TAKE2
つまり、真正面からバカ正直に押し入ろうとするのは
ならば、今度はもう少しアプローチを変えてみるか。
俺は再びインターホンを押した。
「誰だ?」
「あんたの雇い主に話がある。内密な話だ」
「そうか。少し待て」
内密な話と聞いて興味がわいたのだろうか。今度はすんなりと中に通してもらえた。
玄関を開けると、出迎えに来た男は二人に減っていた。どうやらいきなり撃ち殺される心配はないらしい。前回はひどい目にあったからな。
「武器はこちらで預からせてもらう。所持品を全部出してくれ」
俺は素直に指示にしたがった。ここで二人を始末してしまうのもいいが……。しかし今回はやめておこう。それよりまっすぐターゲットの部屋に向かったほうがラクかもしれない。まあ武器は失ってしまうが、必要ならあとで敵の物を奪い取ればいいさ。
俺は隠し持っていた所持品をすべて床の上に放り出した。銃やナイフ、手榴弾、閃光弾――自慢の商売道具の数々が、ガチャガチャと音を立てて足元に転がった。
その後、金属探知機によるボディーチェックを受けて、ようやくお
二人の男に前後をはさまれながら通路を進んでいく。玄関ロビーを通り抜け、応接間や書斎、
「失礼します」
そういって先導していた男がドアを開けると、部屋のなかにそいつがいた。ターゲットだ。組織を裏切った男は、満面の笑みで俺を迎え入れてくれた。
「やあ、よく来てくれたね。遠慮せずに掛けたまえ」
ヤツは太い指で俺に椅子を
木製机の向こう側では、ターゲットの男が椅子に座ってこちらを眺めている。かたわらには
つまり、いま俺は
「君のことは知ってるよ」ヤツは親しげに言った。「確かうちの組織で働いている殺し屋の一人で、名前は……えーと……」
「
「なるほど。番号で呼ばれているのか。しかし、それだとなんとなく話しかけづらい。そうだな……。とりあえず今日のところは、
「お好きにどうぞ」
俺は軽く了承する。ヤツはわざとらしく
そのうちの一つをボディーガードが運んできた。俺は黙ってそれを受け取る。むろん飲む気はない。何が入ってるか分かったもんじゃないからな。
「さてと、ジョン。わたしはまどろっこしい話が嫌いでね。駆け引きだとか世間話だとか、そういうのはうんざりだ。だからここはひとつ手っ取り早くいこうか――おい、お前たち! もう下がっていいぞ」
突然の出来事。俺はびっくりしてあやうくグラスを落としかけた。
なんということだ。ヤツは護衛どもを一人残らず外へ追い出してしまった。部屋に残されたのは、俺とターゲットの二人だけ。側近の男くらいはそばに残すと思っていたが――ヤツめ、何を考えている?
あっけにとられている俺を
「まずはこれだ」
そう言うと、ヤツは思いもよらぬ行動に出た。手に持っていた銃を、俺の方に投げて寄こしたのだ。
あわてて受け取ると拳銃はずっしりとして重たい。俺は職業がら手にした武器の
こうなるとますます訳がわからない。いったい何を考えているんだ? 俺は殺し屋だぞ? お前を殺しに来たんだぞ?
「あとはこれも必要だな」
次にヤツは、机の下からジュラルミンケースを取り出した。かなり重そうなケースが、ガタンとでかい音を立てて卓上に置かれた。
「さてと……」ヤツは困惑する俺を満足そうに眺めながら言った。「このケースは君への報酬だよ。遠慮せずに開けたまえ。そしてもし中身が気にいらない場合は――そのときは
なるほど、それで銃を渡したのか……。それにしてもこいつ、異常に
このままヤツを撃ち殺してしまうこともできた。しかしその前に――と俺はケースに手をかけた。ちょっぴり中身が気になっていたのだ。まあ見るだけならタダだしな。それにしても、こんな変わり者がよこす報酬とはいったい何だろうか?
俺は椅子から立ち上がると机の前に行き、ケースを開いた。中身は――何のことはない。ただの札束だった。少しがっかりだな。かなりの金額なのは確かだが、これまでの
「これと同じものをあと二つ用意できる」ヤツは自信満々の様子で、あごの前で両手を組んでいる。「君の才能を独占するには十分な額だと思うが、どうかね?」
「決めたよ」俺の声は自分でも驚くくらい
俺は銃を構えた。ターゲットが目を見開く。俺はヤツを見下ろして、頭部に照準を合わせた。そして――。
銃声。
目の前で木くずが舞っている。
木くず? なんだこれは?――木製机の前部についた
机の内側から外へ向けて、大きな穴が開いた――ってことは、俺は机の下から銃で撃たれたってことか? しかしヤツは机の上に両手を出して座っていたじゃないか。それなのにどうやって?
「不思議そうな顔をしているね、ジョン」床の上に転がる俺を見下ろしながらヤツは言った。「しかし考えてもみたまえ。銃の引き金を引くのは、何も手に頼らずとも可能なのだよ。たとえば、机の下にショットガンをセットして、引き金には糸を引っかける」
ヤツが俺のそばに来てリボルバー銃を拾う。
「そして、その糸を足で引っ張れば――ズドン!」
リボルバーが火を吹いた。俺は足を撃たれた。痛みにうめくとヤツは嬉しそうに笑った。
「君は選択を間違えたようだな。ボスではなく、わたしに付くべきだった」
「地獄に落ちろ、クソ野郎」
「もちろんそうするとも。君が行った、だいぶ後でね」
俺は頭を撃たれて死んだ。
ちくしょう、またゲームオーバーだ!
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