レフト・ユー・ビハインド

懐かしい顔に出会った 目があった

あの顔はよく覚えてる 

あの子の名前は忘れたけれど あの子の声も忘れたけれど

私も 声をかけないけれど


電車の扉が閉まって 駅に降り立つと

夏の日差しが眩しくて 目の底が痛くて

涙が出ないほどに 乾いてしまっては

あとはサラサラ砂みたいに

流してしまえる


歩くホームには 誰も居ないようで

影だけが 

ぞろぞろと ダラダラと 列を作って

私も 

いっそ流してしまえたら


あの顔を見たら 言いたいこともあったのに

乾いた空気に胸がいっぱいで

声も知らない影の後ろを そっと追いかけた


あの子の名前は「友達」

私の名前も「友達」

友達、だった

友だちだったんだ


今もまだ


言えずにいる サヨナラを

どこかに流してしまえるか

気づけば影は とっくの先に小さく消えた

まだ 私は

あの子を あの日に 置き去りにしている

あの子を あなたに 押し付けている

きっと あなたも 忘れたけれど


私も何も言わないけれど






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