第2話 見えないからこそ伝わるもの

 当日、昼下がり、トランは宰相邸の正門にいた。

 内向きを務めるトランは、公務を含めても宰相邸を訪れるのは初めてだ。


 緊張しながら門番に来訪を告げると、伺っております、とにこやかに招き入れられた。次いで使用人に案内され、客間に通される。


 当たり前だが、各国の間諜や暗殺者たちの悉くを返り討ちにしたという結界はトランには発動しなかった。


 ごくごく普通のお邸だった。

 

 ただ、ここに来るまでの廊下に、あからさまに魔力がダダ漏れにされている「見えない仕掛け」がいくつもあった。 

 もちろんトランがいるこの客間も同様である。


 囮か、誘いか。


 結界の術師の端くれでもあるトランは、案内された道々にどんな結界があったか思い浮かべ、つい、その意図を読み解こうとして、──冷汗をかいた。


 トランのようなそこそこの術者に「見える」結界だけでも連鎖して襲ってくるように出来ている。


 その上にトランが「見えない」が感じ取れる結界が発動すればどれほど恐ろしいことになるか。


 そして、そこそこの術者では絶対に感知すらできない結界が、確かにある。

 あれだけ緻密に張り巡らされた結界群の近くのあの何もない空間、不自然に広い。


 えぐい。

 ここの仕掛け、ものすごくエグい。どうやっても詰む!


 すごいところに足を踏み入れてしまった、と呆然としたトランは、客間に現れたザイに顔色の悪さを心配されることになる。

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