退屈な蛙

@inri

第1話

退屈な蛙


むかしむかし、ある池に、蛙が住んでいました。蛙は、池を泳いだり、陸を跳んだり、虫を食べたりしましたが、毎日同じことの繰り返しで退屈でした。

蛙「あー、つまんねえなあ。何か、面白いことねえかなあ。あっ、そうだ。」

蛙は、池に飛び込み、鯉に話しかけました。

蛙「ねえ、鯉さん。毎日、退屈じゃないですか?」

鯉「いや、別にどうこうないけどね。」

蛙「そんなこと言って、本当は池の暮らしに飽き飽きしてたんじゃないですか。陸には、麒麟御殿という見事な御殿があって、とても楽しいですよ。」

鯉「本当かい。実は僕も池の暮らしに飽き飽きしてたんだ。毎日池の中を泳いでいるだけじゃ、退屈しちゃうよ。その麒麟御殿とかいうのは、一体どういう所なんだい。」

蛙「それは見てのお楽しみ。精一杯速く泳いで、岸の手前で跳ね上がれば、陸に行けるよ。それじゃあ僕の後をついて来な。」

鯉「それじゃ、僕も陸に行ってみるか。」

蛙は陸に跳び上がり、鯉は蛙の後を追って飛び跳ね、陸に上がりました。

鯉「くっ苦しい。息ができない。」

鯉は苦しがって、バタバタのた打ち回りました。

蛙「わーっはっは。騙されてやんの。」

鯉「だっ、騙しやがったな。ちくしょう。何がいい景色だ。」

蛙「馬鹿な鯉だ。せいぜい陸の景色でも、冥土の土産にするんだな。まあ世界広しといえども、自分から陸に上がって死んだ鯉は、お前くらいだろ。はーっはっは。」

鯉「助けてくれ。頼むから池に戻してくれ。さもないと死んじゃうよ。」

蛙「お前がこうなったのは、陸で暮らせるように体を鍛えなかったからだ。何でも努力だよ努力。せいぜい苦しみながら死ぬんだな。あーっはっは。」

鯉は、全身傷だらけになるほどもがきましたが、蛙が尾ひれをつかんで池から遠ざけたため、とうとう死んでしまいました。


蛙は、鯉がもがき苦しむのを楽しみましたが、鯉が死ぬと再び退屈になりました。

蛙「うーん、何か面白いことないかなあ。あっ、そうだ。」

蛙は鼠に近寄り、話しかけました。

蛙「鼠さん、退屈じゃないですか。」

鼠「別に、どうこうないけどね」

蛙「そんなこと言って、本当は陸の生活に飽き飽きしてたんじゃないですか。池には龍神御殿という御殿があって、とても楽しいですよ。」

鼠「本当かい。実は僕も陸の生活に飽き飽きしていたんだ。その龍神御殿っていうのは、どんな所なんだい。」

蛙「それは行ってのお楽しみ。全速力で走って、池に飛び込めば池の中に入れるよ。それじゃあ僕の後をついて来な。」

蛙は池に飛び込み、鼠も蛙の後を追って池に飛び込みました。

鼠「くっ苦しい。息ができない。」

鼠は溺れて、バタバタもがきました。

蛙「わーっ、はっはっは。騙されてやんの。

鼠「だっ騙しやがったな。ちくしょう。」

蛙「馬鹿な鼠だ。せいぜい池の水でも飲んで、冥土の土産にするんだな。まあ世界広しといえども、自分から池に入って死ぬ鼠は、お前くらいだろ。はーっはっは。」

鼠「助けてくれ。どうか陸に引き上げてくれ。さもないと死んじゃうよ。」

蛙「お前がこうなったのは、池で暮らせるように体を鍛えなかったからだ。何でも努力だよ努力。せいぜい苦しみながら死ぬんだな。あーっはっは。」

鼠は必死にもがきましたが、蛙が陸に近づく鼠を蹴飛ばしたため、とうとう死んでしまいました。


蛙は、鼠がもがき苦しむのを楽しみましたが、鼠が死ぬと退屈になってしまいました。

そんな時、うなぎが蛙に話しかけました。

うなぎ「蛙さん、退屈だろう。海に行ってみないかい。」

蛙「海?何だいそこは。」

うなぎ「うーん。まあ大きな池ってとこかな。」

蛙「何だ、池かよ。池ならもう飽き飽きしたよ。」

うなぎ「いや、海はただ大きいだけじゃないよ。いかやたこといった動物がいるし、魚も貝も亀も海老も蟹も、池にいるもととは種類が違うんだ。」

蛙「いか?たこ?ふーん、何だか面白そうだな。でも海はどこにあるんだい。」

うなぎ「海は川を下ったところにあるよ。僕が案内するから、ついておいで。」

蛙はうなぎの後をついて川を下り、海にやって来ました。

蛙「何だ、ここの水は。しょっぱいし体がしみるじゃないか。」

うなぎ「まあまあ、そんなこと言わないで。確かにここの水には塩が入ってるけど、せっかく来たんだから海の動物を見ようじゃないか。」

蛙「まあ、それもそうだ。せっかく苦労してここまで来たんだから、少しくらい我慢しないとな。うなぎさん、それじゃあ案内してくれ。」

うなぎは、海のいろいろな動物を紹介し、蛙も満足しました。

蛙「何だか体がしわしわになってきたぞ。それに、水を飲んでものどがカラカラだ。どうしたんだろう。」

うなぎ「そうかなあ。僕はそんなことないよ。気のせいじゃない。」

蛙「ここまで案内してもらって悪いけど、気分が悪いから、池に帰るよ。」

うなぎ「そうかい、それは残念だ。また池で会おう。」

蛙は、川を上って池に帰り、疲れた体を癒しました。


鳩が蛙の近くにやって来ました。

鳩「ねえ蛙さん。退屈でしょ。どうです、雲の上に行ってみませんか。」

蛙「空ねえ。僕は、水の中と陸の上には行ったことがあるけど、雲の上は行ったことないなあ。」

鳩「雲の上には、鳳凰御殿があるんです。そしてそこでは、孔雀と極楽鳥の舞が見られ、岩燕の巣とフォアグラの料理が食べられるんですよ。」

蛙「何だかは楽しそうだな。でも待てよ。まだ海に行った疲れが残ってるし、それにどうやって雲まで行くんだ?」

鳩「心配は要りません。私が雲の上に連れて行ってあげます。さあ私の背中に乗ってください。

蛙は鳩の背に乗り、鳩は雲に向かって飛び立ちました。

鳩「あなたは、鯉と鼠に随分ひどいことをなさいましたね。鯉と鼠がどんなに辛かったかお分かりですか。」

蛙「何だ、見てたのか。でも苦しむ姿を見るのは楽しいだろ。」

鳩「いいえ、全然楽しくありません。むしろ辛い思いで見ていましたよ。次はあなたが苦しむ番です。」

鳩は急降下し、蛙を振り落としました。

蛙「何だこの、吸い込まれるような不思議な感覚は。」

蛙は、陸に墜落して全身を強打し、頭が割れ内臓が飛び出しました。

蛙「痛てえよー。誰か助けてくれー。」

蛙の周りに、魚や獣や鳥や虫が集まり、蛙が苦しむ様子を見ています。

鳩「蛙さん、気分はどうですか?こうなったのは、あなたが空を飛べるように体を鍛えなかったからなんですよね?まあ努力不足の自分を責めることですね。」

鯉の遺族「どうだ『痛い』か?お前もじきに『遺体』になるんだよ。」

鼠の遺族「『蛙』も土に『返る』時が来たんだよ。」

周囲の動物は、鯉と鼠のしゃれを聞いて笑いました。

蛙は、動物たちに看取られて死にました。

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