街路樹

@inri

第1話

街路樹


むかしむかし、ある国の王が死亡し、王子が若くして王に即位しました。

ある夏、王が領地を馬車で視察することになりました。馬も従者も、強い日差しと歩行による発熱で、暑さに苦しみました。また台風の強風にも苦しめられました。王は、「旅には、強い日差しや強風が大敵だ。何とかならんかなあ。」と思いました。

とある宿場町に近づくと、街路にイチイが植えられていました。

王は宿場町の長に問いました。

王「街路にイチイが植えられているが、これはなぜだ。」

宿場町の長「このイチイは、強い日差しと風から、旅人を守るためのものです。」

王はこの言葉に感銘を受け、国中の街路にイチイを植えるよう命じました。


10年後の冬、王は再び馬車で領地を視察することにしました。10年前にイチイを植えさせたことで、強風を防ぐことはできましたが、年中日差しを遮るがゆえに、冬場に街路の雪が融けないという問題が起こりました。そこで王は、イチイをやめて、冬に落葉する木にしなければならないと思うようになりました。とある畑道を通ると、その両側には桑畑があり、落葉していました。王は「これだ。桑なら、夏は強い日差しから旅人から守り、冬は落葉して日を通し雪が融ける。その上桑の葉は、蚕の餌となるので、養蚕にも役立つ。」と思いました。王は、国全土の街路を桑に植替えるよう命じました。


10年後の春、王は隣国の招待を受け、馬車に乗って隣国を訪問しました。隣国の街路には桃の木が植わっており、桃色の花がきれいに咲いていました。王は、隣国の王に会い、桃を植えた訳を聞きました。

隣国の王「街路に桃の木を植えたのは、春は花を楽しめ、夏は桃を食べられるからです。」

王「なるほど。これなら旅人は、春には美しい花で疲れが癒され、また夏の暑い時期には甘い果汁で水分補給できる。我が国は、街路に桑を植えているのですが、旅人には桃の方が有用ですな。いいことを教えて頂きました。我が国も、桃を植えようと思います。」

王は帰国し、国全体の街路を桃に植替えるよう命じました。


5年後の秋、遠方の2つの国から使者が来ました。

ある国の使者「我が国では、街路に桜を植えておりますが、こちらの国では桃を植えておられます。なぜ桃を植えるのでしょうか。」

王「これは隣国に教わったのだが、桜は花だけだが、桃は花も実も楽しめる。」

使者「ほお、なるほど。確かにそれなら一石二鳥。すばらしい。私も帰国したら、このことを王に伝えします。

別の使者「確かにそれはすばらしい。我が国は街路に銀杏(いちょう)を植えているのですが、これは秋に銀杏(ぎんなん)を収獲するためです。しかしながら、銀杏は臭く汚いので、旅人には不評でした。私も、帰国したら王に伝えます。」

王「うん・・・、銀杏は秋に収穫するか・・・。確かに桃は、春に花、夏に実を楽しめるが、秋はこれといって役に立たん。桃に加え、何か秋に実のなる木を植えた方がいいなあ。」

家来「秋といえば、栗はいかがでしょう。秋は、収穫の秋にして食欲の秋。栗なら、旅人の空腹を満たしてくれます。」

王「うん、それだ。桃を半分切り、そこに栗を植えるのだ。」


5年後の秋、王は領地を視察しようと、桃と栗が交互に植わった街路を馬車で移動しました。すると、従者が「痛い」といって足の裏を見ていました。

王「どうしたのだ。」

従者「お騒がせして申し訳ございません。栗のイガが刺さったのでございます。すぐに刺を抜いて後を追いますので、このままお進みください。」

王「そうか。しまった。栗にはイガがあった。すまん、許せ。余は、栗を植えれば、秋の食料になるとばかり思っていたが、イガのことをすっかり忘れておった。」

随行大臣「おそれながら、正直申しまして、街路の栗は失敗であったと思います。しかし、旅人の足を傷めるということは、攻め入る敵兵の足を傷めるということでもあります。街路の栗は切るとして、栗のイガを播き菱の代わりにしてはいかがでしょうか。」

王「うん、それはよい考えだ。栗のイガは武器として回収し、街路の栗を切るとしよう。」


翌年の秋、南の領地からみかん、北の領地からりんごが献上されました。これを見て王は思いました。

王「南国の街路は桃に加えてみかん、北国の街路は桃に加えてりんごを植えるのだ。これなら、春は桃の花、夏は桃の実、秋はみかんかりんご。街路樹はこれで決まりだ。」

王の命令で、南方は桃に加えてみかん、北方は桃に加えてりんごが植えられました。そして旅人は、春は桃の花を見、夏は桃の実を食べ、秋はみかんかりんごを食べ、旅人は大満足でした。


数百年の時が経ち、道路はアスファルト舗装され、自動車が往来するようになりました。すると、桃の木もみかんの木もりんごの木も、排ガスを浴びて育ちが悪くなり、また見通しを悪くする邪魔な存在として切り倒されました。街路にはガードレールや縁石が設置され、交差点には信号機が設置されました。


数十年の時が経ち、自動車の動力は内燃機関から電気モーターになり、自動運転になりました。すると、街路脇にはガードレール兼用太陽光パネルが設置され、交差点には自動運転支援機器が取り付けられました。


数十年の時が経ち、人は野生動物が理性的な行動を取るように、遺伝子を操作して彼らの大脳を巨大化させました。知能が向上した猿や熊は、移動中に食べ物に困らないように、獣道(けものみち)の両側に桃やみかんやりんごや栗の木を植えました。こうして一度は衰退した街路樹も、獣道樹として復活しました。また知能の高くなった獣は、ドライフルーツなど保存食を開発し、また巣穴を作り、全頭冬越しするようになりました。山に食料がたくさん実るようになった結果、山の獣たちは人里に下りる必要がなくなり、人と争うことがなくなりました。


数十年の時が経ち、獣は山全体に実のなる木を植えましたが、獣はそれ以上に繁殖し、食料不足から大群で人里に下りるようになりました。困った人は、兵隊ロボットを使って獣を追放するとともに、山に化学肥料・殺虫剤・殺菌剤をまき、山の食料の増産を図りました。そうした結果、山の獣は一時的に里に下りなくなりましたが、数年後にはそれ以上に繁殖し、再び大群で人里に下りるようになりました。困った人は、獣の住む場所と人の住む場所の境に、大きな壁を作って出入りできないようにしました。すると山の獣たちは、石器を使って木を加工し、グライダーを作りました。そして山頂からグライダーで飛行し、大群で人里に下りるようになりました。


人はこの事態に危機感を抱き、マルサス大統領が高知能動物絶滅令を発令しました。ロボットのキャメロン将軍率いるロボット軍と、猿のブール将軍率いる高知能獣軍の間で大戦争が起きました。ロボット軍の圧勝に終わりましたが、史上まれに見る大規模戦争・大量殺戮であったため、第三次世界大戦と呼ばれました。以後、街路にも獣道にも、実のなる木が植えられることはなくなりました。

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