宰相さんちの犬はちょっと大きい

すみよし

第1話 僕んち犬いるんだ。見に来る?

 侍従である二人の休みが重なることは本当に珍しい。しかしあいにく二人とも街へ繰くり出す気分でもない。

 そこでザイが言った。


「じゃあ、ぼくんち来る?」


 僕の家、犬飼っててねー、というザイに、そうさせてもらおうかな、と言いかけてトランは顔を引きつらせた。


「君の言う『ぼくんち』って宰相邸?」


 近頃うっかり忘れそうになるが、ザイは宰相のご子息様である。


「あー、うん、そうだね」


 ザイはしばらく考えてまた言う。


「あ、ごめん。原則非公開なんだけど決まりで訪問者の名前とか公文書に残るの、やっぱり嫌かな?」


「いや、そうじゃないけれど……」


 トランはどう言って良いのかわからない。


 彼の住む宰相邸は宰相夫人の鉄壁の結界で守られており、宰相に敵対するものはネズミ一匹入れないと言われている。


 たとえ侵入に成功したとしても、その者は必ず邸内で手痛いしっぺ返しを食らい、忍び込んだつもりが、まんまと誘い込まれたことを思い知らされ、心折られるのだという。


 どこまでが真実かわからないが、ちょっと近寄りがたい気がする。


 そもそも、宰相邸ということは宰相がいるではないか。休みの日にまで会いたくないというのが本音である。


「その、閣下のお休みのところにお邪魔するのも……」


 気がひける、というトランにザイはまた言う。


「うち、結構友達来るよ? 父は家にいるときはボーっとしてるし挨拶以外は顔出したりしないし、気にしなくていいよ」


「そ、そう?」


 ボーっとしてる宰相ってどんなだ? トランは想像がつかない。


 結局ほかに良い案も浮かばなかったトランは、せっかくの誘いを断ることも出来ず、ザイの家を訪れることになった。

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