第14話 第6夜 日替わり前

四国08がモーズリを制圧した結果、彼女は内部プログラムを書き換えられて四国08の目的に従属するような下位人工知性に作り替えられたという。

そうでもなければ、こんな風に話し合えるはずもないのだ。

もっとも向こうには前回の記憶がない。

「ねえースラちゃん。初音みくって見ているとお腹が空いてこない?」

「まさかネギカモ丼ですか」

「ええっ、なんでわかったのーっ」

うーむ、記憶が抜けるのも程度の問題ありだな。

「え、何か言った?」

「いえいえ何も」

自分のことを棚にあげて私は心の中でコメント。

以前にも思わずジャガイモ語を使ったら、「ええーっ何それ、おもしろいっ」と言われた。

うーん、脅威がなくなるのは嬉しいんだけど、おギャグが効かないのはどーも。

そんな人生の無駄なことを考えながら、今回の私たちは“懐かしヶ原”近所の名店巡りをちょこっとだけやっていたのである。まだまだ世間に知られていない街のカレー屋巡りであった。カレー屋よ。あまねく有名になれい。

これまで“オタフタマタマガワ”から“懐かしヶ原”、“緑園学園”、“いずれ中央”ときて“いずれなっ”、“夢見すぎ”とタラバガニ鉄道沿線に沿って名店漁りをしていき、そしてついに“湘南ポル子中央”にまで足を伸ばした帰りなのである。もっとも“夢見すぎ”にはその名の通り何もないので(当時の談)コンビニ紀行になった。

ちなみにタラバガニ鉄道の横浜方面は“俺が峰”、“猫西屋”、“サムシング・ホシミャン”、“ホシミャン”、“グレートキング町”、“横浜西の方”、“横浜ちょっと左”、ときて“大横浜”になる。

さて帰り際、地元駅前に青い顔をしている女子高生が通り過ぎて、

む、こんな時間に女子高生が歩いてる。事件や! と思ってこれは首を突っ込まねばと思ったが、見ると鮫島ハルルだった。

事件性なし。

だってつおいもん。

しかしハルルは私に気がつくと、しばし呆然として、

「ス、スラちゃーんっっ」と泣きついてきた。

「しょうがないなあ。はるえもんはー」

「違う」

「え」

やはりなんかちょっと違ったか。

しかしハルルの指摘は想像を絶した。

「今は21世紀のはず。ということは主人公は代替わりしていなければおかしい」

「なんだってええええっっ!!」

という突っ込みを入れられて驚いたふりをしていると、「それじゃあね」とモーズリはフェイドアウトしていく。「どうもー」私は手を振り。

さておき。

「ええと、で、なんでしたっけ」

「デイブが」

ハルルおそるおそる。ふるふる。

「デイブが?」

「死んだあああ!」

「ん?」


*****

「この手紙を読んでいるころは、もう僕は君になっているだろう。

だから、僕はいわゆるひとつの、死んだ、とされる状態となっているだろう。

だが無論、僕は死んではいない。

もちろん、君の肉体として、これからは生きていく。

君が感じた悲しみは、この肉体の悲しみであり、すなわち僕の悲しみ。

君が望む喜びは、すなわち僕のよろこび。

これからは、ずっと一緒だ」


このようなことを言われた女はどうするか。

私は彼にふさわしい存在でなければならない。

私が有限なのは我慢できる。だが、彼が無限とならないのは我慢ができない。

いずれ消え去るような存在に甘んじることは、もう、できなくなった。

だから、私は。


誓約を破ることにした。ストーリーエンジンの誓約を。

*****


あちゃー。と置き手紙を読んで思った私。

そういえばこんなこと書いたような気がする。とゆーか書いた。あちゃー。

ほあっちゃー。

「スラちゃん、それってどーゆー意味なの?」

「いやセットして解除を忘れてたとゆーか」

以前、病気の再発で持たんなと思ったとき、念のために作っておいたシステムだ。

それがこんなところで暴発している。

というか、それは前のスラウェシがやったことなんだけど。

うーん、おもわず他人のせいにしたくなるこの気持ち。

これはやはり素体の影響があるのでしょうか。

思わずこの素体の本来の持ち主を思い出す。じろりとにらみ返されてしまう。

なんとなーくズルッコマークをしてしまいそうな、いやいや目の前にいたらぶっ飛ばされるがな。まさか人格のどこかで無意識で聞いてるとかないよね。(おびえー)

まずい。もしそうだとすると。


(は、ここはどこだ)

(ここはあなたの精神世界よ)

(精神世界? まさか、こんな横浜ミナトミライみたいな巨大さだけが取り柄の商店街が私の精神世界なのか?)

(いや、さりげなく実在の地名を出すのを止めなさい)

(でもあれは人間ではなく巨大ロボが入れる大きさですよ。いや、だからなんなんだ的な目線で見るのを止めて下さい。嘘です。ほんとはどうでもいいです)

(とにかくこうなったからには、あなたを乗っ取らせてもらうわ)

マインド早都ちゃん交戦宣言。

(えええー、そんなあ)

(さあ勝負よ)


これが伝説の精神世界バトルだ!


的なバトルが発生したらどうしよう。もうそうぼーそー半島してる私。

「さあ、書道部よ」

思わず声にでる。

「え、何言ってんのスラちゃん。もしかして書道にすべての謎を解く答えが」

「ごめんなさい。ちょっとしたイメージトレーニングです」にこやか。

「イメージトレーニングで書道! さすがすごいっ。半端なしっ」

ハルル絶賛スラ中。もうなんでも絶賛。

なんだかハルルの中で私が、どんなにかモエットイメージをふくらませているのかと思うと後先ちょっと怖い。女の子はみんなそういうことを考えたことがあるのです。だよね。

ちゅーわけでイメージバブル炸裂の前に話題を変えないと。


「ごめんぴぃー、前に書いておいたの取り消すのすっかり忘れてたああ」

「え。ごめんぴぃーって。ぴぃーって」

まずい。目の前に風船があるならつつけ。さもないと気が済まない。それは私ですっ。

いや、ほんと、こんなことやってる場合じゃないんだって。


こうして下らない話で際限なく時間を稼いだあげくとして本題。


「えーとうーんと。デイブMk3はあっさりやられたかブツブツ。でもまだMk2が残ってるから」

「え。デイブって何人もいるの?」

擬音には引っかからなかった。

「バックアップはコンピュータの基本常識でしょ」


「うーん、よし、じゃそいつやっつけちゃおう。明日、またおんなじとこに行くよー」

速度を上げるスラの提案。

「あした? はやい!」

あのハルルがついていけない。

こうして、私たちの反撃が始まったのである。


そしてここはとある電車内。


「おれ、君のこと大好きだから裸の写真撮りたい!」

「いいよ」

「いいの!?」(やったー)

「だがしかしリベンジポルノ対策は取らせてもらう」

「いや、そんなこと絶対しないって。俺の目を見てよ。これがそんな非道なことをする男の目に見える?」

「そんなことはどうでもいい。貴様の恥ずかしい写真をまず寄こせ。話し合いはそれからだ」

タフネゴシエイターです。

「は、恥ずかしい写真て例えばどんな?」

すると女性はちょっと恥ずかしそうに頬を染めて、カバンからどっこいしょとBLマンガが出てくる。

ぶふぁ。吹き出す男性。

「い、いつから腐女子になったの」

「愚か者。腐女子とはなるものではない! 出現するものだっ」

そんなこともわからんのか。ええい恥ずかしいっ。

そんな感じ。

彼女、恥ずかし乙女ながらその断固たる口調はもはや訓示である。

エロ帝国主義者どもに腐女子がなんたるかという教訓を与えてやろう。


公序良俗もわきまえず電車内でおそろしい会話を交わすカップルのせいで、めずらしく沈思黙考しながら電車に揺られるハルルと私。これは会話どころじゃねえ。


さて“オタフタマタマガワ”まで戻ってタラバガニ鉄道本線に乗り換える。

“希望しすぎヶ丘”、“みっきょん”、“せやねん”、“なんでやまとねん”、“佐賀君と大塚さん”、“ダイ・カシワ・ダイ(じぇだい騎士団風の発音でお願いします)”、ときて、

タラバガニ鉄道本線の終点“愛のエッビーナ”に到着。

駅構内に巨大なエッビーナ(誰?)直筆の自画像が描かれたりする違和感丸出しの恋人たちの聖地、エッビーナである。お前はイタリア人かこのやろう。

あのカップルもここで降りるが、現役バカップルとしてご当地伝説をがんばってもらいたい。

などと、気にせず私たちはそこで織田宮殿電鐵通称まろQに乗り換えて、例の場所に向かう。

“本薄着と厚卵”、“たまたま温泉”を経て、アフリカン寺の最寄り駅、“ゴウツクバラー”に到着。このまま行くと“オダワール・デル・マール”に向かう。

しかし“ゴウツクバラー”にたどり着いたとき、問題が生じたのである。

私たちはお腹も空いたのでご飯を食べたのだが、その際にご当地ケーキなんぞ食べてる間に時間とお金を使い果たしてしまったのである。しょうがないのだ。お腹空いたのだ。無計画だからではない。

とにかく歩くには距離がある。

誰もいないバス停の前で2人して、さてどうしたものかとしていると。

しかし、そこへなんとあのバカップルが列車を1本遅れてついてきたのだ。

「あ」

「おお、貴様たち。前に見たような気がする」

話しかけられたのですっ。

「さては貴様たちもアフリカン寺に行くのだな。なぜこんなところで時間をつぶしている」

すごい決めつけ力。まあそうなんですが。

ふもと行きのバス停にぼーっと突っ立てれば分かるか。

どう考えてもギャル系のファッションで固めてるくせに軍人風の喋り方のおねーさん。

圧倒的すぎる存在感だ。

そしてチャラ男。金持ちボンボンをチャラ男にしたような終末的なスタイルと、そんなものがなければ美男と通用するのに的な顔の持ち主。

「やあ。君たちもコンテスト関係?」

こちらも別の意味で圧倒的だ。

「スラちゃん。コンテストって何?」

ハルちゃんも質問してくる。そう言えばまったく話してない。

しかし今はそれどころではなく。

「ハルちゃん、ちょっと待ってて。あのですね。お2人ともアフリカン寺に行くんですよね」

私は確認を取った。

「無論である」

「君たち、可愛いね。どこかの学生さん?」

まともな返事が返ってこない方がおられるがそれは無視である。

「担当を直に打ち切りで言うとお金貸してもらえませんか。困ってます」

ちょっとやばいかも知らんが、何こっちには鉄腕少女がいる。

「かまわんぞ」即答するおねーさん。やった話が分かるっ。

「もちろんかまわないよ。美人さんにお金貸すのは僕の主義に立脚したところだから、ってぶほぅあああ」

あ。おねーさんがチャラ男のみぞおちに何かこぶし突っ込んだ。

「君たち、無事だったか」

「いや、あの、ありがとうございます」

「うむ。大事ない」

チャラ男はそこら辺の道路にえろえろしている。


「いやいや、君がいるのに変なことなんか考えるわけないじゃん。僕は単に女性や困った人に優しくしたいだけだって。そういう風にしつけられてんの。これうちの家風」

「過去はもはや取り戻せない。貴様も未来に生きろ」

「謝罪する気ゼロかー。うーん、まあでも可愛いから仕方ない」

バカップルぶりをまき散らしながら、お2人はひとつ前の座席に。アフリカン寺行きのバスに乗っています。

「スラちゃん。コンテストって何?」

ハルちゃん2度目の質問。

「ええと、人工知性の選手権みたいなものかな。パートナーを無事に守ることができたらという勝利条件なんだけど、これの優勝賞金というのが」

「というのが?」

「ええと世界の秘密」

嘘ではない。優勝賞金は世界の秘密なのである。世界の秘密を教えてもらえることなのである。秘密が開示されちゃうのである。

「つまりその秘密を知った後だと、なんか得をすることがあるってわけ。もちろんくだらない秘密でしたというオチかもしれないけど」

別に嘘ではないよ。ほんとだよ。しかし。

もはやそれどころでは済まされないすさまじい秘密が隠されているかも。

例えば。

世界が作りものであるとか。


そんなことを考えている間にも前席が遊んでいる。

「ペプチペプチドドペプチド、パペポパペプチプペプチド。早口で言ってみて」チャラ男が言うと、

「タンパクパクタンパタンパク、パタポペポコタンパク質。逆さまから言ってみろ」おねーさん少佐が言い返します。

「質問に質問で返してきた!」

「これが世界の常識だ」

「いやいや、常識にまではなってないよ」

「だが私の常識だ」

「無茶ぶりがかわいい!」

バカップルがうるさい。あーもー。

「ええいちょっとっ(ぷんすか)さっきから聞いていればおギャグの質が悪いにもほどがあるっ。いいですかっ、こういうのは山田まや、まだやーよくらいにとどめて展開で5転ボケをかますくらいじゃないとっ」

「きれるポイントがそこなんだ」びっくりハルちゃん。

「いや、ど素人バカップルにそこまで切れたりしませんよ私は。でもですね。おギャグで持たせようと思ったらそれくらいじゃないと。あまあまおつきあい相手と違って読者は甘辛くないんですっ」

バカップル。ぽかーん。

「お、落ち着いて。おちおちて」

そんなハプニングもありつつ、ケーブルカーの麓駅にたどり着く。

駅にはなんと以前にあったストーリーエンジンのえと、確か中南米の島。

「グアドループ66です。その節はどうも。今回の私は単なる旅の道案内とご理解下さい」黒人美少女さん再び。

「新鮮な美しさだ。君、連絡先……あばらぼれっ」

悲鳴が聞こえるが無視である。


ケーブルカー上昇中。

「テロ防止と手エロ防止って似てるよね」

またしてもバカップル男がろくでもないことを喋り出す。

「スラちゃんこの人ってなんかきもい」

「分かってます。後で仕置きましょう」

私たちひそひそ。

しかしバカップル女が。

「ちょっとケータイを貸してくれんか」

「はいこれ。何するの?」

女は黙って、ぴっぽっぱっとコール。

ちりちりりっ。ぱっ。はい。

「もしもし。このケータイの持ち主だが。テロか手エロを実行しようと思う」

がちゃん。

「こんな感じか」ケータイ返却。

「うわー、あっというまに犯罪者だー。すごい行動力ー。でもそこが可愛い!」

「あんま誉めるな。恥ずかしいっ」てれてれ。

それを見てた私たち。

「うぎゃあああああ!」「ひぎゃぶうううう!」

余りのバカップル臭に中毒症状を来した。

おまえら一生“愛のエッビーナ”に住んでろ。いやほめ言葉ですよ。誤解なきよう。

このあとどうすんだこいつら。


ケーブルカー。終点に到着。レールの先が空中に突き出ているいつもの風景。

「ところで皆さん。この鉄道は山の上まで開通する予定があったのをご存じですか」

グアドループさんが説明してくれる。

「山の上ですかー」

と言われても感慨もない。

「不思議だと思いませんか? 何もない山頂になぜ行くのでしょう。ただ高い場所に行きたかったのでしょうか?」

そうだと思いますけど。人間の高いとこ好きなのをバカにしちゃいけない。だてに猿系の生物ではない。山羊には負けるが。

「それじゃあみなさん。お寺には1組しか入れないので、ご留意下さい」

彼女はここに残るのだった。

残り4人はアフリカン寺に向かう。


*****

あの頃は閉塞感があった。

というか、閉塞感に包まれているとみんな信じてた。

それはもう全力で。

さもないと正当化できなかったから。

何を?

世界の果て。ここがおしまいなんだよ。

*****


アフリカン寺の門にはある張り紙がしてあった。

『この門、一組しか入るべからず』

それを見たスラちゃん。

「とんちですかね?」

それを見たハルちゃん。

「あれー、昨日はあっさり入れたのになー」

スラウェシの推論。

「昨日は1組だけだったからですかね」

なんとなく間抜けな推論をのべると、さてどうしたものかと考えを巡らした。

一方でハルルは、「黙って入っちゃったらどうかな。あれー、開かない」とこちらもお手上げ。

そうしてようやく気づくのだが、ここには2組がいるのだ。


「どうやら決着をつける時が来たようだな」

バカップル女。すごい決めつけ力。

「いやいや、素直に日にちをずらしましょうよ。明日来ていただければいいんじゃないですか」

「絶対ダメだ。そんなこと言うなら金返せ。今すぐ返せ。さあ返せ」

うわ、むちゃくちゃ言ってきた! さすがバカップル・オヴ・ザ・バカップル。

「あのー。お金払って下さったらうちらが出直しますけど」

条件交渉。

バカップル。ぽかーん。

「それはつまり自ら負けを認めるということか?」

「うーん、今日のところは」

どのみちあの尼像周作と戦わなければならないのだ。よほどのことがなければやつには勝てないと思うし。それに戦うんだったらここで戦力を浪費するのも避けたい。

だったらここは譲って負ける方に期待する手もある。

「だめだ。そんなよく分からない卑怯なことはできないっ」

「よく分かってくださいよっ」

「難しいことはもううんざりだっ。それなら金返せ」バカップル女。

「女の子のわがままがかわいく思えてしまう僕って末期だなあ」バカップル男。

だめだこりゃ。


「どうします? ハルちゃん」

「もうデイブ呼んじゃう?」

「いや、本番の前に使うのはある理由から避けたいです」

「そうかー。じゃあ、あたしできるよ。肉弾戦なら」

「私も今は早都ちゃんボディなので化学戦ならできますね」

内輪で作戦会議。ひそひそ。

結論。

「仕方ない。受けて立ちましょう」

こうして決勝戦の前に急遽前座が設けられたのである。

どうせ逃げても追いかけてくるだろうし。


*****

つまりだな。死刑廃止以来、脳改造という処罰が行われてきたが、それでさえ不適切だという意見が出始めた。

そこで完全な死刑廃止を再開することになった、ただし身代わりがいるなら。

もちろん親兄弟親族はダメだ。親の愛さえあれば許されるのかという話になってしまう。しかし無関係の人間が罪を身代わりたいというなら、その申し出を受けた人物が罪を背負うことで死刑より低い刑罰を実質的に適用することができる。非キリスト教国ではこのようなステップを踏まないと、死刑廃止に持ち込むことはできないと考える。

ただしこの方法によっても自ら死刑を望み、誰によっても罪を代替されたくないと望む者は刑の執行を受けることができるのだから、厳密に言えば死刑廃止ではない。

もっとも他にも。

人格改造刑。元の人格や感情をすべて消失する。

肉体改造刑。異形の機械生物に改造されるが自由度は向上する。

なんてのもあるけど。


ここでは。

生きてるものはすべて刑罰を受けた人間なのだ。

*****


「「デコメルタ、パリッツォの愛の三角闘法」」

宣言するバカップル。なにやら横にならんでお互いの手を相手に向ける。

「練習した甲斐があったぞー」

バカップル男もといパリッツォさんでした。

反復横跳びとカニさん体操の組み合わせみたい。

「1週間の訓練のたまものだ」

バカップル女もといデコメルタさん。

1週間もそんなことやってたんですか。その割に誰でもできるような。

とゆーかそんな名前だったんですか。どうみても日本人顔なんですが。

そういえばかつてアペニン山脈の深央にローマを震え上がらせたお風呂を作る民族というのがいたとかいないとか。いるわけあるか。


「ハルちゃん、チャージ」

アメリカ映画を字幕で見る人しか分からない突元気専門用語を言い放ち「やうっしゃああ」ハルちゃんを突撃させると、私は有毒人類の特技を使って巨大な石弩みたいのを作ることにする。

私はつねづね毒使いと言うより物作りの才能が有毒人類にはあるんじゃないかと思っていたのだ。しかしそういう複雑なものは作れないらしく、ぶっつけ本番で失敗した。

「あれ?」途中までいって訳わかんないものが作られているのに気づくと、私はそれを蹴飛ばすとパリンと倒れて壊れた。これで作ったものは強度がなく比較的もろいという特徴がある。とてもじゃないが武器には使えそうにない。

一方、その間にデコメルタさんは全力で逃走して(逃げるんかい!)近くの斜面の向こうに飛び降りてしまう。大丈夫なのかな。そこ崖なんだけど。なんか「うわああああ」なんて叫んでる声が聞こえたような聞こえないような。まあいいや。ひとり片付けたぞ。

そしてパリッツォさん。

「超電磁誘導人類。エレクトロンマグネティックヒューま、「はるるぱんち」ぶうぼぅああぁぁ」

出た。必殺技の名前を叫んでいる途中にやられる敵。

こういうのがないとやっぱおかしいよねー。

敵は必殺技の名前を言い終わるまで待ってくれんのだっちゅーの。

普段はハルちゃんがこんな感じなんですけど。

ハルちゃん「安心しろ。峰打ちだ」

いやいや、止めを刺して下さいよ!

「焼死、視よ。今渾身の大ジャンプっ」パリッツォさん、ジャンプ。

誤字は私が適当に割り当てておきました。

パリッツォさん解説。

「充分なだけの高密度超伝導体を持てば、地球の磁場に乗って浮遊することができるのだ。見よ。これが飛行力である」

めげないなー。

「スラちゃんいまだ!」

「有毒人類超必殺神技! ガス惑星クラウド!」

有毒人類の能力を使ってもくもくと有毒ガスを発生させ拡散させる。

たちまち辺り一面が冬の北京くらいにはなる。

かつて中国のことをガス惑星クラウドと呼び、また無駄に反日憤青を増やしてしまったという私の個人的体験から思いついた必殺技である。つうかそのまんまやねん。

私のネーミングアビリティはそのまんま系。自分の名前からしてそんな感じ。

そんなことはどうでもいいが、有毒人類のガス精製キャパというのは一定の限界があるらしく、しばらくするとでなくなってしまった。「あれ?」

もっともその頃にはパリッツォさんは上げすぎた凧のように高空に飛んでしまったが。

もはやガスが届かない高さ。

「高いね」「高いですね」見上げる私たち。

「…・…・・・、……・・!」たぶん大声で何か叫んでるのだが何も聞こえません。

そういえば凧揚げって今でも行われてんですかね。

しかしその頃、崖の下から何かが撃ち込まれたのであった。

ひゅおおおん。


ぼっがん!


ちょ、がち迫撃砲みたいのじゃないすかこれ!

さてはデコメルタさんの能力がこれか。

いったいどこに砲弾が。

そしてどうも上げすぎた凧のようなパリッツォさんが標的を支持しているらしく、どうやら冒頭の愛の三角闘法というのは古典的間接標準射撃を意味していたのだと思われ。


ぼっがん!


「うわ、ちょ」「思ってるより狙いが正確っ、これ動き続けてないとあぶないっ」

ガス惑星クラウドが煙幕になるかと思いきやまったく効いてない状態。ガスを拡散させすぎたっ。

ハルちゃんはともかく私にこの体力は厳しいっ。

このままではまずい。なんとかしなければ。

でも、もうガスが弾切れ。

かつての早都ちゃんは常に計算と共に戦っていたんだなあなどと思いつつ、もうこうなったらデイブを呼ぶか、ストーリーエンジンの現実改変能力を使うしかないか。

でもそんな裏技をここで使うのっていいのかなあ、などと生春あげな気持ちにさらされる。しかしもうほんとに手がないかも。

しかしだがもししかし。

「ここは任せてっ」ハルちゃん、崖下に飛ぶのであった。


【【注:ここからは、はるるんの視点です】】


崖下ではデコメルタが待っていた。

「やはり来ると思っていたぞ。鮫島ハルル。こうなるともはや2対2の形式をともなっていても完全なシングルバトルだな」

特に大砲のようなものはどこにもなかった。

さっきのはどこから撃ってたんだ。

「ちょっと待って。あんたいま始めて私の名前を言ったよね」

「ふん。今頃気づいたのか。お前たちがクエストに挑戦すること自体を好ましくないと思う者がいるというだけだ。これが仕事なのでね」

そういうことか。

「じゃあこっから先は遠慮なしということで」ハルル。

「こちらもな。もはや出し惜しむこともあるまい」デコメルタ。


デコメルタが先制。

「トランスフォーむっ」

ぎごがごが。

デコメルタの肉体がメカニカル変形して巨大ロボに変形した。

「どえええええええええええっっっ!!!」

どうみても20メートルくらいの戦闘ロボである。ちなみにバイオ系デザイン。

「おかしいでしょ。それ体積的に変でしょ。どうみても中に入らないし!」

というハルルの常識的抗議はもはやなんの役にも立たない。

「焼死!」

問答無用の20mm粒子ビームバルカンが火を吹く。

現代のイオージマを思わせる戦場と化す崖下であった。

変形人類っ。


*****

前世戦争。

我こそはかの人物の前世、という人間が2人出てくる。

好きな人が死んでしまい、落ち込んでるところへ、別のコが「生まれ変わってきました」

なんでも彼女が言うには。

「前世と来世には時間というものがないんです。ありていにいうと未来が前世で過去が来世というのも普通にあります」


しかし、もう1人が現れる。いえ、私こそが本当の生まれ変わりです。しかも私はあなたの次の来世でもあります。

そして「こいつは偽物ですっ」

お互いに罵り合いつかみ合いが始まる。

なげく主人公。

「これはいったい何の罰なんだ?」

果たしてどっちが本物なのか。

*****


【【デコがめり込んでない、つまり客観的な視点】】


20mm粒子ビームバルカンは音だけは、ぴぽぴぽぴぽん、とコミカルであるがその破壊力たるやたちまち周辺を月面状態にするほどである。

「LEDサーベル」とかいう訳の分からない光る剣というのを出してきた。

それを振り回し、地面を抉り取り耕した。うーむ。光っているだけの物理剣という気がしないでもないが、きっと何か意味があるのである。

しかしそれでも逃げ回るハルルを補足できない。


どういうことなんだ。このガントロイドモードの攻撃を回避することなど生身の人間には不可能なはずだ。いくらやつも進化型人類とはいえ。

見ると銀色に光り輝く服を着た何かが飛び回っている。もはや画像認識ソフトウェアの残像なのではないかと思う速さである。

発電人類には発電用の筋肉が、通常の四肢の横紋筋の代わりに取り付けられている。そして皮膚は絶縁体と導電体の性格が複雑に切り替わるものである。神経システムや内臓システム、骨格支持システムなどは絶縁被膜につつまれているか、もしくは発電時には機能停止する。そのかわりに発電時には発光体と光検知で運動指示を行う。そして複雑に切り替わる多機能性の皮膚には金属繊維を取り込んだ細胞があり、有事にはそれを展開してなめらかな抗衝撃性の高い強化皮膚にも変形する。

ハルルには、発電人類でありながら発電筋がない。そのかわり通常の筋力よりはるかに高い出力を発揮する金属筋がある。そして金属繊維で強化された皮膚による、いわば電気神経システムの迂回チャンネルが増強されている。これにより通常の神経速度よりいくらか早く反応できるようになっている。思考速度がそのまま運動速度に。

メタリーゼモード。


変形人類フォーマノイド、ガントロイドモードと化したデコメルタにも、関節メカニズムは存在し、当然ながら、曲がらない方向に曲げるようなことをすれば破壊しうる。ハルルはまず相手に触れそうなほど接近し、デコメルタの全身から飛び出している小型アンテナ類を折り始めた。そういうのは簡単に折れるがダメージも実はどうというほどでもない。だが苛立ったデコメルタは自分の周りをまとわりつく虫に対して接近戦で排除を試みた。

手腕がまた変形し、リアクティブアーマーコーンを出した。爆発の反動により装甲防御力を高めるシステムだが、これはもはや完全な攻撃用に転化したものである。

しかしここがハルルの付け目だった。

「柔よく剛を制すっ」

完璧な重心移動でデコメルタを捕え、右腕を完全にへしり折ったのである。

更に追撃。

今度は左腕にかまうと見せて、相手の首に手を伸ばした。たまらずしゃがんで回避しようとすると。今度は足をとってひっくり返そうとする。「せえのっ」これに対して飛び上がって距離を取ろうとするデコメルタ。しかし距離を取れなかった。着地する瞬間を右ひざを砕かれた。

「どう、これ以上やるんなら両手両足へし折るよっ」

「み、見事だ」

変形を元に戻し人間形態に戻るデコメルタであった。

降参。

関節のある者にたいしては、関節攻撃は無敵なり!


【【その時、アスパラ島もといスラちゃんはというと】】


崖下の死闘に比べると崖上はのんきであった。

パリッツォが超高空から降りてこないのである。

スラウェシは有毒人類の特性を回復するための栄養剤を飲んでいた。

これですぐには回復しないが、少なくとも水を飲むとすぐに汗が出てくる原理と同じで、残っている備蓄量をもう少し放出させる効果はある。

しかしそう何回も大技が使えるわけではない。おそらく大技のチャンスは一回のみ。

一方、上空のパリッツォは航空優勢を生かした爆撃戦に切り替えた。

どこに持ってたか知らないが、ハンドミサイルをいくつか落としてくる。

「うえ」

とりあえずはこれを迎撃することに集中しなくてはならない。

取りあえずということで、樹脂状のガス形成体もといプラスチック(石油製品だけがプラスチックではない。可塑性という意味)をつかってミサイルをはたき落とすことにした。充分に長い距離を取ったはずなのだが、しかし一発目を破壊する際に結構な衝撃が来る。「うわ、まず」もちろん樹枝状プラスチックはこれで破壊される。こんなんで消耗したら大技が出せなくなる。

少なくともあと2発くる。

どうする?


いったん後方退避して山林の中に逃げ込む。どうするどうする?


*****

つまりだな。

ここでは誰もが誰かの前世であり、誰かのあるいは来世でもある。

だから厳密には人は死なないし、永遠に生きている。

ところで輪廻転生には「忘れる」というのが重要な意味を持つ。

生まれ変わった人間は前世のことを忘れている。

そうでないと、現実との適合性が取れない。

まあ、ぶっちゃけて言えば、ここらへんが輪廻転生論の弱点である。

しかし、もしその弱点がなかったらどうだろう。

別にこの世の初めからでなくてもいい。

今この瞬間からでもそういう風にしてしまったらどうだろう。

それはそんなに異常なことであろうか?

新しい子供の魂を冒涜する?

それもまた、人間の勝手な思い込みではないのか。

別にゼロから始める必要はないではないか。

別に発達した科学を使う必要はない。

人間の記憶は、なにせ自由自在に変形できるのだから。

おっと、この辺がこの説の弱点だな。

内緒でお願いします。内緒のないしょ。

*****


【【ぱりぱりっとピザでも食うか。リライトだりいチャラ男です、の視点】】


シュシュシュシュとハンドミサイルが上昇してくる。

さすがだな。

こっちが撃ったものをあっという間に改造して、逆にこちらへの武器として逆用してくるとは。

ハンドミサイルというだけあって、ハンドメイドなのが弱点だったのだろう。

何せ信管が分かりやすくできてる。

都市型ショッピングモール“いいもん”で特売買いしただけのことはある。

ストーリーエンジンにとっては赤子の手をひねるようなものであったろう。

だがしかし。

こんな小手先の攻撃でおしまいと思ってくれたらこまる。

「見よ。これが超電磁力である。超電磁パルサーっっっ!」

超高空なので必殺技を唱える時間は充分すぎるほどある。

ぐるぐる回転しだした。


実は俺は。


無人戦闘機なのだ。

そう、これが無人戦闘機人間。脳は遠隔地に保存してある。

ドローンである肉体がどれだけ消耗しても脳が物理ダメージを受けることはない。


さあ、これからドローンならではの最強必殺攻撃を見せてやる。

「見よ。超電磁究極奥義っ、超電磁相殺爆っ」

要は自爆なのだが、超高空なので誰も突っ込まなかった。

急降下。

これで勝負は決したっ。


はずだった。


あれ。あれあれあれあれ。流されている。

超伝導流体が自分の意思ではなくあらぬ方に流されてある。

いったいどういうことなんだ?


「磁場が……」地球の磁場がおかしい。

こ、これはまさか。

ソ、ソーラーストライク。

つまり今日の太陽は機嫌が悪かったということ。たまたま大量の太陽風が押し寄せてきて磁場が活性化してしまうことがある。

「なぜ、このタイミングで? まさか!」


*****

「そうだ。僕は無人戦闘機なんだ」

「とつぜんこんなことを言い出しやがった」

「つまりだな。僕は無人戦闘機……」

「分かった。じゃちょっと卍固めやらせろ」

「いや、その、無人戦闘機だから、その」

「いや、無人ならいいだろ?」

そんなばかな。

それ以来、そういうことは人前で言わないことにした。

しかしそれでも僕は無人戦闘機なのだ。

*****


【【すらすら書けるスラちゃんなんて、スラちゃんじゃない、の視点】】


ああ。使ってしまった。

またしてもストーリーエンジンの現実改変能力。

あたしっていつも力技でしか勝てないなあ。

まあいいや。

地球の地磁気を操作して、一挙に遠くに流してやった。


あーれー。声が聞こえるならさだめしそんな感じ。

どこか遠くに流されていくパリッツォさん。さようなら。君のことは忘れない。少なくともあと10分くらいは。

パリッツォさんが星になったかどうかは、都市伝説を参照してください。


現実改変はこんなぽんぽん使ってあまりいいものではないんだけど。

何かとんでもないとこで、とんでもない副作用があるかも知れない。


ともあれ、これで邪魔な2人との準決勝に勝てた訳だ。

崖の下からハルちゃんが上がってくるのを待って、アフリカン寺の境内に入る。


*****

目覚めた。

私は唐突に記憶を取り戻した。

こんなこともあろうかと、あらかじめバックアップを取り、トラップを張っておいた甲斐があった。さて、あの娘。どうしてくれよう。

*****


四国08もそのことに気づいた。だが。彼が向かうのはまたしても遅すぎた。

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