鬱蒼

滝雄然

鬱蒼



ただそれだけでもう深い緑を


重ねては重ね、いっそうに暗くしたかと思えば


風が吹くごとに揺れさざめいて


その濃淡やおおきな輪郭は


絶えず様相を変えている




ただ風のひとつにしても


轟々と音を込めて内巻きあげるものや


ふうっと少女の軽々しい小息のようなものもあるが


しかしこれらがいったい全く独立のものであるとは


どうにも思わせぬ程まで沈黙は喋らない




ただ幽かにも在る夜の木漏れ日が


かろうじて何か切り出そうとするのだが


風はひといきに彼らを破いてしまうので


地面の乾いているか濡れているかでさえも


ついに暴かれたことはないのである




今、この地のすべての生が止んでも


鬱蒼とした樹々だけはただ(在り)


口を噤んで静止したまま


(隠していたものもないので)明かすものもない




それはと言うと、


彼らのおぞましく浮き出た葉脈は、


自由を求める程に絡まり硬化し、


何すらも漉し得難い一面の夜に育って、


もはや根となく幹となく


みんな揃って死んでいるのだ




生という身勝手のために


沈黙すらも叶わず







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