女好きの警備員さん
尾形昭
第1話看護師さん大好き
岸田一徳は、帝国大学の警備員である。大学の正門と通用門で人と車の出はいりをチェックしている。おしゃべりで、とにかく、人をつかまえてはおしゃべりをしている。
特に、女性には目が無い。職員であれ、来客であれ、女性と見ると必ず話しかける。
新規採用の看護師さんが来られた。50歳くらいの方であった。褒めて褒めて褒め倒していた。
「美しい」
「きれい」
「魅力的」
「キュート」
「エレガント」
言葉は、いくらでも出て来る。看護師さんは、ホ~ッといい気分になっていた。今までの人生で、こんなに人に褒められたことがないのでしょう。
看護師さんが正門を通るたびに、毎回岸田は20分程、褒めまくっていた。
かく言う私は、巡回の警備員です。住宅地を歩き回って、学生が道路に迷惑駐車をしていないか、調べる仕事をしています。そのために正門を通って現地に行きます。今まで2回、岸田が看護師さんを褒めている現場で立ち聞きしました。
「服装のセンスが良い」
「お化粧の乗りが良い」
まあ、3分も聞いていると耳の後ろがかゆくなる程の、聞くに堪えないお世辞です。
岸田は、毎回毎回言っているのでしょうね。
半年ほどして、住宅地を巡回していると、この看護師さんと会いました。横にご主人とおぼしき人が居ました。
看護師さんが言いました。
「目あわしなや」(大阪弁で「目をあわせるな」と言う意味です)。なぜ、私がこんなひどい事を言われなければならないのでしょうか。私は看護師さんと話をした事はありません。顔もまともに見たことがありません。
岸田と同じ警備員の制服を着ているので岸田と同類だと思われたのでしょうか。失敬な話です。心外です。
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