているのだ」
「あのヤシマジヌミが来てるのかよ!?」
「それって言っていいんですか?」
あっさりと味方の策をおしえるアオハタサクサヒコに、オオナムチは驚いた。
「我々、文官は、好戦的な武官たちとは違うからね。国政に対する考え方とやり方が違うのだ。我々と彼らのどちらが間違いでも正解でもない。ただ、わたしはわたしの信念に基づいて行動するだけなのだよオオナムチ殿」
「わかりました。わからないことがわかったので、オウの町に行ってみます」
オオナムチは、オウの町に行ってみることにした。
成り行きでイズモ国と対立していることになっているが、オオナムチ自身は、イズモ国に対してとくになんの感情もないのだ。
なにしろ、神域の山で育ち、人の世や国のことはまったくわからないのである。
だからこそ、知りたくなった。
荒神スサノオ大王が
その中に入って見てみたいと思ったのだ。
こうして、オオナムチたちは、オウの町を目指すことになったのだった。
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