建国神話オオナムチ

@oonamuchi

第1話 エピローグ

 神話と呼ばれる時代。


 神々と人が交わり天地を歩いていた時代。


 高天原たかまがはらでの激しい戦乱は国を荒廃させた。

 いや、これを戦乱と呼ぶべきだろうか?

 天照大神と八百万やおよろずの天津神が争った相手は、荒神こうじんと呼ばれる神、スサノオノミコトただ一柱ひとはしらなのだ。

 天地を引き裂く戦いの末、天津神あまつかみ荒神こうじんを西へ追いやった。


 否、ある者は言う。

 荒神こうじんは自ら西へ向かったのだと。


 戦乱で国は荒廃し、天照大神は隠れ、高天原は暗黒に閉ざされた。

 



 そして…西の海岸…




 朝の海、太陽はまだ低い。

 海面がギラギラと波打っている。

 潮の香りが強い。


 男たちは、ただひたすら砂浜を掘っていた。よく焼けた褐色の肌に、汗が玉のように光っている。

 黒い砂の中から、いくつもの貝が掘り出されている。


「なかなかでかいぞ」


 食料にする貝を掘っているのだ。


 別の男たちは、海に潜ってもりで魚を突いている。

 村の男衆が10人ほど、今日のかてを得るために漁に来ている。少年の姿も見える。


「穫りすぎるなよ。海神にたたられるからな」


「わかってる」


 年長者は少年に漁のやり方やルールをおしえる。少年がやがて大人になったときに、そうしておしえてあげられるように。


 少年は銛の先の魚をはずし、海面に浮かんだ木桶に入れた。すでに大きな魚が3匹入っている。


「あれ?なんだ?」


 遠くの海面に黒い点のようなものが見えた。


「船だ!船が来るぞ」


 ゆっくりと近づいてくる。

 流されてきたのは大きな船だった。そして浅瀬で座礁ざしょうして止まった。


「誰もいないぞ?」


 遠巻きに見守る男たち。

 長さ15メートルはある舟。海人たちの船とは違う。このあたりでは見かけない複雑な構造だ。帆柱は折れている。人がいる気配はない。


「まて。俺が行く」


 リーダーらしき年長の男が慎重に舟に近づいていった。


「赤子がいるぞ!?生きている」


 船には赤子だけが乗っていた。

 船はところどころ壊れていて、戦いの痕跡があった。鋭い金属で削られたような傷。乾いているが、どす黒い血溜まりもあった。

 しかし、不思議なことに死体すら無い。


「どうする?」


 気が動転したのかオロオロした男がリーダーらしき年長の男に聞いた。

 こんなことはめったにない。これは珍しいことなのだ。


 他の男たちも全員集まってきている。


「今日は終わりだ。おまえたちは村へ帰れ。この子はババ様のもとへ連れて行く」


 年長の男は赤子を抱えて山に向かった。

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