雪と穴の女王

@inri

第1話

雪と穴の女王


秋が過ぎて冬になり、地面には雪が降り積もりました。これでは働き蟻も、外に出て餌を集められません。女王蟻は、このままでは餌不足で皆が飢えてしまうと思い、働き蟻を集めてこう言いました。

女王蟻「皆も承知しているように、地上には雪が降り積もっている。我々蟻は、地下に住んでいるので雪に埋もれてしまうが、地上に住む蜂はその心配がない。このままでは、私たちは飢えて死んでしまう。そこで私は、地下の巣を捨てて、蜂のように地上に出たいと思う。皆もついてきてくれ。」

すると、とある働き蟻が言いました。

働き蟻「女王様、その必要はありません。私たち働き蟻は、こうなることを想定して、夏場にたくさんの餌を集めてあります。冬越しするのに十分な餌があるので、ご心配には及びません。それにそもそも、地上は雪で覆われているため、地上に出たところで餌集めはできません。それに、地上よりも地下の方が暖かくて快適です。春の来ない冬はありません、熱で融けない雪もありません。我々蟻は、蜂のまねをして地上に上がるのではなく、春が来るまで地下にこもっていればよいのです。穴の女王は穴の女王、蟻は蟻のままでよいのです。」

これを聞いた女王蟻は納得し、「蟻のままで」を家訓にしました。そして春が訪れ雪が融け、働き蟻たちは再び地上に出て餌を集めました。

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