テリブルブラックアウト

アラスカ

第1話

 彼女はブレザーを着ている。

 多分学校の制服だ。どこの学校かまではわからないが、同じ世界からやって来た事は間違いない。

 彼女は3人の男を連れていた。

 1人はメガネをかけたクール系。腰の日本刀に手をかけている。

 1人は赤っ髪のワイルド系。なぜか上半身裸で両手にはサブマシンガン。

 1人は金色の髪をしきりにかきあげているナルシスト系。思い立ったように時折地面に鞭を叩きつけている。。

 3人が3人とも目をギラつかせ臨戦態勢だ。

 「おいちょっと待て!」

 ラージソードと呼ばれる大剣を背負った男は手のひらを彼らに向けて叫んだ。

 「お前ブレザー……!」

 「問答無用」

 気づくとクール系メガネ剣士が目の前に迫っていた。刃の妖しい輝きが目に飛び込んで来た。


   ***


 眩しい。

 目をすがめる。

 徐々に目が明るさに慣れる。

 青空だ。

 雲もいくつか気持ちよさそうに流れている。

 風が吹いた。

 さわかやかな風。

 葉擦れと鳥たちのさえずりが心地良い。

 菅野和希ははっとした。

 「何でほのぼのとした気持ちで空見てるんだ俺!?」

 和希はスプリングが弾けるように上体を起こした。

 「どこだここ……?」

 彼はあたりを見回しながらつぶやいた。

 木々が鬱蒼と茂っている。

 森…… らしい。

 昨晩は確かに自分の部屋で寝ていた。

 その証拠に着ている物は普段部屋着にしているジャージにパーカーだ。

 それがなぜ?

 

 1.アブダクションされて森の中に放り出された。

 2.異世界に召喚された。

 3.寝ぼけただけ。

 

 どれもあり得ない。。

 が、家の近所にこのような本格的な森などない。

 まったくわけがわからない。

 とりあえず立ち上がろうとして手に何かあたった。

 剣があった。

 それもラージソードと呼ばれる身の丈もあるような長さを持ち剣身部分が異様に広い大剣。

 何気なく大剣を手に取った。

 『ライトニングストライク』

 まさに落雷のように頭に閃いた。

 何の疑いもなくその大剣の名前だと思った。

 和希は立ち上がり大剣を背負った。


   ***


 どういう理由でここにいるのか。

 どこへ行けば良いのか。

 何をすれば良いのか。

 何もわからなかった。

 とりあえず森を抜けて、人のいる場所へ行こうと思った。

 どちらに行けば良いかまるでわからない。勘にたよる他なかった。

 しばらく歩いているとりんごを2つくっつけたような果物をみつけた。

 匂いをかぐ。食べれるかどうかわかるわけがない。

 ちょっとかじる。甘い。食感はりんごっぽいが味はバナナに似ていた。

 ポケットにつめこめるだけつめこんで先に進む。

 小川をみつけた。小さな魚も泳いでいる。手を洗って、ついでに顔も洗って一口飲んだ。

 美味い。口を川面に突っ込んで飲んだ。

 水も持って行きたいがボトルがない。時代劇で見るような竹の水筒でも作ろうかと思ったが、この森の中で唐突に竹があるわけなかった。

 どうしようもないので諦めた。

 先に進む。

 

 最初に出会ったのは人ではなく野犬だった。

 十数匹の野犬の群れ。

 野犬の群れはリーダー格がいて、それを倒せば統制が取れなくなるらしい。

 漫画で見た。

 が、どいつがリーダーなのかまるでわからなかった。

 すっかり囲まれている。

 彼らは牙をむき出し、重低音の唸り声を上げていた。

 不思議と怖くなかった。

 心のどこかでこれは夢だと思っているのだろうか。

 和希はラージソード『ライトニングストライク』を構えた。

 喧嘩は先手必勝だ。

 和希は一歩踏み出し、野球のバッティングのように大剣を思い切り振った。

 「ライトニングパラライズ!」

 前方数匹の野犬が痙攣を起こしたように身体を震わせて動かなくなった。

 なぜかこんな事ができる。

 和希は振り返りながら残りの野犬を薙ぎ払うように大剣を振るった。

 「サイドスラッシュ!」

 ただの横斬りだ。

 野犬は悲鳴に似た声をあげ黒い霧となって弾け飛んだ。

 「なんだこいつら? 動物じゃねーの?」

 ちょっと嫌な予感がした。

 和希は先程の麻痺して動けなくなった野犬の群れに向き直り、再びサイドスラッシュ(ただの横斬り)をお見舞いした。

 野犬の群れはすべて黒い霧となって弾け飛んで消えた。


   ***


 陽のあるうちに人里にたどり着きたいのに、またおかしなモノに絡まれた。

 粘液生物のスライムだ。

 先程の野犬では『嫌な予感』だけだったが、こいつを見て確信した。

 ここは異世界、ファンタジー世界だ。

 RPG系のゲームはやった事がないので、スライムという名前や形状は知っているが、倒し方がわからない。形状からして斬っても分裂しそうだ。魔法が使えれば燃やしたり凍らせたりすれば良さそうだが、もちろん和希は魔法など使えない。

 そこで和希は大剣で穴を掘り、スライムを誘いこんで穴に落として埋めた。

 

 しばらく歩くと桃に似た果物をみつけた。形は桃に似てるが味はバナナだった。

 またバナナ味。この森の果物はバナナ味しかないのだろうか。

 その場で腹いっぱい食べて、ポケットにつめこめるだけつめこんで、今度はパーカーのフードにも入るだけ入れてまた歩き出した。

 

 どの位歩いただろうか。

 疲れたのでちょっと休もうかと思った時にブレザーの彼女が現れた。


   ***


 和希は刀を抜こうとするクール系メガネに向かって飛びかかった。

 柄を握る手を押さえる。

 そのまま上体を反らせて、クール系メガネの眉間めがけて思い切りヘッドバットを叩き込んだ。

 顔をしかめて怯んだクール系メガネを押しのける。

 「ちょっと待て、お前! 俺はあのブレザーの子に話があるんだ!」

 和希はブレザーの少女を指さして叫んだ。

 少女も和希を指さした。

 淡い栗色の長い髪。

 美人だ。

 背も高くスタイルも良い。ミニのプリーツスカートから伸びた脚も綺麗だ。

 が、足元がおぼつかないように見えた。

 「タカシ…… やーって……」

 突然糸の切れたマリオネットのように彼女はその場に膝から崩れ落ちた。

 「え!? おいっ!」

 和希は思わず手を伸ばした。

 目の前のクール系メガネが白い霧となって消えた。

 「い!?」

 ブレザー少女の両隣に立っていた金髪と赤髪も消えていた。


   ***


 唐突にむくりとブレザー少女は上体を起こした。

 しかめっ面で乱暴に頭をかく。

 「んー……」

 寝ぼけ眼であたりを見回す。

 和希と目が合った。

 彼女ははっとした。

 和希から目を離さない。

 彼女は目を見開きくちびるを震わせた。

 和希が腰のあたりにかけたあげたパーカーを胸にたぐりよせ、怯えた顔でじりじりと後ずさった。

 「おい、ちょっと待て。俺は何もしてないしする気もない」

 彼女に『怯え』を感じ取った和希が懸命に誤解を解こうと試みる。

 「そりゃそんなミニスカはいてるから、気にならないっていえば嘘になるけど? まあ、そこはほら、俺も男って事で。でも神に誓って俺は何もしてないぞ。無防備なかっこしてるからパーカーはかけたけどな。奥が気になっちゃうし」

 和希はちらと彼女を見た。

 彼女は聞いてはいなかった。

 何を思ったか和希のパーカーに鼻を当てて匂いをかいでいた。

 ポケットからバナナ味の桃を取り出す。

 「これ」

 彼女はバナナ味の桃をかかげた。

 「え?」

 「食べられる?」

 「え? うん。美味いよ」

 「食べていい?」

 「うん」

 和希はうなずいた。

 余程お腹が空いていたのだろう。あっという間に桃バナナがなくなった。

 「もっとない?」

 そういいながら彼女はパーカーをまさぐった。

 ポケットからもう一個取り出し、手のひらにのせて小首を傾げた。

 「いや、それは何の真似だ? 桃バナナのCM?」

 彼女は声をたてて笑った。

 「食べていいかきいてるの」

 「きいてないじゃん」

 「ははは」と笑いながら彼女は和希の返事もきかずに桃バナナにかぶりついた。

 和希はほっとした。とりあえず誤解は解けたようだ。

 「もうないの?」

 彼女がポケットからハンカチを取り出して訊いた。くちびるを拭く。

 「まだ食うのかよ。どんだけ大食いなんだよ」

 「だってお腹空いちゃって」

 「何それ。もしかして何日も食ってないとか?」

 和希はジャージのポケットから桃バナナを取り出し、彼女の方に向かって軽くトスした。

 「ううん。さっき……」

 彼女は両手を上げて桃バナナを待ち構えた。

 「痛っ!」

 見事に額を直撃した。

 「何やってんだよ? 大丈夫?」

 「うん」

 彼女は額をさすりながら桃バナナを食べ始めた。

 「生バンザイ初めて見た」

 「何それ」

 「野球であるじゃん。フライ捕ろうとしてバンザーイってやつ」

 「ああ。野球見ないけど」

 「俺も見ないんだけどね」

 和希は愛想笑いを浮かべた。彼女は不思議そうな顔で和希をみつめながら黙々と口を動かしていた。

 食べ終えた彼女の目は何かを訴えていた。

 「もっと……」

 「もうないよ!」

 「これどこにあったの? 美味しかった」

 「ここに来る途中にあった」

 「採って来てよ」

 「自分で行け」

 「ねえ、喉乾いた。水持ってない?」

 「ないよ」

 「汲んで来て」

 「無理。ボトルとか水筒とかないし」

 「ボトルならあるよ」

 彼女はあたりを見回した。枕にしてたスクールバッグからミネラルウォーターのラベルが貼られたペットボトルを取り出した。

 ちょっと凹んでいる。気づいた彼女はベキベキと音を立てて直した。

 「ほら、これ」

 彼女は満面の笑顔でボトルを差し出した。

 和希は思わずどぎまぎして彼女から目をそらした。

 「仕方ねーな」

 和希は照れ隠しにぶっきらぼうにいい放って立ち上がった。

 大剣を担ぎペットボトルに手をのばした。

 彼女はボトルを手放さなかった。

 「何? 手を離してくれないと……」

 「飲み口に口つけたりぺろぺろなめたりしたら殺すから」

 「しねーよ!」

 和希は乱暴にボトルを取り上げた。

 彼女は声を上げて笑った。

 「あと桃バナナとか他のフルーツとかあったらよろしくー。いっぱい採って来てねー」

 和希はパーカーを拾い上げ、無言で彼女を後にした。

 

   ***


 小川から水を汲み、大量の桃バナナや林檎バナナ、そして今回新たに発見したイチゴバナナをパーカーにくるんで彼女の元に戻ると、クール系メガネが復活していた。

 クール系メガネに膝枕してもらっていた彼女が和希に気づいて上体を起こした。

 「おかえりー」

 満面の笑みで出迎える。目がキラキラと輝いていた。和希が戻って来た事よりフルーツを待ちわびていた事はあきらかだ。

 「何なんだよそいつは。どっから湧いて出やがった」

 「ん? 彼はタカシ。式神」

 彼女はパーカーをひろげながらあっさり答えた。

 タカシと呼ばれた式神、クール系メガネが軽く会釈した。

 「式神ぃ!? 何それ。ここには似合わないって思うんだけど。使い魔とかじゃないの?」

 「大量じゃん。何これ美味しい!」

 彼女は嬉々として大量のフルーツを貪り食った。

 「もごもごもご」

 彼女がリスのように頬を膨らませて何事かしゃべった。

 「飲み込んでから話せよ」

 「ていうかさ、ここどこ?」

 「今更かよ!」

 「そういえば、あんたの名前、まだ訊いてなかったよね?」

 彼女がイチゴバナナを食べながらいった。

 「俺は菅野。あんたは?」

 「リシャ…… ごくん。梨沙」

 「いきなり名前かよ!」

 「名前っていったじゃん」

 「名前何って聞かれたら名字いわない? 普通」

 「名前何ってきかれたら名前いうでしょ? 普通」

 「まあいいや、どっちでも。で、梨沙さんはどうやってここへ?」

 「知らない。菅野君は?」

 「知らないってお前……」

 和希ははっとした。

 「まあ確かに、どうやってここへ来たのかわかんないな……」

 「わたしね、帰りに、ああ、学校の帰りにみんなとゲーセンで遊んでたんだ。で、そろそろ帰ろうって事になってトイレ行ったの、わたしだけ。で、トイレから出たら森の中。もーわけわかんねー」

 梨沙は大笑いした。笑いすぎてむせ返った。タカシが背中をさする。

 「学校の帰り!? それ何時頃? ていうか、いつからこっち来てるの?」

 「いつからって……」

 梨沙の食べるスピードが若干落ちた。

 「菅野君に会うちょっと前? 2、3時間前? ゲーセン行ったのが夕方の6時位で、一時間位かな、遊んだの」

 「あり得ねー!」

 和希は叫んだ。

 「何。びっくりするじゃない。いきなり大声出さないでよ」

 「俺が気づいたのも多分2、3時間前。で、俺は寝てたんだよ、自分の部屋で。寝たのは深夜1時過ぎだったかな。だから正確にはいつこっちに来たかわかんないけど、気づいた時間は同じ位なのに最後に向こう、現実世界にいた時間が全然違うじゃん」

 「うん、そうだね。で?」

 「いや、それだけ」

 「要するにアレでしょ? ここがどこなのか、どうしてわたしたちがここにいるのか、何ひとつわからない…… って事でしょ?」

 「何もわからない事がわかったって悲しいな……」

 「あと、わたしいきなり式神召喚できたんだけど、それも謎。何か、天の声が聞こえて色々教えてくれた、とかじゃなくて、なぜか知ってるんだよね、色々。やり方とか」

 「ああ、それ俺もある。普通にこの剣使えてたし」

 和希は木に立てかけた大剣を軽く叩いた。

 「何でだろうね」

 「何でだろうね」

 「そのうちわかるのかな?」

 「わかるといいな」

 「で、菅野君はどこ行こうとしてたの?」

 「いや、とりあえず人がいるとこ行こうと思って。村とか町とかどっかにあるんじゃないかなーって」

 「人、いるのかな?」

 「嫌な事いうなよ。まあ、あるかも、だけど。今まで人に会ってないし。梨沙さん以外」

 「わたしも。変なイノシシみたいな群れには出くわしちゃったけど」

 「イノシシかよ。こっちは野犬にスライムだったよ。野犬だけなら現実世界のどっかの森? って思っちゃったかもだけど、スライムなんて出てきちゃったからなー」

 「そうなんだ。わたしはイノシシだけ」

 「ていうかそういえば、何で俺に襲いかかって来たわけ?」

 「あはは、ごめんごめん。お腹空いてたから、何か食べ物持ってないかなーって」

 「欲しい物は奪うって山賊かよ! まず話せよ!」

 「ごめんっていってるじゃん。どっちも何事もなかったんだからもういいでしょ」

 「いや、まあいいけど……」

 「あー食べたー!」

 梨沙は脚を投げ出して両手を上げて隣に座るタカシの肩にもたれかかった。

 和希はぎょっとした。

 梨沙のお腹がまるで妊婦のように膨れ上がっていた。

 「食べたーっていくらなんでも食い過ぎだろそれ! 力士かよ!」

 「ああこれ?」

 梨沙は何事もないかのような顔ではち切れんばかりに膨らんだ腹を叩いてみせた。

 「うけるよね。写真撮っとこ」

 梨沙はスマホを取り出しタカシも入れて自撮りした。

 「いや、お腹に赤ちゃんがいる、ならわかるような気もするけど、食べ過ぎでデブった自分とか人に見せたくないとか思わない? 普通。女子なら特に」

 「ん? まあそうかもね。わたしはあんまし気にしないけど。面白いし」

 意外とこの子は大物かもしれないと和希は思った。この異常な状況も楽しんでるように見える事も含め。

 「ちょっと見てて」

 梨沙はそういって自分の膨らんだ腹を指さした。

 ブレザーのポケットからカードケースのような物と鳥の羽を取り出した。

 カードケースに入った紙に鳥の羽の先を滑らす。どうやら羽ペンのようだ。羽ペンを使って紙に何か書いている。

 「よろしく、ゼーン。いらっしゃい、イヴ」

 そういうと紙を2枚放り投げた。

 さっき見た金髪と赤髪が現れた。

 梨沙の膨らんだ腹がみるみるスマートになった。

 「よう、リサ。大丈夫か?」

 赤髪がいった。

 「こいつ、シメればいいのか?」

 赤髪が野獣のように目をギラつかせて和希を見た。

 「やめて、ゼーン。彼は友達だから」

 「やあ、子猫ちゃん。さっきぶり」

 金髪がいった。

 「聞いてたと思うけど彼は敵じゃないからね、イヴ」

 「わかってるよ、子猫ちゃん」

 「いや、子猫ちゃんて……」

 和希は苦笑した。

 「子猫ちゃん」

 そういって梨沙は自分を指さした。

 「ていうか見てた? わたしのお腹」

 「見てた、見てた。すげーな。どんな手品だよ」

 「何かね、式神召喚と式神使用するための妖力? マナ? みたいなのを食べ物から吸収するみたい、わたし。だから3人も召喚するとメチャお腹減るっぽい。もうちょっと小腹が空いてきた感じだし」

 「マジかよ。食費が大変そう」

 「ねえ。どうしよう。この森に住むしかないのかな。果物ただだし」

 「ていうかそいつら使えば良かったんじゃね? 果物摂り行くの」

 「まあできなくもないかもだけど。彼らはわたしから約1km以上離れちゃったら消えちゃうんだよね」

 「そうなのか」

 「そう。だから菅野君、これからもよろしく」

 「よろしくじゃねーよ!」

 2人は声を上げて笑った。

 「何だ何だ、随分仲良くなってるじゃねーか」

 赤髪のゼーンが目をギラつかせていった。

 「私とも仲良くしてくれる?」

 金髪のイヴが和希の肩を抱き寄せ頬にキスをした。

 「ななななな……」

 和希は頬を押さえて固まった。

 梨沙が大笑いした。

 「イヴはそういうキャラだから、気にしないで」

 「気にするわ!」

 梨沙は更に笑った。

 「それじゃ、そろそろ行く?」

 梨沙が立ち上がりスカートを直して尻を両手で払った。

 「え? 行くってどこへ?」

 「とりあえず人里目指すんじゃないの?」

 「そうでした」

 和希は愛想笑いを浮かべていった。

 「んじゃどっち行けばいいかわかんないけど、出発しよっk」




 眼の前が真っ暗になった。

 「っざけんなよー!」

 俺は机に思い切り拳を落としながら叫んだ。

 停電。

 雷が鳴っていたのはわかっていた。

 「まあ大丈夫だろう」とたかをくくっていたが全然大丈夫ではなかった。

 PCを使って書いていた小説が電子の海に消えていった。

 当然保存はしていない。

 「また最初っからかよ……」

 俺は暗闇の中で深い溜息とともにただうなだれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

テリブルブラックアウト アラスカ @alaska_s

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る