キングダムカムナウ

アラスカ

第1話

 空気が綺麗な気がする。

 眩しい程の青空。

 雲ひとつない。

 それがかえって不気味さをかもし出す。


 廃墟の街。

 道行く人は誰もいない。

 自動車もバイクも、自転車すら一台も通らない。


 「静かだね」

 男の胸に抱かれた猫がいった。

 「人間がいないとこうも静かになるものなんだ」


 この街に、もしかしたらこの世界に、人間は彼しかいないかもしれない。

 

 人類が集合的無意識で感じている不安、そして願望。

 人類は行き着くところまで来てしまった。

 もうどうしようもない。

 誰もが思っている。

 いっそ滅亡してリセットした方が良い。

 誰もが思っている。

 リセットして再び人類が生まれる確証はないが、大多数がそう思わずにはいられない程の末期的症状のこの世界。

 

 金金金金。

 世の中は金。

 

 暗い事件のニュースばかりが毎日のように流れる。

 

 無能な政治家。

 

 すぐキレる若者。

 すぐキレる老人。

 

 自分の事しか考えられない人々。

 

 いじめ。

 

 若者の夢を食い物にする腐った大人。

 

 我が物顔で走る自動車。

 

 くずな親から生まれたくずな子供。

 くずの連鎖。

 

 傲慢な人類。

 

 「これが答え」

 猫がいった。

 猫の名前はバニラ。元捨て猫。男が名前をどうしようかと思った時、たまたまバニラアイスを食べていたのでバニラという名前になった。

 「ボクは君の事が好きなんだ。いつまでも一緒にいたいと思う」

 

 鳥の羽ばたきが聞こえた。

 男は空をあおいだ。

 雀、鳩、カラス。

 いたるところでよく見かける鳥たちが列をなして空を飛んでいた。

 空を覆う位の数。

 まるで天変地異が起こる前触れ。

 鳴き声は聞こえない。

 あのうるさいカラスでさえ鳴かない。

 

 気づくと道路に立つ男を避けるように犬や猫たちが歩いていた。

 多分ほとんどが飼い猫、飼い犬だろう。

 どうやって首輪を外したのか、どうやって家から出てきたのかわからないが。

 野良猫はたまにみかけるが、これ程大量の犬や猫が歩いているのは見たことがない。

 ハメルーンの笛吹きを実際に目の当たりにしたらこんな感じなのかもしれない。

 

 犬や猫たちは一様に男に悲しげな、いや、哀れみの目を向けていた。

 

 「でもだめなんだ」

 バニラは男の腕から軽やかに飛び降りた。

 「お別れだ。さようなら」

 バニラは振り返りもせずに列をなして歩く動物たちに合流した。

 

 男はしばらくバニラの後ろ姿をみつめていた。


 Thy kingdom come.

 その日人類は地球から消えた。

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キングダムカムナウ アラスカ @alaska_s

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