残念な姉と、薔薇の義弟と実弟

まほりろ

第1話 残念な姉と、薔薇の弟

★タイトル「残念な姉と、薔薇の義弟と実弟」



―登場人物紹介―



★園部 叶夢(そのべ かのん)、十七才、O型、一六〇センチ、七月三日生まれ。


★園部 恭也(そのべ きょうや)、十六才、A型、一六八センチ、十一月五日生まれ。


★堺 尊(さかいみこと)→園部尊、十六才、A型、一六八センチ、十一月五日生まれ。




――本文――




「叶夢(かのん)、これ恭也(きょうや)くんに渡しといて、Aブランドの最新型の腕時計なの」


「分かったわ」


そのプレゼント恭也(弟)の趣味じゃないのよね。顔が悪い子はセンスも悪いのね。


「これも恭也くんに渡して、行列の出来るクッキー屋さんに朝四時から並んで買ってきたの」


「わざわざありがとう」


朝四時に並んだとかなんの自慢? あんたの苦労なんて知らないわよ。食べものなんか何がはいってるかわからないもの、一番恭也に渡せないわ。生ゴミ決定ね。


「私のは手編みのマフラー、恭也くんは四柱推命の自星は『金』なの、金に力を与える土の気を持つ『豚』の絵柄を編みこみ、土の気を持つシルクの黄色い糸で編んだの。お願い恭也くんに渡して」


「はいはい、分かった分かったから、順番ね」


今日一エグいプレゼントきた――!! つうか今のなんの呪文? 四柱ってなによ? 意味わかんない! 自宅にすら持ちこみたくないわ! 途中でドブ川に投げ捨ててやる!


つうかブスが、プレゼントなんかで恭也の関心が引けると思ってるの?


可哀想な、メス豚ども。



★★★



「恭也――!」


「叶夢!」


校門で待ち合わせた、弟の胸にダイブ!


「遅かったね、心配したよ」


恭也がギュッと私を抱きしめる。

「ごめんね、帰りがけにブスに……ううん友達に用事頼まれちゃって」


「用事?」


「ううん、大した事じゃないの行こう」


私は恭也の手を取り歩き出す。


「その紙袋は?」


「生ゴミと燃えるゴミよ、あっ時計は貰ってもいいかなぁ」


「……?」


恭也が小首を傾げる。その仕草さはまるで無垢な小動物のよう。相変わらず内の弟は可愛いわぁ、とうっとりと見惚れてしまう。


「持つよ、叶夢」


「ありがとう」


ゴミを持たせるのは心苦しいけど、恭也の行為は無下にできない。


うちの弟は可愛くてやさしい。



★★★



園部恭也(そのべ きょうや)は私の一つ下の弟。


成績優秀、スポーツ万能、シュニース事務所に応募したくなるくらいの容姿端麗。


栗色の髪に琥珀色の瞳、ぱっちりと大きな瞳が特徴のあどけなさが残る美少年。


今年十六歳になる、可愛い、可愛い弟。


物で相手の心を釣ろうとするような、コスイ女には絶対に渡さないんだから!



★★★



恭也が急に走りだした。


「どうしたの恭也?」


「叶夢」


しゃがみこんだ恭也の陰に段ボール箱が。


中からニャーニャーと愛らしい声。


うちの弟は本当にやさしい。


「家では飼えないわよ、恭也」


「うん、わかってる……」


そんなに悲しげな顔しないでよ。


「あっ、そうだ……」


ゴミ袋、もといプレゼントの中から、黄色い毛糸の固まりと、小麦粉の菓子を取りだした。


段ボールの中に毛糸の固まりをしき、仔猫に菓子をあたえる。


「やさしいんだね、叶夢」


「ふふふ、さぁ帰ろう恭也」


ゴミの処分ができた上に、恭也にやさしさをアピールできたわ。


ブス女たちのゴミもたまには役に立つわね。





★★★★★





自宅に近づくと、


「誰かしらあれ?」


門扉の前に人が立っていた。


黒髪短髪の少年がじっと家を見ている。


「恭也の友達?」


「ううん、叶夢の知り合いじゃないの?」


「知らない子よ」


でもあの子、どこかで見たことがあるような……?


「さがって叶夢、不審者かも」


恭也がさっと私の前に立つ。


恭也ったら、たくましい子に育って!


小さいときは門扉に虫がいただけでも「怖くて家にはいれない」って泣いちゃう弱虫だったのに。


強く育ってくれて、お姉ちゃん嬉しいわ!



★★★



「誰だよお前、人の家の前で何してるッ!」


恭也ってば、普段出さないような低い声だしちゃって。


私の前で格好付けたいのかしら? 可愛い子。


私も可愛い女の子を装い、恭也の陰に隠れ恭也の袖をキュッとつかむ。


柔道、空手、合気道の有段者の私にはあんな優男、敵じゃないんだけどね。


いざとなったら私が倒そう。弟の男としてのプライドを傷つけてしまうけど仕方ないわ。可愛い弟に怪我をさせられないもの。



★★★



「なにって……ここは俺の家だよ」


黒髪の少年がこちらを向き、強気な笑みを浮かべる。


この不敵な笑み、どこかで見たことがあるような……。


不思議な既視感におそわれた。


「なにいってんだ! ここは僕たちの家だ! お前なんか見たこともないぞ!」


恭也の言葉に少年がクスリと笑う。


「お前は誰だ!」


恭也の問いに少年が涼やかに答える。


「俺の名前は……園部恭也だよ」


恭也の表情が強ばる。


「なっ、なにいってるんだ! 園部恭也は僕だ!」


「違うな本当の園部恭也は、俺だ……」


場の空気が一瞬にして凍りついた。


「なにいってんのよあなた! 頭は大丈夫!」


たまりかねた私は、恭也の前にでた。


場合によっては、弟をこんなに動揺させたあの男を一発殴ってやるわ!


「勇ましいね、流石は俺のお姉ちゃんだ」


少年がニヤリと笑う。


「『お姉ちゃん』ですって、なにをいってるの……?」


「尊(みこと)、ここにいたのか!」


「急にいなくなるから心配したのよ!」


少年の後方から、スーツを来たおじさんとおばさんがかけてくる。


よく見なれば、うちの親だった。


「パパ、ママ!」


「お父さん、お母さん!」


門までたどり着いた両親が息を整える。


「パパとママの知り合いなの?」


パパとママが黙りこんだ。


しばらくの沈黙のあと二人は顔を見合せ、


「叶夢、恭也、よく聞きなさい」


「尊は……私たちの本当の息子なのよ」


衝撃発言をした。





★★★★★





両親の話を要約すると、こういうことだ。


十六年前、精神的に病んでいた看護師が同じ日に生まれた二人の赤子を入れ替えた。


その不運な赤子が恭也と尊だ。


先月、看護師が心臓の病を患い、余命宣告を受け、死ぬ前に病院に罪を告白、赤子の入れ替えが発覚した。



★★★



リビングに紅茶の香りが漂う、高めのアールグレイね。


ティーカップもお客様用だわ。


玄関で立ち話もなんなので、とりあえず家に入り、リビングで話し合うことになった。


二人がけのソファーにパパとママが並んで座り、テーブルを挟んだ向かいのソファーに私と恭也が座り、お誕生席に尊が座った。


恭也の顔が青い、当然だ。こんな話を聞かされたら、平然としていられるハズがない。


「それで尊のお家を訪ねたんだけど、尊の育てのご両親、恭也の実のご両親は既に亡くなっていてね……」


「尊は児童養護施設で育てられたんだ」


ママの言葉をパパが引き継ぐ。


私は恭也の手をそっと握った。


この家の本当の息子でないと分かっただけでもショックなのに、実のご両親が亡くなっていたなんて……心やさしい恭也に耐えられるかしら?


「だから家で尊を引き取って育てることにしたの、実の息子だもの当然よね」


「もちろん恭也も私たちの大切な息子だ。今まで通り一緒に暮らそう。恭也の実のご両親が亡くなっていなくても、私たちは恭也を手放すつもりはなかったよ」


パパとママが恭也の前に跪、恭也の手を握った。


「私にとっても恭也は大切な弟よ」


私は恭也の肩に手を回した。


恭也の頬を大粒の涙が伝う。


「お父さん、お母さん、叶夢……!」


私たちは四人でひしっと抱き合った。


うん、なんか今すごく家族してる。





★★★★★





自室に戻り、部屋に鍵をかける。


自然と笑いがこみ上げてきた。


「やったぁ――! 恭也は実の弟じゃなかった! これで思う存分恋愛できるわ!」


小さな声で歓喜をあげ、ガッツポーズをする。


幼い頃から、女の子より可憐な恭也の事が大好きだった。


でも弟だと思うから、ブレーキをかけてきた。


でももうその必要はなくなったのね!


これからは恭也にめちゃくちゃアプローチできるのよ!


「お風呂で全裸で遭遇、着替え中の部屋にうっかり入ってしまう、バスタオル一枚でうろうろ、さりげないボディータッチ、階段を使ってのパンチラ、ノーブラで抱きつく、使える女の武器をすべて使って恭也を落としてみせるわ!」


「くッ、ふははッッ……!」


聞き覚えのある男の声に振り返る。


「尊!」


不敵な笑みを浮かべた尊が、扉の前に立っていた。


「うそっ、なんで……鍵をかけたハズなのに……」


「室内用の鍵なんて開けるの簡単だよ、俺の実家の隣の家は鍵屋だったんでね。ガキの頃、鍵の開け方を仕込まれたのさ」


とんでもないことを仕込んでくれたわね。


「だからって無断ではいってこないでよ、実の姉とはいえここは女の子の部屋よ」


「なに今さら清純な女ぶってんだよ。実の弟じゃないと分かったとたん、十六年間一緒に育った弟を誘惑しようと画策してる性悪女のくせに」


尊が不愉快な笑みを浮かべる。


いま分かったわ、尊を初めて見たとき感じた既視感の正体。まるで鏡を見ているような気分になったからよ。


尊の邪悪な笑顔は、悪巧みをしているときの私の顔と同じだった。


さすが実の姉弟、十六年間一緒に暮らしていなくても、表情は似てくるのね。


「さっきの仲むつまじい家族ごっこといい、本当にこの家族受けるぜ」


「『家族ごっこ』とはいってくれるじゃない?」


「『家族ごっこ』だろ? ドラマみたいなセリフをいって、わざとらしく涙を流して、仲良しこよししてる自分たちの姿に酔ってただけだろ?」


「くっ……」


当たっているだけに反論できない。


うちの家族の心理を一瞬で見抜くとは、やはり尊にも園部の血がながれているのね。


「まあ、恭也だけはガチで泣いてなみたいだけどな……よくこんな家族に育てられて、あんな純粋な子に育ったもんだ」


「あんたこそ、その恭也の両親に大事に育てられたんでしょ? なんでそんなに性格が歪んでるのよ」


腹黒な園部家に育てられても天使のように天真爛漫に育った恭也。恭也の実のご両親は、きっとやさしい人たちだったに違いない。


「いい人たちだったよ、だけどあっさり事故で死んで、それからは孤児院で育てられたんでね。能天気な性格なままじゃいられなかったんだよ。それとも、俺の性格の悪さは園部の血かな?」


尊の言葉に腹が立つけど、否定はできない。


尊は男版の私だ、黒目がちな瞳に勝ち気なつり目、漆黒の髪、性格も見た目もよく似ている。


自分の嫌な部分を見せつけられてるみたいで気分が悪い。


尊が私に近づいてくる。


「なによ、変なことするなら、投げ飛ばすわよ! これでも柔道の有段者なんだから!」


「おお怖い、怖い。誰が実の姉貴にエロいことするかよ。それより色仕掛けは止めとけよ、叶夢」


「お姉さまと呼びなさい、それと余計なお世話よ」


「あんた男から見て色気ゼロだわ」


「なっ……!」


いちいちカチンとくるわね、この男!


「こんなぺったんこの胸で色仕掛けしようと思える、根性は認めるけど、一度鏡をよ――く見たら、お・姉・さ・ま」


尊は私の胸を触り……いや揉んでクスリと笑い、踵を返した。


尊が部屋をでるまで、怒りでしばし動けなかった。


「ぺったんこは余計よ! Bカップはあるんだから!」


我に返り、一発殴ってやろうと尊を追いかける。


扉を開けると、尊ではなく恭也が立っていた。


「B、カップ……?」


きょとんとした顔で恭也が尋ねる。


泣きはらしたせいかその目は赤く、なぜか頬も赤かった。


「なっ、なんでもないのよ恭也、それより今日は色々あって疲れたでしょ、ゆっくり休んでね」


私はあわてて笑顔を取り繕う。


「じゃあね、おやすみ恭也」


にっこり笑って扉を閉めた。


扉を閉め、般若の顔に戻る。


尊~~! 実の弟だからと思って甘い顔してれば付けあがって! 調子に乗りすぎよ!


見てなさい! 私の目の黒いうちは、いびっていびっていびり抜いてやるんだからッ!





★★★★★





それからというもの私は両親と尊の目を盗み、お風呂で全裸で遭遇作戦、着替え中にうっかり扉を開けちゃう作戦、階段でパンチラ作戦、ホラー映画を観ながら怖いといってノーブラで抱きつく作戦、数々の作戦を決行し……恭也に私を女として意識させていった。


あれから丁度一ヶ月。


今日は両親の帰りは遅いし、尊は友達の家にお泊まり、待ちにまった好機!


恭也も私を抱きたくてもやもやしてるハズ、今日を境に義理の姉男の一線を越えるのよ!


そうはいっても奥手な恭也に、義理の姉の部屋を訪ね押し倒す勇気はない。


ここは私の方から恭也の部屋を訪ね、いい雰囲気になったら、私から恭也を押し倒しましょう。


既成事実さえ作ってしまえばこっちのものよ。


この日の為に通販で買っておいたシルクの下着を身に付け、某ブランドの白のワンピースに身を包む。


軽く化粧をし、手首と首筋に有名ブランドの香水を振り撒く。


純な恭也は、けばけばしい服装より、清楚っぽい服装が好み。


あまり露出度を高くしすぎないように最新の注意を払い、鏡の前でくるりと回り、身だしなみの最終チェックを行う。


よし完璧、今日の私も可愛い!


自室を出て、恭也の部屋に向かう。


待ってなさい恭也、あなたの童貞はお姉さんがもらってあげるわ。





★★★★★





恭也の部屋から話し声?


尊のやつ、まだ家にいたのね。


色々と絡まれては面倒と踵を返そうとしたとき。


「…………きだよ、尊」


「俺も……だぜ、恭也」


なにやら、不穏な会話が耳にはいる。


引き返し、扉のすき間から中を覗く。


「好きだよ、尊」


「俺も好きだぜ、恭也」


二人の弟が抱き合って、愛を囁いていた。


恭也は扉に背を向けているから顔は見えない。


二人の顔が近づき、やがて唇が触れあう。


なっ、何してるの……?!


美人のお姉さまを差し置いて、男同士で薔薇ってるとかあり得ない!


二人は角度を変え、がっつりとキスしていた。


うっ、嘘でしょう……!!


天真爛漫な弟が、手塩にかけて育てた義弟が、今まで悪い虫がつかないように守ってきた恭也が、ゲイで実の弟といちゃついてるなんて……!


あり得ない! これは悪夢よ!


「僕ずっと、叶夢の事が好きだと思ってたんだ」


恭也の声。


「でも尊にあった日、尊に無理やりキスされて気づいたんだ」


尊のヤロウ! 私の可愛い恭也を、あったその日にキスしてたのね!


実の弟じゃなかったら、す巻きにして海に沈めてるわッッ!


「僕……叶夢と同じ顔の男の子が好きなんだって」


恭也、それは幻覚よ!


男に無理やりファーストキスを奪われて、頭がおかしくなっちゃったのよッッ!


「本当の気持ちに気づけてよかったな、恭也」


「うん、ありがとう尊」


恭也――! そんなゲス虫にお礼なんて言わなくていいからね!


騙されてるのよ、恭也は!


二人はまたキスを交わし、尊が恭也をベッドに押し倒した。


ベッドに押し倒す瞬間、尊が私を見て黒い笑みを浮かべた。


あのヤロウ――!


全部最初から仕組んでたわね!


初めから私に恥をかかせる気で……!


初日に恭也のファーストキスを無理やり奪い、恭也をゲイの道に目覚めさせ。


私が恭也に色仕掛けするのを笑って見てたわね!


今日だって、私が恭也に夜這いをしかけるのを知ってて、友達の家に泊まるなんて嘘をついたのねッ!


わざと扉をあけておいて、私に恭也とのキスシーンを見せつけるなんて…………あの悪魔――――ッッ!!


「ちょっと待ってろ」


尊の声が聞こえる。


扉をあけ尊がでてきた。尊が後ろ手に扉を閉める。


「これで分かったお姉さま、色仕掛けが無駄な努力だっていった意味が」


「あんた、あの時点で恭也にキスしてたの?」


「もちろん、恭也は俺のタイプだったからな。一目惚れって奴だよ。俺たち趣味があうな、お姉さま」


いつもは呼び捨てのクセに、こんなときだけ「お姉さま」呼びするのがムカつく!


「分かったら友達の家にでも遊びにいってくれない? 俺たち今からお楽しみなんだよ。それとも弟のセックス見をオカズに独りエッチでもする気?」


「くっ……! この悪魔……!」


「お姉さまほどじゃないぜ、あんたがいま身に付けてる服や下着や香水、高そうだけど、それを買う資金はどっから工面したんだ?」


「うっ、それは……」


いままでもらった恭也へのプレゼントの中で、お金になりそうなものをネットで売り、そのお金で買った。


「まあ言わなくてもだいたい検討はつくけど、そんなことしてたから天罰が当たったんじゃないの?」


恭也は「どうでもいいけど、いまから俺たちお楽しみなんだよ、邪魔だけはするなよ」それだけいって部屋に戻っていった。


中から三つぐらい鍵がかかる音がきこえた。


恭也へのプレゼント、ううん恭也への思いを踏みにじってきた私が悪いの……?


これは私への罰なの……?












★★★★★













………………なんて反省するぐらいなら、長年恭也の隣で毒女やってないわよ!


ゲイで怯むぐらいなら、義理とはいえ長年一緒に育った弟に、色仕掛けして、夜這いしようなんて思わないわよ!


見てなさい尊! 今に恭也を寝とってやるんだから!


首を洗って待ってなさいッッ!







――終わり――

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