ユニークワールドヒーローズ

アラスカ

第1話

 浦里光隆は思わず後ずさった。

 澄み切った爽やかな朝の青空に巨大な円形の紋章のような物が浮かんでいた。

 魔法陣だ。

 いや待て。

 魔法陣が見えるのはモニターの中かディスプレイの中だけだろう。

 大がかりな宣伝か何かか?

 光隆は助けを求めるようにあたりを見回した。

 朝。通学、通勤途中の人々で溢れかえっているにもかかわらず、誰一人として空を見上げる者はいなかった。

 おかしい。

 あれほど巨大な物が浮かんでいるのに、気づいたのが光隆ただ一人というのはどう考えてもおかしい。

 光隆はブレザーのポケットからスマホを取り出して魔法陣に向けた。ディスプレイには魔法陣が映っているにもかかわらず、写真画像ではただの綺麗な青空だけだった。

 「ありえねー!」

 光隆は思わず声をあげた。

 道行く人々が何事かと彼に顔を向けた。

 光隆は仏頂面を彼らに返し歩き出した。

 どうやら光隆にしか見えないらしい。

 頭がおかしくなってしまったのかと血の気が引くのを感じた。

 光隆は歩きながらもう一度魔法陣を見上げた。

 円形の帯状の部分がゆっくりと回っている。そこにはただの装飾なのかわからないが、文字のような物が書かれてあった。

 『放課後市立図書館に集合』

 装飾なのか文字なのかわからない物を目で追うとその文が頭に浮かんだ。

 --文字なのか!? 俺、読めてんの? 何で!?

 頭が痛くなって来た。

 爽やかな朝が台無しだ。

 学校を休みたくなった。

 

   ***

 

 初めて来た市立図書館は小洒落た喫茶店のような外観だった。

 自動ドアのエントランスから中へ入る。

 光隆を待っていたかのように職員と思われる女性が近づいて来た。

 「浦里光隆様ですね。こちらへどうぞ」

 女性が笑顔で促した。なぜか名前まで知っている。

 光隆は無言で彼女に従って歩いた。

 エレベーターに乗り地下へ降りる。

 目的地が地下20階にあるのには多少面食らった。

 電子音が鳴ってドアが開いた。

 10人位並んで歩けそうな幅の広い通路が延々と続いていた。本当にどこまで続いているのか奥が見えない。天井も高い。壁や床はさっきまでいた図書館の内装とほぼかわりないように見えた。

 職員の女性はエレベーターを降りてすぐの、向かって右の部屋に入るよう促すとまたエレベーターに乗って行ってしまった。

 光隆はとりあえずドアをノックした。

 返事がない。

 もう一度ノックしてドアに耳をあてた。

 やはり返事がない。

 光隆は思い切っておそるおそるドアを開けた。

 男と女が目を見開き光隆を見ていた。光隆と目が合うと緊張が解けたようにほっとした顔で両方共目をそらした。スマホに目を落とす。

 『何だよ。いるんなら返事位しろよ』と思ったが、口には出さなかった。

 男はどこの学校かはわからないが学生服を着ていた。容姿は可もなく不可もないといった感じだ。ちょっと暗そうに見える。

 女は五中の制服を着ていた。淡い栗色の長い髪に褐色の肌をした美少女。目つきは若干きつい。

 『まあ美人だけど、今どき黒ギャルかよ』と思ったがさすがにこれも口には出さなかった。

 2人は大きなテーブルを挟んで対面に座っている。

 光隆は部屋を見渡した。

 教室位の広い部屋だった。天井は通路並に高い。自販機が3台並んでいる。

 「ここ、何?」

 光隆は誰にともなく訊いた。

 少年と少女は首を傾げて顔を見合わせた。

 「あんたら知り合い?」

 2人は無言で頭を振った。

 「あ、そうだ。あんたらも朝、アレ見たの?」

 「あれ?」

 少女が訊き返した。

 「魔法陣、つうの?」

 「見た。もう気持ち悪くってさ。誰も見てないっていうし。写真にも撮れないし」

 少女が不機嫌そうにいった。

 光隆はふっと笑った。

 「何?」

 少女が目ざとく光隆の笑みをとらえた。怒った猫のような目になっている。

 「いや。俺も写真撮ろうと思ったけど撮れなかったから。やっぱ同じような事するんだなーって」

 「あ、そう」

 少女は表情を緩めて再びスマホに目を落とした。

 「あんたも見た?」

 光隆は少年に訊いた。

 「うん。見たよ。びっくりした」

 少年はにこりとした。

 光隆は少年の横に座ろうと思ったが自販機が気になって思いとどまった。

 自販機の前に立つ。冷たい飲み物、温かい飲み物、アイスにチョコ、スナック菓子まであった。

 コーラでも飲もうかとお金を入れようと思ったら挿入口がなかった。

 「あれ? 何だこの自販機」

 「どうしたの? わたし紅茶。ミルクティよろしく」

 「自分で買え。つか、金入れるとこないんだよこれ」

 「何それ」

 興味を持ったらしく少女が笑いながら立ち上がった。

 「ほんとだ。どこにもない。変なの。お金入れなくてもボタン押したら出たりして」

 そういいながら彼女はホットミルクティのボタンを押した。

 音を立ててミルクティの缶が取り出し口に落ちて来た。

 「ほんとに出た。何これ。ただなの?」

 少女は缶の熱さに持つ手を交互に変えながらいった。

 「賞味期限ぎりぎりとか?」

 「どうだろ」

 少女はプルタブを引いてミルクティを一口飲んだ。熱かったのか顔をしかめて舌をちょろっと出した。

 「熱っ! ていうか普通においしいけど」

 「飲んで確かめるのかよ。普通賞味期限書いてあんだろどっかに」

 「いいじゃん別に。気にしないし。チョコも食べちゃおっかなー」

 そういって彼女はチョコレートだけでなくスナック菓子のボタンも押した。

 ドアをノックする音が聞こえた。

 全員が驚いてドアを見た。

 「どうぞ」

 2人とも何もいわないから光隆が返事をした。

 誰もがはっとするような美しい女性が部屋に入って来た。

 「はうっ!」

 入って来るなりコケた。

 コメディアンもびっくりな盛大なコケ方だ。

 「こんな、人がつまづくようないたずらをして。先生許しませんからね」

 彼女は恥ずかしいのか真っ赤な顔をして上体を起こした。

 それ自体が発光してるかのように輝く金色の髪。爽やかな青空のように澄み切った青い瞳。ミルクのように白い肌。流暢に日本語を話すが紛れもなく日本人ではなかった。

 「いたずらとかしてねーし。勝手にコケただけじゃん。それも何もないとこで。つか、先生なの?」

 光隆が半笑いでいった。

 「南高校で英語の教師をしています、サラ・マーティンといいます」

 スーツ姿の美しい女性は床で女の子座りをしながら自己紹介をした。

 「あなたは?」

 サラは光隆をまっすぐに見て訊いた。光隆は自分を指さした。サラがにこりとしてうなずく。

 「俺は一中の浦里。浦里光隆」

 あなたは? といった顔でサラは他の2人、黒ギャル美少女と学生服の少年にも答えるように促した。

 「わたしは五中の新井莉菜」

 「僕は第一高校の保田洋輔といいます」

 「五中はわかったけど、あんた高校生だったのかよ。つか、だったんですか」

 「いいよ、そういうの気にしないから」

 洋輔は笑いながらいった。

 「それで、これは何の会合なの?」

 サラが全員を見回して訊いた。莉菜のとなりに座る。

 「さあ?」

 「あなたたちも今朝のあれ、マジックサークル? 見たのよね?」

 「見たよ」

 「見た」

 「見ました」

 「日本てああいうの良くあるの?」

 「ねーよ! 常識的に考えてありえねーだろ、あんなの。俺らだけにしか見えねーし。変な文字書いてあるし、なぜか読めるし」

 「そうよね。わたしは5カ国語話せるのだけれど、あんな文字見た事ないのになぜか読めたのよね」

 サラは頬に人差し指をあてて何事か考えこんだ。

 彼女がいくつかわからないがそのしぐさが妙にかわいらしく見えた。

 「まだ誰か来るのかしら?」

 「さあ? まあここに呼び出したからには誰かしら来て説明してくれると思うけど」

 「そうね」

 サラはいつの間にか莉菜のスナック菓子の袋を手に持って食べていた。

 「ちょ……! 先生! いつの間に!」

 莉菜が叫んだ。

 サラは熱心にスナック菓子を口に運びながら「ん?」といった顔を莉菜に向けた。

 「それわたしのなんですけど」

 「あら、ごめんなさい。ちょっと小腹が空いちゃったものだから」

 「いいじゃねーか、どうせただなんだし」

 「いやまあ、いいんだけどね」

 莉菜が自販機からスナック菓子を取り出しながらいった。

 「先生も何か飲む?」

 「何があるの?」

 サラが自販機に向かおうとしてまたコケた。

 「光隆君ね。こんないたずらするのは」

 サラが顔を真っ赤にしていった。恥ずかしくてたまらないといった顔だ。

 「俺じゃねーし。つか何もないとこで何でコケるのかな?」

 「じゃあ洋輔君かな?」

 「いや、僕でも……」

 「教師が生徒のせいにするなよ…… 生徒じゃねーけど」

 「光隆君と洋輔君はいらないの? 飲み物」

 「俺コーラ」

 「僕はお茶をお願いします」

 サラがにこにこしながらコーラとお茶をテーブルに置いた。

 光隆はサラの笑顔を訝しげに見ながらコーラのプルタブを引いた。

 勢い良くコーラが吹き出して光隆の顔面を直撃した。

 「あはははは」

 サラが手を叩きながら大笑いした。

 「子供か、あんたは!」

 嫌な予感はあったが、まさか本当にこういう事をするとは思いもしなかった。

 「楽しそうでなによりです」

 いきなりの知らない声にその場の空気が一瞬で凍りついた。

 「なっ!?」

 声の主をみつけて全員がいすから立ち上がって身構えた。

 

   ***

 

 妖精と聞くとトンボか蝶の羽を持った手のひらサイズの女性、と思い浮かべる人も少なくないだろう。羽こそないが彼女は妖精に見えた。

 声の主、妖精の彼女はいつの間にかテーブルの上に立っていた。

 「そんな身構えないでください。わたしは怪しい者ではありません」

 『いや、充分怪しいだろ』と誰もが思ったが、誰も口には出さなかった。

 「ここへあなたがたを招待したのはわたしです」

 「あんたが色々説明してくれるんだな?」

 「はい」

 妖精はうなずいた。

 「それでは何から話しましょうか」

 妖精は考え込むような表情を見せた。

 「いやまずあんたは何だ? 何普通に会話してんだよ? 新手の人形? フィギュア? 誰かがどっかで遠隔操作とかしてんの?」

 光隆が訊いた。

 「そうですね。自己紹介がまだでした。わたしは……」妖精は再び一瞬考え込むような表情を見せ「アンドロイドです。妖精型アンドロイド。あなたたちパーティを支援します」

 「アンドロイドぉ!?」

 光隆が素っ頓狂な声をあげた。

 「かわいい!」

 サラも素っ頓狂な声をあげた。妖精をつかんで頬ずりした。ずっとこうしたいとうずうずしていたようだ。

 「あ、ずるい先生! わたしにも触らせて」

 莉菜も妖精に手をのばした。

 「うわっ! 何これ。ちょっとかわいいんですけどっ。おっぱいもぷにゅぷにゅ」

 「何やってんだよお前らは! かわいい! じゃねーよ! アンドロイド? こんな小さいのが動き回ったり普通に会話したりどう考えてもおかしいだろ」

 「何いきなりイキってんの? 今日は朝からおかしな事だらけだし。こんな事位じゃ驚かなくなっちゃったよ」

 莉菜が妖精の髪をなでながらいった。

 「ちょっと僕にも見せて」

 洋輔が興味津々といった顔で手のひらを差し出した。

 妖精はぴょんと跳ねて洋輔の手のひらに飛び乗った。

 「か、かわいすぎ!」

 莉菜は興奮した表情で両手を胸の前で震わせた。

 「じゃあ俺にも」

 光隆が手をのばした。

 「あんたはだめ」

 莉菜が光隆の手を叩いていった。

 「何でだよ」

 「へんなとこなでまわしそうだし」

 「しねーよ!」

 「いやらしい」

 莉菜とサラが声を揃えていった。いってから顔を合わせて吹き出して笑った。

 「そういえば、まだ名前を訊いてないですよね?」

 洋輔が手のひらに乗った妖精に訊いた。

 「名前はありません。シリアルナンバーならありますが」

 「じゃあわたしがつけたげる。ずばり、妖精さん」

 莉菜が得意げにいった。

 「ド直球だな。つかそれ、名前か?」

 光隆が鼻で笑った。

 「何だよ? じゃあお前が考えろよ」

 莉菜がむっとしていった。

 「いや、それでいいけど…… 本人がいいなら、だけど」

 光隆は口ごもった。

 「つか、そんな事より、説明聞こうじゃねーか、妖精さんに。俺らそのために集まったんじゃねーの?」

 全員が洋輔の手のひらに立つ妖精さんを見た。

 「ではお話します。まず最初に、わたしはチューンという組織に属しています。チューン本部はこの世界にはありませんが、支部はいたるところにあります。この場所もそのひとつです」

 妖精さんが全員を見回しながらいった。

 「チューンは『世界を幸せの旋律で満たす』という理念の元、活動しています。世界というのは今私達のいるこの世界だけでなく、あらゆる世界の事です」

 「あらゆる世界?」

 「パラレルワールドや多元宇宙、そして一般的に異世界といわれる特異時空世界、そのすべての世界の事です。そのすべての世界へ行き来することのできるゲートウェイがある場所、そこにチューンの支部があります」

 「なんか話が突拍子もなさすぎて頭が……」

 光隆が顔をしかめて頭を押さえた。莉菜とサラも頭痛を感じてるかのように頭を押さえていた。

 「今回私がこのパーティを組んだのは、異世界のひとつ、わたしたちがPD3-Γ18Δ15と呼んでいる世界の正常化が目的です」

 「異世界って事は、剣や魔法の物語って感じ?」

 「そうです」

 「いや、剣はともかく、俺ら魔法なんて使えねーし」

 「今はまだ使えないのはわかっています。でもあなた方は今朝の魔法陣が見えました。それは魔法使いの最低条件、『マナ』の感知ができるという事に他なりません。あとは私たちチューンが技術的にお手伝いさせていただきます」

 「そうなんだ」

 光隆は半ば強引に納得した。話を聞いてるとなんとなくできなくもない、というような気持ちになっていた。

 「PD3-Γ18Δ15世界は今、元来存在しない勢力によって蹂躙されています。その勢力にはわたしたちチューンと対抗する組織『アングル』の関与が疑われています。私たちの目標としては謎の勢力の殲滅、そしてアングルの駆逐、となります」

 妖精さんは続ける。

 「殲滅や駆逐といっても命を奪うわけではありません。それは元来その世界にいるはずのない存在すべてにいえる事ですが、その世界から消えるだけです。消えたら最後、その世界へは二度と干渉できません」

 「その世界では実質『死』ってわけなんだ」

 「そういう事です」

 妖精さんは全員を順番に見回した。

 「それでは最終確認をさせていただきます。チューンの一員となって私とともに世界平和に貢献していただけますか?」

 「オーケー。やるよ」

 光隆が最初に答えた。

 「もちろんやります」

 洋輔もうなずいていった。

 「大人として、教師として、この子たちだけ戦わせるわけにはいきません! 私も当然やります!」

 サラが立ち上がっていった。

 「……やるわよ」

 莉菜はやる気がなさそうにぼそぼそといった。

 「よろしいのですか? 莉菜さん」

 妖精さんが心配そうに莉菜の顔をのぞきこみながら訊いた。

 「よろしいですよ。で、次は何するの?」

 「あなた方が戦うための武器と防具を用意します」

 「武器っつったらアレ? バカでかい剣とか、剣と盾とか弓とかそういうの?」

 光隆がエアソードを振りながらいった。

 「防具ならアレ? 全身鎧の西洋甲冑みたいなの」

 「プレートアーマーね。ここはひとつ戦国武将みたいな甲冑でも面白いかも」

 洋輔が嬉々としていった。

 「女ならやっぱアレだよな?」

 光隆がにやりとして洋輔を見た。

 「わかってる。ビキニアーマーでしょ?」

 男ふたりは肩を叩きあって笑った。

 そんな彼らを莉菜は冷めた目で、サラは微笑みながら見ていた。

 「それもよろしいですが、既存のイメージにとらわれない自由な発想で考えてください」

 「考えるって? 用意してあるんじゃなくて、俺らが考えてその通り製作するって事?」

 「はい。形状、能力などをイメージしてください。わたしがそのイメージを具現化します」

 「マジかよ! ボクの考えたサイツヨの武器ってか!?」

 光隆が興奮して叫んだ。

 「その武器や防具って、いつも装備してるものなのですか?」

 洋輔が訊いた。

 「と、いいますと?」

 「例えば普段は普通の格好で、戦う事になったらかけ声やポーズで武器や防具を装備するとか、そういうのは無理ですか?」

 「おおっ! バトルモードに変身か! 漢のロマンじゃん!」

 「可能です」

 「良かった。じゃあ僕はもう決まってます。これでお願いします」

 「早っ」

 「実は特撮物とか大好きでね。前々からオリジナルの特撮ヒーローをいくつか考えてたんだ」

 「そ、そうなんですか。洋輔さんは顔に似合わない趣味持ってるんですね」

 「『さん』とかやめてよ。そういうの気にしないっていったでしょ? 呼び捨てでいいよ。同じチームっていうかパーティ? なんだから」

 「いやさすがに呼び捨てはちょっと…… 年上だし。じゃあ『君』で。洋輔君」

 「オッケー。じゃあ僕も光隆君で」

 「確認、そして完成しました。変身してみてください」

 「早っ」

 洋輔は興奮した表情で立ち上がった。真顔で両手を左右上下にせわしなく動かした。

 「変身!」

 学生服を着た洋輔が一瞬にして特撮ヒーローのような姿に変貌を遂げた。

 「おおーっ」

 光隆だけでなく莉菜もサラも驚きの声をあげた。

 「すげえな、マジ変身しちゃうんだ」

 光隆は何かを思いつきにやりと笑った。

 「で、新井さんはどういうかっこすんの?」

 「考え中。ていうかさ、あんたが考えてるようなエロいかっこなんて絶対しないから」

 「考えてねーっつーの。まあそれは置いといて、新井さんは幼稚園とかその位の頃、変身魔法少女物のアニメなんて見てなかった?」

 「何、突然。キモっ」

 「うるせーよ。で見てなかった?」

 「正確にはわからないけど、2人は僕の数学年下だから、ライチプリンセスかバナナプリンセス、またはメロンプリンセスってとこじゃない?」

 「そうそう! それそれ! メロンプリンセス! メロプリ!」

 莉菜が何度もうなずきながら叫んだ。

 「変身する時かけ声とかポーズとかあんの?」

 「確か……」

 洋輔がいおうとするのを光隆は莉菜に見えないように止めた。

 「メロメロメロンプリンセス! ゴージャス、メイクアップ! じゃなかったっけ?」

 莉菜が思い出しながらいった。

 「了解。確認しました」

 妖精さんがいった。

 「は? え? 何?」

 莉菜は何が起こったかわからないといった顔で全員を順番に見回した。

 光隆は必死に笑いをこらえていた。

 「完成しました。莉菜さん。変身どうぞ」

 光隆はこらえきれず大笑いした。

 「作戦成功!」

 「ちょっと待って! 何? わたしなんかした? 変身って何? わたしまだ何もやってないんだけど」

 「イメージしろっていわれただろ? で、新井さんはメロンメロンをイメージした。そして変身のかけ声をいった。つまり、そういう事だ」

 「はあ? ちょっと妖精さん。何勝手にやってくれちゃってんの!? わたし絶対変身なんてしないからね!」

 「仕方がありません。強制的に変身させます」

 「ちょ……っ! 待っ……!」

 制服姿の莉菜が一瞬で変身した。フリル過多の超ミニパニエスカートをはいた、どこから見ても『魔法少女』そのものの格好だ。

 「ちょっとバカ見るな! こっち見るな!」

 莉菜は顔を真っ赤にして超ミニのパニエスカートを両手で押さえた。

 「新井さん! かわいいじゃないですか!」

 洋輔が力をこめて叫んだ。

 「バカにしてるでしょ?」

 「してません! マジでいってます」

 「莉菜さんかわいいわよ。抱きしめたい位」

 サラがいった。

 「もうっ、先生まで…… って、先生!?」

 莉菜がサラの姿を見て素っ頓狂な声を上げた。

 サラもいつの間にか変身していた。それもSMの女王様よろしく、ボンデージファッションに身を包んでいた。丁寧にもバタフライマスクを着用して鞭を手にしている。

 「なんてかっこしてるんですか先生! それでも教師ですか! ハレンチな!」

 「いつの間にかこんな格好になっちゃったのよ」

 「イメージしなきゃそんなかっこにならねーだろ」

 光隆が真っ赤な顔でちらちらと艷やかなサラの肢体を見ながらいった。

 「何さっきから先生をちら見してんだよこのド変態ヤロー!」

 莉菜が金属バットを振り上げて叫んだ。

 「見てねーよ! つか、何で金属バット!?」

 「わたしの武器だ」

 「ありえねー! 魔法少女の武器は羽とかついたかわいらしいステッキだろ、普通」

 「あんたの変身コスはわたしが考えるからね。すげー笑えるやつにしてやる」

 「残念。俺もう決まってるから」

 「何よ。だったら変身してみせなさいよ」

 光隆は両手を広げてみせた。

 「はあ? 全然かわってないじゃない」

 「だからこれ。動きやすいようにジャージにでもしようかと思ったけど、めんどくさかったから学校の制服にした」

 「つまらない男……」

 「うるせーよ!」

 「じゃあ武器はわたしが決めてあげる。ぴこぴこハンマーとかどう?」

 「ざーんねん。武器も決まってる」

 光隆はブレザーの左右の腰ポケットから拳銃を取り出してテーブルに置いた。

 「デザートイーグル。かっけーだろ? どんな拳銃も出せるし弾っつーかカートリッジも出し放題。銃が武器っつーよりポケットが武器?」

 「ほんと、ありきたりでつまらない男……」

 「一々うるせーよ」

 「あ……」

 奇妙な声と同時に続けざまテーブルに何か落ちる音がした。

 光隆たちははっとしてテーブルを見た。

 腹のあたりからまっぷたつになった妖精さんがテーブルに転がっていた。

 「え? ちょっと何……」

 莉菜の声は震え、目に涙が盛り上がって来た。

 サラが鞭を振り抜いていた。

 「先生……?」

 光隆がうわごとのようにつぶやいた。

 サラが鞭を引くと今度はゴトリと音を立てて球状の物が転がった。

 特撮ヒーローを模した洋輔の硬質マスクだった。当然中身入りの。

 「……っ!」

 叫び声をあげる一瞬前、大きく開かれた莉菜の口の中にサラの鞭の先端が飛び込んだ。鞭は莉菜の後頭部を貫通した。鞭の勢いにひっぱられ莉菜の身体は後ろの壁に磔状態になった。

 「何やってんだよあんたはーっ!」

 今更ながら光隆はテーブルの銃二丁を手にした。

 その瞬間、莉菜を貫通した鞭の先端が壁を貫き縫うようにこちらの部屋に戻って来て、光隆の胸を後ろから貫いた。

 「ゴボ…… ゴボボ……」

 言葉のかわりに大量の血を吐き出して光隆はテーブルに突っ伏した。

 

   ***

 

 「誰もがヒーローになれるわけじゃないんだからね」

 血の匂いにあふれた部屋の中、サラの笑い声がヒステリックに響いた。


 了?

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