虫長者

@inri

第1話

虫長者


貧乏労働者の結城耕作(ゆうきこうさく)は、有機栽培の作物は高値で売れるというテレビ番組を見て、農村で有機栽培をすることにしました。周囲の農家は「有機農法じゃ農業はできないよ」と忠告しましたが、結城耕作はトウモロコシと桃を無農薬で栽培することにしました。


夏になり、トウモロコシの収穫時期になりましたが、トウモロコシの茎や葉は油虫まみれになり、実もアワノメイガに食い荒らされ、売り物になるトウモロコシは一つもありませんでした。結城は、途方に暮れてテレビを見ていると、世界有数の産油国アブラ君主国連邦の国王来日のニュースが流れました。そこでは、国王一行が莫大なオイルマネーで、贅沢の限りを尽くしている様子が映し出されました。結城は、「そうか、食べ物より油の方が儲かるのか。」と思い、早速トウモロコシ畑に行きました。そして、トウモロコシの茎葉全体にびっしりついた、緑や黒の油虫をブラシではたき、ビニール袋に入れました。結城は、何時間も油虫をかき集め、油虫の詰まったビニール袋を持って、ガソリンスタンドに行きました。

結城「あのー、油虫を売りたいんですが。」

ガソリンスタンドの店主「そんなの要らないよ。」

結城「そんなこと言わないでくださいよ。油虫をすりつぶせば、いい油が出ますよ。」

ガソリンスタンドの店主「君、何を言ってるんだ。あのね、油虫っていうのは、油のようにべたべたしているから、油虫というんであって、油がとれるわけじゃないんだ。油虫に火をつけても燃えないよ。」

結城「えっそうなんですか。」


しばらくして、桃が実る時期になりました。しかし結城の栽培する桃の葉は、縮葉病(しゅくようびょう)で落葉し、残った葉も穿孔細菌病(せんこうさいきんびょう)で穴だらけです。また、わずかに実った実も、黄金虫にたかられ、売り物になる桃は一つもありませんでした。

そんな時、帰宅中の小学生が通りがかり「♪黄金虫は金持ちだ、金蔵建てた蔵建てた、飴屋で水飴買ってきた。・・・」と歌っていました。結城は、「そうか、黄金虫は黄金の虫。桃じゃなくて、黄金虫を売ればいいんだ。」と思い、桃にたかったたくさんの黄金虫を袋に詰め、貴金属店に売りに行きました。

結城「あのー、黄金虫を売りたいんですが。」

貴金属店主「そんなの要らないよ。」

結城「えっ、どうしてですか。」

貴金属店主「あのね、黄金虫っていうのは金色に光っているから黄金虫というんであって、金を含んでいるわけじゃないんだ。銀幕や銀シャリが銀でできていないのと同じことだよ。」

結城「そうなんですか。」


こうして結城耕作は、有機栽培長者の夢も、虫長者の夢も破れ去り、再び貧乏労働者になりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

虫長者 @inri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ